第7話 新たな出会い3

 僕が騎士学院に入学してから一週間が経った。

 この一週間を経て僕も大分この新生活に慣れてきてクラスのお姉さん達とも普通に話せるようになってきた。


 午前は座学、午後は実習を行う騎士学院。

 初めの内は周りが自分より一回りも年上なので授業、特に座学で進行についていけるのか不安だったのだが実際講義を受けてみると問題無かった。


 大体は世界や各国の歴史についての軽い勉強と、戦術等の兵法の勉強が主に行われているのだが、幸いというべきか僕は小さい頃からじいちゃんに読み書きと勉強を鍛冶の修行の合間に教えられていたので何とかついていけている。


 問題なのは午後からの実習の方だ。

 ここは騎士学院。

 それも王国のアルテミス騎士学院といえば世界でも有数の名門騎士学院だ。


 当然そこの生徒達のレベルは相応に高い。剣の技術然り、魔力の扱い方然り。

 このアルテミス騎士学院に通う生徒の七割強は幼少期からそれらの鍛錬を行って来た貴族の子女だ。


 加えて僕は男とは言え十二歳、周りの女子生徒は十五歳から十八歳で、僕は年齢の割に小柄な方なので体格でもかなり負けている。


 剣の技術、魔力の扱い、そして体格。この重要な三要素で彼女達に劣っている僕が実習の授業についていくのは中々骨が折れた。

 ただ、最近は少しずつだが実習でも周りのお姉さん達に剣技で食いついていけるようになってきた。それも全てリディアさんの稽古のおかげだ。


 この一週間、僕は毎朝リディアさんに剣の稽古をつけてもらい、リディアさんの時間がある日は放課後も僕の鍛錬に付き合ってくれた。並行して走り込みや筋トレ等もリディアさんに言われて始め、心なしか筋肉がついてきたような気がする。


 そのおかげで僕は村正流の剣技を使わなくともある程度剣を振れるようになってきたのだ。


「うん、やっぱりシンは筋がいい。私が教えたことを実践できてるし、素直に私の意見を取り入れて自分の剣に取り込む器用さがある」


「あ、ありがとうございます」


 まるで自分のことのように嬉しそうに笑みを浮かべ、剣を鞘に納めるとリディアさんが僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。


 こんな風にリディアさんが褒めてくれることは今までなかったのでついつい嬉しくて頬が緩んでしまう。


 今は実習の時間。E班は僕とリディアさんの二人しかいないので、実習の時間も殆どは朝の鍛錬の延長線のようになっている。

 ただ、今日は普段と違うようで前半はいつもどおりの班内での打ち合い等、基礎練習を行い、後半は一度全員集まってエヴァ先生の指示を聞くようにとのことだった。


「もうそろそろ時間だ。私達も戻ろう」


「はい」


 訓練場の各所から中央のエヴァ先生の元に生徒達が集まる。全員が集まるのを確認してエヴァ先生が話を始めた。


「これまでは身体能力だけの基礎中の基礎の実習をおこなってきたけど今日からは本格的に騎士シュヴァリエとしての鍛錬に移っていくわ。それじゃあシン君、騎士シュヴァリエの特徴と言えば何かしら」


「えっと、騎士シュヴァリエは体内の魔力を扱って身体能力を強化しながら、魔力を練って魔法を扱い、魔力によって強化された剣技を扱えるところ……ですか?」


「答えとしては七十点ってところかしら。それじゃあ同じE班のリディアさん、分かるかしら」


「……それらに加えて魔剣を扱える点ですか?」


 魔剣……。

 懐かしい響きだな。


 ただ、リディアさんの回答に先生は首を捻った。


「確かにそれもあるわね、ただそれを加えても八十点。正解はその力の矛先が常に悪に対して向けられるという点よ。騎士シュヴァリエは正式に国に認められた国と民の安寧を守る者。その力が私利私欲の為に振るわれることがあってはならないの。私利私欲の為に騎士シュヴァリエが力を振るった瞬間、その騎士シュヴァリエ堕落者フォールンとなるのよ」


 確か座学の授業で習ったな。十二英傑ラウンドを模した騎士シュヴァリエ十二英傑ラウンドがそうしたように、人々を守護する者でなくてはならないと。


「まあそれは置いておいて、今日からは魔力を扱った授業をしていくわ。魔力は扱い方によって非常に危険なものとなりうるもの。だから初めの内は私の許可なしに学園内の私の目の届かない所で魔力を扱うことを禁止するわ。もしこのルールを破った者がいた場合、良くて停学処分、酌量の余地が無いと判断されれば即刻退学となるので注意するように」


 停学に退学。重い処罰のようにも思えるけど、それほど魔力というものの力が強大であるということなのだ。


「それではまず、今日は魔力を使って全身を強化する基礎中の基礎、身体強化フィジカル・ブーストを行ってみましょう。まず、体内を流れる魔力の流れを意識し、次に全身を流れる魔力の循環を早めるイメージを持つ。簡単なように聞こえるし、実際に騎士シュヴァリエが扱う魔法の中では最も簡単なものだけど初めて魔法を使うのはかなり難しいことよ。中々魔力を感じることが最初は出来ないものなの」


 え、先生は何を言ってるんだろう?


「エヴァ先生」


「ん? どうかしたのシン君」


「できました」


「え?」


 半信半疑といった顔で僕の方に近寄ってくるエヴァ先生の前で実践する。

 まず、全身を流れる魔力の流れに意識を向け、次にその流れを加速させ、体内を高速で循環させる。


「これは……本当に出来てるわ……。凄いわね、こんなにも短時間で習得してしまうなんて。それにその光を持った髪の色、効率よく魔力を循環出来てる証拠よ」


 髪の色? 訓練場の端にあった鉄鎧に反射した自分の姿を見ると、男にしては長い髪を後ろで一つに束ねた僕の金髪が全体的に光を帯び、髪の周囲に黄金の火の粉が舞っているように見える様は髪全体が黄金の炎と化したみたいだ。


 凄いとエヴァ先生は褒めてくれたが、僕の隣のリディアさんにも出来ていた。リディアさんの元々の黒い長髪の中に映える紅いメッシュとインナーの部分が血のように朱い光を帯びている。


 ただ、他の生徒達に目を向けると確かに出来ている生徒は六、七割程度いるもののうっすらと光を纏っている者が殆どで、これほど鮮やかに髪に魔力の影響を受けているのは僕とリディアさん、それからアイラさん、そしてネモさんの四人だけだった。


「凄いわ、半数以上が身体強化フィジカル・ブーストを初回から扱えて、尚且つ四人もそれを高度なレベルで扱えてるなんて。今年の一年生は粒揃いみたいね」


 魔力を扱うのってそんなにも難しいことだったのか……。


「口を開けて随分間抜けな顔してるぞ」


 リディアさんに指摘され思わず口を塞ぐ。


「え!? 僕そんな顔してました?」


「ああ。それにしてもまさかシンがここまで魔力を扱えるとは知らなかった。どうして私に教えなかったんだ?」


「え? 今まで聞かれなかったので……」


「はぁ……。まあいい、お前が魔力をそれだけ扱るならお前の特訓の仕方も少し変わってくる。今日の放課後何か用事、あるか?」


「いえ、大丈夫です」


「そうか。なら今日の放課後に第三訓練場で特訓だ。剣の鍛錬と並行して体力作りもここ一週間でやってみたがかなり効果が出てるみたいだからな。魔力をそこそこ扱えるようだし今日からはこれまで以上に激しめに特訓にするから覚悟しておくように」


「は、はい……」


 これまでの稽古もリディアさんは毎回僕の限界ギリギリのレベルで調整して鍛錬を行っていたのでかなりきつかったのだがそれ以上って……。

 想像もつかない。でも今考えるのはやめよう。なんだか考えると胸が苦しくなる。


 そんな会話をリディアさんとしていると、アイラさんとネモさんがこっちのほうにやってきた。


「やあやあシン君! シン君って魔力の扱いが凄い上手なんだね~。凄く綺麗な色してる! それに金色なんて初めて見たよー」


「アイラさんこそ綺麗な桃色をしてるじゃないですか」


「私はシン君に比べればまだまだ。それに私よりネモの方が綺麗だよ」


 アイラさんの髪が桃色に発色しているのに対し、ネモさんは暗い青色の光をしている。神秘的なその青さに思わず引き込まれそうになる。


「確かにネモさんの髪も綺麗な色ですね」


「でしょでしょ!」


「二人共やめて。そんなに褒めても何も出ないから」


 照れ臭そうに前髪を触るネモさんの仕草は可愛らしいものだった。

 二人は仲が良く、よく一緒にいるところを目にする。


 活発で社交的な性格のアイラさんと、落ち着いていて思慮深いネモさん。

 全然性格の違う二人だけど小さい頃からの付き合いで今でも仲が良いのだという。


「リディアさんの髪もすっごく綺麗! ね、ネモ!」


「え? う、うん。燃える炎みたいに赤い綺麗な色だと思う……」


「ふん、別に世辞はいらないぞ。……だけどまあ、なんだ。ありがとう」


 少し照れ臭そうにお礼を言うリディアさんは普段見せないギャップも相まって余計に可愛く見えてしまう。


 リディアさんはこれまで壁を張るようにクラスメイトとの交流を断っていたが、僕と居る機会が増えたせいで必然的に話すことも増えた。

 そうしてクラスメイトと話しているうちに少しずつだが前に比べて話すようになったとアイラさんから聞いた。


 僕が来る前までのリディアさんは本当に一匹狼といった様子で、誰とも会話せず誰とも関わろうとしなかったらしい。

 加えてリディアさんが入学早々に起こしたとある事件も皆がリディアさんを怖がってしまう原因になったのだとか。なので、一番初めに僕がリディアさんと話している姿を見て皆驚いていたという。


「あ、もうすぐ実習も終わりみたい。それじゃあまたね!」


「はい」


 アイラさんに手を振り返すと僕もリディアさんと一緒に第三訓練場を後にした。


「それじゃあリディアさんもまた後で」


「ああ。また後でな」


 ♢


 午後の実習も終わり、着替えを済ませた後に再び第三訓練場に向かうと既にリディアさんの姿があった。


「来たか」


「すいません! お待たせしました」


「いや、私も今来たところだから大丈夫だ」


 鍛錬前の柔軟を二人でおこなっていく。最初はリディアさんとの距離が凄く近く、近くによるとふわっと舞うクロエさんとはまた違ういい匂いと、密着するその鍛えられた出るところは出て、絞られるところは絞られたしなやかで破壊力絶大な身体に思わず声をあげてしまっていたが、今では何とか堪えられるようになってきた。


 それもリディアさんに真面目に柔軟をしろと怒られたというのが大きい。

 柔軟を怠ると筋肉や筋を痛める恐れが増え危険であると言われてしまったからだ。それからは凄くドキドキするが心を無心にするようにして柔軟に集中している。


 開脚した僕の身体を後ろから押しながらリディアさんが話しかけてきた。


「さっきの実習で実際に見たが、どうしてそんなに魔力を上手く扱えるんだ? 私がお前に初めて剣を教えた時も確か粉々に散った剣の欠片から魔法で再錬してただろう。これまで私もかなりの魔法を見てきたがあんな風に魔力を扱うのは初めて見た」


「うーん……。僕は小さい頃からじいちゃんに鍛冶の技術を教えてもらっていたんですけど、その中で魔力の扱い方も教えて貰ったんです。魔力を上手く扱えばより良い剣が打てるって。ただ、そのためには繊細な魔力操作が要求されて……。そのおかげですかね?」


「なるほどな。よし、柔軟はこんなものでいいだろう。まずはシンがどのくらい魔力を扱えるのか見せてもらおうか」


「はい! ご指導よろしくお願いします!」


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