13.第19班の実力①
速度を上げて迫る6頭引きの大型馬車、それを追従する黒装束の集団。
臨戦態勢のそれらは、10人強。
大通り中ほどの第4班も成す術なく侵攻を許してしまった。俺のところまで200
こうなったら……。
「第19班っ! 総員全力で敵を滅するぞっ!」
「はいっ!」
「うすっ!」「おっす!」
「ん~!」
俺の激に各員返答あり。
敵は先頭の馬車を矛にも盾にもして、王城まで黒装束を引き連れて行く気だ。
どんどん近付いてきている馬車の客車には、何人潜んでいるのかも分からない……。
この大通りで食い止めた方が良いな!
「10秒だ! 俺の合図の後、その時間で目処をつける! 双子は客車! ベルジャナとエヴァレットは俺と一緒に黒装束!」
俺の指示に、それぞれの後姿が腕を上げたり頷いたりと反応を示すが、一緒に監視台にいるエヴァだけは俺の耳を劈く大声で返答を寄越した。
「はいぃっ!」
今度はエヴァの声に因る耳鳴りを堪えながら、心を落ち着かせて、集中を深め、魔力を練り上げ頭の中でイメージする……。
「3……2……1……いくぞ! 【時よ止まれ】」
その瞬間、俺を中心に同心円状に時間の止まった空間が拡がり、一瞬で俺の周囲140~50モーテーの時間が止まる。
元から停車している各貴族家馬車の馬も御者も、ピクリとも動かず、瞬きもせず停止。
標的の馬車も黒装束らも。馬などは両前脚を宙に浮かせたまま止まっていたり、1頭は完全に地面から全ての脚が離れた状態で宙に静止している。
しかし、その中で第19班の隊員だけが標的に向かって動き出していく!
エヴァなんかは、既に監視台から飛び降りて猛ダッシュの姿勢。俺も脚に力を込め監視台から飛び出す。
◆◆◆
――俺は魔力属性不明と判別され、衛視隊の交通整理隊エドガー班に配属された。
日々、訓練と業務に追われていたある日、歩道から馬車の前に飛び出してしまった子供を助けようとした時――
自分の周囲の時間の流れが緩やかになったのを感じた。
それはほんの一瞬、1秒も有ったか無かったかだったが、そのおかげで無事子供を救い出すことが出来た。
周囲が奇跡だと騒ぐ中、エドガ―班長だけは俺の元に来て耳元で「お前の“能力”、他の連中に悟られるなよぉ。でも、鍛えておけなぁ」と囁いて、肩を叩いて労ってくれたっけ。
当時は言葉の意味をいまいち理解できていなかったけど、言われた通り周囲に悟られず、20年以上試行錯誤を繰り返し鍛え上げてきた。
◆◆◆
10秒だけ時間を止める。
この結界が張られた王都内では、それが今の俺の限界だけど……ここには俺だけじゃない!
サンド、ポルト、ベルジャナ、そしてエヴァレット。
彼らがいるから、何とかなるはずだ。
まず双子の大男、サンドとポルトが揃って馬車に向かう。
◆◆◆
――二人が交通整理隊に“堕ちてきた”のは12、3年前。
その体格に加え、魔力属性が水と風で保有魔力量もそれなりにあった二人は期待され、“上”の衛視隊に配属された。
だけど、いくら頑張っても使えるのが小雨とつむじ風。
『性格(性別?)に難あり』の判定をくらい、二人の服飾店を開くという夢も散々馬鹿にされて、心身ともにボロボロの状態だった。
それもエドガー班長が「なら、その体格を活かしまくればいいじゃないかぁ。服も作りたいだけ作ればいいじゃないかぁ」と伝え、二人も吹っ切れたように息を吹き返したっけ。
◆◆◆
サンドが馬と客車を繋ぐ
これで馬と客車を切り離せた。
二人はそのまま客車の前方を左右に分かれて、掴み止める格好になり、この後に来る衝撃に備える。
もうすぐ10秒。
ベルジャナも距離はちょっとあるけど、いい位置に陣取った。
エヴァはもう黒装束を視界に捉える位置までいき、剣も抜いている。
俺は……まだ距離がある。
……エヴァが早すぎるだけ!
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