82.スクエア トライアンフ
大陸暦1514年8の月(10月)、ミデティリア帝国首都マナカの郊外、護児国大使館を含んだ「御座所」に隣接して、広大な大陸大学が開設された。御在所周囲に外堀が設けられ、その中に大学の各学部が建設され、駅に最も近い部分に総合学舎が帝冠様式で建設された。
大陸縦線・御座所駅前という事もあり、ドワーフの里から、護児国から、ダキンドンから、フロンタから、そしてお膝元のミデティリアから、多くの学者が、学生が集まった。
近年の動乱や戦争で放棄された城館、大聖堂や司教館から書物が集められ、それなりの蔵書を得た。守旧派貴族粛正の際護児城に寄贈された書物からも、大学に必要と思われるものは寄贈した。
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その翌月、冬ごもりを前にした日。
ダキンドンは歓喜に包まれた。
聖女王オーテンバーが、ミデティリア帝国第七皇子ロボシと婚姻の儀を挙げた。城からも首脳陣が参列し、祝福した。
礼拝は、聖女王によって総本山の混乱を救われ、イテキバン防衛戦争を共に戦い抜いた教皇ディグニ49世が挙式した。
久々の晴れの場、食事会にステラも参加し、笑顔で女王に「御目出度う御座います!」と挨拶した。
女王の婚礼とあって最上級の格式に拘っていたので、窮屈だったかもしれない。
「ステラ王妃!有難うございます!貴方達との出会いが無ければ、今この祝の場はありませんでした。
命を救って頂いて、私達に進むべき道を示して頂いて、本当に、有難うございました!」
「いえ…それは御屋形様がした事で、私は何も…」
「ステラ様。私は、貴方も、アンビーさんやウェーステさん、プリンさんやオイーダさん達が一生懸命子供達に尽くし、幸せに暮らす姿に学んだのです。
こうならなきゃ、王国も、他も国もこうならなきゃって。だから、本当にありがとう。幸せになって下さい」
恐らくこの時、ステラは、かつてコンクラベ師に「幸せになりなさい」と言われた事を思い出していたのだろう。暫く、考え込んだ。
「御師匠様!」と王配となったロボシ君がからかい半分で礼を述べる。
「ヤメテー!」なんか本当コイツキオミーに似てるんだよね。
「うれしいね~遥か昔とは言え我が帝国から分離したダキンドンとの婚姻がこんなにハッピーな感じってのは!」キオミーが軽いノリで話してきて、第一皇妃は満面の笑顔で隣に控えている。
因みに護児国の席だけ数が多い。なにせ王妃10人+ミナトナ代表プリンとニップが来ている。相変わらず二人は衆目を集めている。主に胸元に。
「儂等の目が黒い間は大丈夫かもな、大陸大学」とフロンタ国王エンタもフランクに応じる。もう国際会議はこうでいいんじゃないかな?
「ドワーフの匠達にも学び直させ、叩き直して技を極めさせよう。時に酒造学というのは無いのか?」満面の笑顔でお義父さんも語る。
「酒は各国の主要な商品です。発酵の仕組みも護児国のモネラ様が説明されています。学問として整理するのも必要でしょう」とロボシが返す。
「魔物に喰い殺されそうになった後、助けられ温泉で癒され、飲んだあの泡の味は、未だに忘れられませんわ…」うっとりと話すオーティ。あの時は大はしゃぎだったなあ。
「わたくしも大陸鉄道で海を眺めながら飲んだシャトー・ティーグは忘れられませぬ」何かフォローしてくれたフロンタ王妃。
「我が娘ワダムアンビーの愛飲家はおらぬか」
「おらぬかどころではありませんよ!帝国で在庫が薄くなる度にドワーフだけでなく人間の匠達も大騒ぎです。皆マダムアンビーの虜です!マダムアンビーにメロメロです!」
「ぬうう、恥ずかしい限りじゃあ」真っ赤になってるアンビーの肩を私が抱くと「誰の所為じゃと思っとんかあ!」怒られた。
皆が笑った。オーティーも、ロボシも、各国の元首も教皇や司教も。ステラも。
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聖女王婚礼の報せは王国中に笑顔を、歓喜を、歓声を、そして乾杯を齎した。
聖女王夫妻、いや、「聖女とその夫」は国内各地への巡礼を始めた。
そのお題目は…『隣国を無人の地にする程の壊滅的な戦争を回避させ、今の幸福を齎してくれた神への感謝』という名目だ。
女王としての行幸ではない。もしそうすると、各地の貴族は慣例により、王家相応の饗宴を催す必要がある。それを全国で行ったら…折角戦争の被害を最小限に抑えたのに、女王自らが各領に散財を強い、国土全てを疲弊させる事になる。
なので、全て自前が前提、貴族の招きを断っての旅となる。警備は大変だ。もしイテキバンの残党などが潜んでいたら暗殺一直線だ。
「なんでヨロシク、師匠」こらロボシ。
「帝国にだって腕利き居んだろ」
「もう帝国じゃないしー。それに万一に備えて、ですよー。
自分を愛してくれた女を見事に振った餞として、どっすか?」
どっすかじゃないよ。断った。ずっと見守ったけど。
このニヤけたイケメン王配に気圧操作で雷落としちゃろかって思ったけど、その必要はなかった。
聖女の巡礼は、イケメン辺境伯リベラ卿の領都ガーディオンを始めとし、逆時計回りに各地の大聖堂を、そして孤児院を回るルートを取った。
あくまで巡礼なので、その地の領主や貴族が同席しても、一緒に礼拝を授かった、という体である。
更に礼拝後に聖女、領主、貴族、有力平民や庶民の持ち寄りで、大聖堂の前で非公式な宴が開かれる事になった。この辺の調整は事前にロボシが済ませていた。流石だ。
かつて王女だった頃と同じ様に、各地にオーティが芋の調理や手洗いを広めた時と同じ様に、誰もがオーティーと一緒に、飲んで、食べて、笑っていた。その時小さかった子供も、もう成年になっている。
もう、あの頃王国を覆っていた不安な空気は無い。疫病の脅威も、異国からの侵略も去った。帝国皇子との婚姻という慶事に皆が笑顔に包まれていた。
無論女王夫妻の周囲は各領主がガッチリと、さりげなくガードし、かつての様な気安さはない。しかし。
「喜べ今日ぞ、この実り。神の賜いし日々の糧!」
時折典礼の歌声が上がれば、オーティーが立ち上がり歌に続く。
「慈しみ深き我らが主、我等を満たし守り賜え!」
更に領主や護衛も続き、周囲の平民も共に歌った。
こんな姿は、今までの大陸には無かった。無かった筈なのにロボシ王配もノリノリで歌ってる。
ああ、この青年は学生時代にこういう平民も貴族も皇族も関係ないノリで宴会してたんだな。きっと親父のキオミーもそんな青春を送っていたんだろうな。
リベラ卿も、レンドリー卿とその妻、そして大きくなった自慢の子供達も笑顔で歌っていた。
「レンドリー、お前があの時ウェーステ王妃を捕まえたり斬ったりしてたら、俺達みんなブツブツ塗れで死んでたなあ!」
「何を!卿こそ『これ以上何もせず黙っている者は屍と同じだ!共に立てー!共に戦えー』」クーデター決起の檄が。
「もーいーだろーよー!」「いやいやこれは歴史に記されるべき名言だぞー!」背後で収穫の歌が沸き起こった。
「何それkwsk」ロボシが辺境伯に食い込む食い込む。大陸の歴史がまた1ページ。
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かつてリベラ卿と同調した北部貴族同盟は、ここまでではないものの、暖かく歓迎してくれた。
共に礼拝し、庶民と共に飲み、食べ、歌い、祈った。
しかし、オーティは表面的な大聖堂への巡礼だけでなく、「私は孤児院の子供達にも救われたのです。こちらの孤児院はどの様でしょうか」と視察を希望した。
北部貴族達は、事前にリベラ卿から「子供達蔑ろにしたら首が飛ぶだけで済むと思うな」とビビらされていたので、臆す事なく案内した。
リベラ卿だけでなく北部貴族達は、南部のオレンジャー卿や兵站将軍のロジス卿、東部で奮闘したブコー卿に負けない様に、領民子女教育、孤児院の整備、そして都市衛生に出来るだけの投資をしていた。
更には、大陸縦線から分岐し、ダキンドン北部領群を結ぶ街道の拡張を密かに企んでいたのだが…
聖女巡礼がその役割を成し遂げてくれていた。聖女に同行する魔導士の群れが土地の均質化、地慣らしやトンネル掘削の目途を立て、西へ向かう道を模索した。トンネル掘削の時は協力しよう。地下水脈に突入しない様に。
そしてダキンドン国境西で南下し、かつて王国に敵対したり日和見していた、割と裕福な貴族領に侵入する。
アウェイの地の筈だが、民衆は歓喜して聖女様を歓迎した。重税を課したり少女達を誘拐し凌辱した悪質な貴族や司教を追放し、食生活を豊かにしてくれたオーティは、貴族達にとっては凶悪な審判者であり、民衆にとっては文字通り聖女だったのだ。
ここでも新聞は威力を発揮し、北部貴族領での巡礼同様、南部貴族もオーティと共に礼拝と宴を共にする事を強いられた。
その所為か、南部貴族と女王の親密度も宣伝され、迂闊に舐めた態度を取れば「世論」という第三の権力からの攻撃を受け、抗えばこの世から消えた守旧派同様の運命を辿る事になるだ。
貴族達には、普段見る事のない庶民たちの熱気、聖女王オーテンバーを歓迎し讃える熱気が、もし舵取りを間違えたら自らを血祭りにあげる暴力の洪水、そう見えたのである。
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北部の孤児院の様子は中々に整備されていたものの、より収穫量が豊かな筈の南部に行くと。
その劣悪さに一行は顔を顰めた。
南部貴族は教会と女王の指示で孤児院改革を行ったとは言え、その実態は「人身売買の禁止」「教育方針の均質化」といった大枠しか守られていない程度であった。それ以外の生活環境は改善されておらず、臭く、汚いものであった。
やはり、南部の領主や教会は孤児達を「自分と同じ人間」とは思っていなかったのだ。
オーティーはにこやかに「みんな、おうちを綺麗にしましょうね」と、自ら率先して掃除を始めた。
あの時、城の子供達が率先して動いたのだが、その話に感激したのだろう。聖女王自らがその手で掃除を始めた。食堂、調理場、寝室、そしてトイレ。
巡礼に同行した近衛騎士、かつてともに魔の森への行軍に付き添った女性たちもそれに従い、その姿を茫然と見ている孤児院の子供達に「みんなのお部屋を綺麗にしないと、これから寒くなって病気になっちゃうわよ?」と参加を促した。無論、王都各地で上下水道の整備を指導していたロボシも。
随行する近衛や魔導士達も、こうなる事を前提に簡易水道やポンプを事前に用意しており、子供達の衛生向上に尽くした。
この行為を後で知った貴族や司教達は「王女に便所掃除をさせてしまったー!」と驚愕したが、何もできずに慌てるだけだった。そして「次になんかやらかしたら敵視されるー!」と怯えた。
いや、もうある程度見限られているのだが、それを理解できる様な頭が回る者は、とっくに孤児院や都市衛生に着手していたのだ。
それこそが、生活に苦しく自ら努力する必要があった北部貴族と、天候に恵まれ頭を働かせる必要がなく腐敗の温床になってしまった南部との差だった。
その差に対する評価が、ダキンドンとフロンタを結ぶ新たな動脈、大陸中横断鉄道のルート選定となって、数年後に表面化することになるだろう。
一見敬虔な聖女王の、世間知らずの巡礼行幸。その正体は、各領地経営のチェックと、新交通ルート選定という実に政治的な裏があった。
かつてこの提案をテイソ卿のテストの時に奏上したロボシ殿下も、感心しつつ「だからって何で俺迄便所掃除しなきゃいけないんだ!つかこれ掃除じゃなくて工事だろが!」と心の中で何度もツッコミつつ、何度も子供達のため便所や風呂を新しく作り直したのであった。黄綬褒章は君の物だぞロボシ殿下。
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聖女王の巡礼の旅について様々な報告が王城に、駐ダキンドン大使館、シャトー・ダキンドンの王城と鉄道駅の間に建設した「道守城」に寄せられた。
この名は、シャトー・ダキンドンへ続く街道の守りに協力すると言う意味で提案した所、オーティーから「素晴らしいですわ!人の道、世の中のあるべき道を守らせる、その様な場となるお城を我が王都の近くに築いて頂けるなんて!」と有難~くも拡大解釈されてしまって決まったものだ。
この城…と言っても帝国の御在所同様、方形の小城であり御殿等の文化施設、宿泊施設+α程度の城である。
正面は江戸時代、伏見城を破壊した後に城下町に構えられた「伏見奉行所」。
街道に面した両端に三重櫓を設け、正面に楼門を構えた、奉行所という名の城みたいな陣屋みたいなものをモデルにした。内部の御殿は例によって豪壮に仕立て上げられていた。
天守どうする?って聞いたら「私達はいつでも護児城の立派な天守を眺めに行けます。この地には豪壮なものではなく、国王様が必要とお考えになるものがあれば充分です」と新井白石みたいな事を言ったので、四隅に三層櫓を建てただけとした。
それだけだとちょっと寂しいので、坤(南西)櫓だけ一層と二層を内部二階で比翼入母屋破風を、三層目には唐破風を頂いた出窓を設け、福井城巽櫓風に仕上げ、天守替りとした。これもう天守でいいんじゃね?
これでダキンドン、ミデティリア、フロンタの王都に、随分と個性的な護児国大使館というか出城が出来てしまった。
どこも観光名所として訪問客でにぎわっている様で何よりだ。大使館がそれでいいのかとも思うが、これも文化交流。これでいいのだ。いいのか?
その奥を大使館とし、アンビーが北方巡回鉄道の設計を、モネラが各貴族領の衛生計画を立て、ダキンドンの宰相がその設計に可能な限りの注文を付けていた。
モネラは城の病院と道守城、そして帝都の大陸大学となった御座所を鉄道で往来し、その彼女をダキンドン王都の騎士フラーレ君が守っている。王女の護衛として巡礼に同行している近衛騎士団とは別命を受けているのだ。
時には相談役となり、時には雑用係も引き受け、それは傍から見てても健気で、忠犬の様にガンバっている。
更に各地のローカルな事情を「この地は夏は非常に蒸します」「この地は南方なのに山が近い所為か雪が降り往来に難渋します」等と情報を呉れる。
王都では知る人が少ない情報だが、騎士修練の際に各地の出身者から聞いた話を書き留めていたそうだ。
「モネラ様はきっとその地の人々をお救いになる」と説得して集めた情報だったそうな。
「見どころのある青年じゃの。城の子と目つきが似とんで」とのアンビーの評価に、「あの子は汗臭いけど一途ね。ダン君と似てるかも」とのマギカの評価に、「よかった。お墨付きが頂けた様です」と満面の笑顔のモネラ。
つい私もアンビーもマギカも「これはいよいよ」と顔をニヨニヨと崩してしまう。
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「このブコー伯爵領からの報告が最後となります。間もなくオーテンバー女王陛下は御帰還遊ばされます。
これから先に必要なのは、衛生意識の低い貴族領への定期的な偵察かと存じます。しかしそれは我が国の問題となります」
護児城の御殿ではなく二之丸月見櫓を貸し切り、モネラはフラーレ君と食事していた。
今までの護衛への返礼、とモネラがフラーレ君を招いた、二人だけの夕食会だ。
鎧姿ではなく、騎士の礼服を着込み、剣を腰に付けたフラーレ君に、ちょっとおしゃれなドレスのモネラ。
櫓の中を、夕陽が照らしていた。冬の早い落日の中、櫓の中は暖房で暖かかった。
「元々私もダキンドンの子。助けるのに国の違いを気にする事は無いわ」
「そのお志も美しい」おお、そんな気障な口が利ける様になったか。あたたたって言ってた頃より仲良くなったもんだ。
「…恥ずかしいよ」夕陽と紅潮でモネラは真っ赤だった。
「これで色々落ち着くね。御座所の大学も、鉄道であっと言う間にいける」
「魔の森と、王都と、帝都。こんな早く行けるなんて、夢みたいだ…はっ!みたいです!」
「いいよ、私も貴方も、平民で孤児。上も下もない。同じ、寂しい孤児」
「もう、寂しくはさせません」フラーレ君は席を立ち、モネラに跪く。
「私は、生涯貴方を守ります。私を、貴方の傍に居させて下さい!」
フラーレ君は剣をモネラに差し出した。
モネラは少し考え、剣を受け取った。
「私が欲しいのは、ずっと一緒にいてくれる人。昼も夜も。下にいるんじゃなくて、隣で、同じ人としていてくれる人」
「わた…俺は君を、愛しています!」跪いたまま、彼は真剣な瞳でモネラを見つめた。
「うれしい…とっても、嬉しい!」モネラは剣をフラーレ君の肩に載せ、
「汝は、我が騎士として、夫として、私とともにある事を誓いますか?」
「誓います!」
「貴方を、私の騎士と、夫と認めます。誰が反対しても、二人で一つです、ね?」モネラは微笑んだ。
最後の「ね?」に、彼はヤラれた。そして、彼女を抱きしめた。
******
女王の帰還を祝う席を前に、二人の決意を私達は聞いた。
「よかったわ、素敵!幸せになって」とステラはモネラを抱きしめた。
「バッチリ決めた様じゃの?」とフラーレ君をからかうアンビー。
「思う一念、岩を通したな!それでこそ騎士だ!」と騎士先輩のクッコ。
「嬉しいけど、何か寂しくなっちゃう気がするわ」とモネラの師であり出来の悪い姉であるマギカ。
「ありがとう。みんな、ありがとう」ステラの肩で泣くモネラ。
彼女を小さい頃から育てていたミナトナ達も、姐さん組も「おめでとう!」とエールを送った。
この後女王が帰還し、祝典が行われた。
その後にフラーレ君が騎士団の辞職とモネラとの結婚を上司に申請し…忽ち女王の耳に入った。
「正しく美しい心を持った、護児城の子と王都の子が将来を誓ったのです。私は心から祝福したく思います」と優しく同意してくれた。テイソ卿も、隣で頻りに頷いている。
というか有能とは言え一介の新人騎士が最重要国の天才少女の護衛にずっとついてる事自体、オーティーの粋な計らいあっての事。フラーレ君の上司たる王都騎士団長も常々女王に異例の指示を受けているので、この結末に納得した。
「但し騎士としての誓いは軽くありません。彼にはあくまで王国の騎士として、友たる護児国の重要人物を守る任務を生涯に亘って与えましょう、かしら?」
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聖女王の婚礼に続く行幸完了と、色々な祝典が終った。王都の平民街の居酒屋に、二人はいた。
「いや~、なんつうか、お互い上手くいったなあ!」とロボシ。
「殿下こそ、おめでとうございます」とフラーレ。
「止めろ他人行儀だぞ」「お許しください」「『生意気な~』とか言って他国の皇族をボコボコにしようとしてたエラそうな奴はどこ行ったぁ?」「ご容赦願います」「似合わねぇって。タメでいいよ」
「私には守るべき妻が出来ます。彼女の為にもあの様な生意気は…」
「お前は生意気でいいんだよ!」「はい?」
「あの生意気で突っかかって来る感じ。それがお前だ。どうせ一直線で当たってたんだろ?あの天才少女にぃ?」ロボシ、ネチっこいなあ。
「うるせぇ!」「それそれ!それがいーんだよ!」「何だよそれ!」
あの生意気な少年達、いや若者達は、今やそれぞれ想い人と添い遂げ、新たな人生を踏み出したのだ。
皇族と平民が仲良く飲んでいる姿に、新しい時代の訪れを感じた。
後日、フラーレ君の辞表は却下され、替わって騎士爵へ叙爵され、護児国から大陸大学の護衛の任務を命じられた。もうフラーレ卿だなあ。
二人は女王の祝福を受け、騎士団の同僚たちが高く捧げた奉剣の下をくぐり、まるで結婚式の様に見送られ護児城へ向かった。
そして、護児城、南之院で挙式した。
今や城ではすっかり定着した純白のドレスに身を包んだモネラは、今までで最も美しい笑顔を振りまいた。
「くやしー!また先越されたー!」「あんた選り好みしすぎよ」「ウキー!」オーリーが騒いでいたけどそっとしておこう。
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