異世界に天守を上げよう!~追放された子供達と魔獣の森でのんびり?生活~

インカ金星健康センター

第一部・運命の序曲 イニロトナスへの道

01.見知らぬ森に追われて

 ここはどこだ?

 住み慣れた土地を離れ旅に出た、と思ったら靄に包まれ、気が付けば、森の中。

 木漏れ日から射す太陽の光は・・・2つあった。「デ〇イヤ星か?」


 さっきまでいた世界・・・世界と言うより惑星とは違う場所だ。

「またか。」


 そう。

 私、いつの頃からかタイムと名乗る様になった中年男はいくつもの世界をひたすら渡り歩いている。

 ちょっとした異世界転生のヘビーユーザーだ。

 自分の意思ではなく、誰かが面白半分で弾き飛ばしているのか、何かの意思があってお引越しさせてくれているのか解らない。

 そもそも「あなたはこの世界を救いなさい」とか言い出す光る神様みたいなものには一回も会ったことが無いし、今まで歩き渡って来た世界の宗教は全部違うものだった。


 周りを見渡せば、頑丈そうな樹々に囲まれた、深い森の中。

 体を包むのは、肌寒い風。雪の降った後が見えないという事は、これから冬になるのか。

 まずは落ち着く場所を決めよう。


*******


 私は、異世界を渡り歩いている内に、空間を移動したり操作する事が出来る様になった。

 自分を移動させるだけでなく、他の物体も、空間そのものも移動させる事が出来る。所謂チートだ。

 しかし、世界を跨いで移動した場合、元の世界には戻れない。元居た世界がどこにあるか判らないから移動し様がないのだ。これが唯一の欠点か?

 まあ毎度の事ながら悩んでも仕方ないので森上空に向けて飛び上がる。


 周囲はひたすら森だった。

 しかし地面を離れて周囲を見ると、直径数十キロを山で囲まれており、その外周北側に山が聳えている。南端は山脈が途切れている。多分これはカルデラだろう。

 地球の箱根や阿蘇山みたいな古代の巨大火山が爆発して中心部が吹っ飛び、外周部が釜みたいに残った地形だ。北にある大き目の山がかつての火山の名残りの死火山だ。


 森の東側に川が流れている。

 北の山脈の山頂は雪を頂いているので、その雪解け水が川になり、外輪山南端、外輪山が崩れて出来た谷間から外部に注いでいる様だ。そのさらに向こうは堆積物が流れ出た扇状地になっているのだろう。森が外輪山の外に続いている。

 カルデラの東部に小高い丘がある。

「ここをキャンプ場、じゃなくて築城地とする!」と宣言し、やる気を鼓舞する。


 そう、我が趣味、日本の城を!


 かつて異世界を転々とした、というよりさせられた腹いせに、中世ヨーロッパ風の世界に似つかわしくない日本の城を築いてやったのだ!

 戦国末期から近世初期に日本各地で上げられた、天守を中心とする近世城郭を、この世界でもあちこちに築いてやろう!

 おまけに城の周囲に城下町&社寺仏閣も建立しよう!とはいえ仏教や神道を信仰している訳ではないので、建物は和風というか唐風で、内部は現地の宗教を尊重しよう。なお私は南蛮伝来の宗教の信徒だった。


 とはいえ城なんていう物は天守をボーンと上げればいいものじゃない。

 というか城にそもそも機能面から言えば天守は要らない。大事なのは居館、行政建築、そしてそれを守る防御施設である土の壁か石の壁、掘、出入り口である門、遠くを見張る櫓。

 なにより今は寝床と風呂が欲しい。


 頭の中で築城プラン、城下町作成プランを大雑把に考えるも、先ずは今夜の寝床だ。

 空間魔法で丘の樹々をスパっと大切断。地面から数10cm目安に、殺獣メーサー光線宜しく巨木をズバーっと切り裂き、倒した。丘を二段重ねのケーキの様に整え、切断した木は枝や皮を切り、山頂に積み上げる。

 この樹木、凄い硬いな。多分普通の人、普通の鋸では斬れない。おまけに燃えない。腐らない。相当高級な木材だ。良い建材を手に入れたぞ!

 巨木であれば切り株もデカイが、空間魔法でポンポンと抜き出し、上から強力な圧力を掛け、整地完了。


 禿山となった丘の最上段、本丸予定地の北側に、中規模の御殿建築をイメージする。毎度の事ながら自然破壊もいいとこだ。

 イメージするのは・・・過去地球は日本のとある世界にたまたま飛ばされた時、タイムトラベルしてコッソリ見学し、その構造を頭の中に叩き込んだ戦国末期の名城だ。構造や内装を脳内で再現する。

 積み上げた木材と、切り崩した土や岩盤を素材に、礎石を並べ水平を取り、柱や梁を組み上げ、屋根の垂木(屋根の天辺から軒まで、屋根の斜面を形作る棒状の木材。この木材を横にズラーっと等間隔に並べて、屋根の平面を作る)を並べ、その上に野地板を張り・・・

 漆喰とか府糊とかは過去の世界でかき集め、異世界定番のとっても便利な空間倉庫に保存しておいたものを取り出して使った。またどこかで補充しなければ。


 床やら畳やら瓦やら、壁の竹小舞やら何重にも下地を塗るイメージを練り、素材を吸収して禿山の上にチョコンと、小さな御殿建築が落成した。というか組成された、みたいな奇妙なビジュアルだった。

 とりあえず、奥書院と呼ぼう。


 奥書院は田の字に区切られた18畳の部屋4つを廻廊が囲む構造で、北西に書斎兼寝室となる書院、北東は土間と竈、南二間は区切ったり一間につなげられる居間、寝室とした。

 書院には床、帳台、違棚、付書院を付け、床の壁には掛け軸ではなく、過去に見て記録した大きな桜の絵を複写した。武家建築なら散って終わる不吉な桜なんかではなく、末永く伸び続ける松とすべきだが、子供が見て気持ちが華やぐ様に桜にした。


 東南に仮の玄関を作り、その軒には唐破風(軒の中央部が曲線を描いて上に湾曲している装飾屋根)を据えた。他の建物ができたらここは廊下で繋ぐ事にしよう。


 将来本丸の東脇に数百人規模の宴会も出来る大台所を築く予定なので、ここの竈は仮のキッチンみたいなものだ。

 水廻りも将来的には上流から地下を通りサイフォン式の水道を曳く予定だが、暫定的に井戸を掘り、濾過する貯水槽を経て仮の上水道とする。


 そして奥書院の隣には、同じ位の大きさで、二階建ての建築を生成した。

 一回は南北二室間、二階は一室。一階の北の一間はその中央に地下数百メートル程度の浅い穴を掘り・・・

 温泉を噴き出させてた。この丘もかつて火山だったのかな?この建物は風呂棟、湯殿だ。湧出温度は45度、泉質はアルカリ単純泉。ん~いい湯だ。貯水槽を作って、適温38度くらいにして浴槽に注ぐ様に調整しよう。


 表面を少し荒く仕上げ滑り止めにした木材で香ばしい浴槽を作り、更に建物の外にも露店風呂を作った。洗い場には表面の粗い石を敷いてシャワーやカラン用に水道を通す。南は畳敷きの脱衣場とし、浴室の入り口は、屋内ながらも立派な唐破風を設えた。


 脱衣場の上が展望用、夕涼み用の畳敷きの望楼となる。

 浴室は屋根に湿気が溜まるので、煙抜きとして小さい二重の屋根を設け、通気性を確保した。尤もこの森の木であれば年中湯につけても百年腐らなそうだが。


 湯殿の脇に浄水槽を作り、奥書院や湯殿の厠から流れる汚水をある程度浄化し、石で蓋をした下水を通して川の下流に流す。将来完成させる大規模な上下水道には立派な浄水場を設け、健康と環境に優しい造りにしなくては。


*******


 陽が西側に向き始めた頃、空間魔法で二棟の屋敷を完成させ一息ついていると、遥か遠くに何人かの泣き叫ぶ声。

「これもまたか。」

 10km以上先に、少女の悲痛な叫び声が聞こえる。私は百キロ先の針が落ちる音なんかは聞こえないが、誰かが恐怖に泣き叫ぶ声は、何故か聞こえる。

 なので声の元へ飛んだ。飛んだというより瞬間移動した。


 声の元に着くと、数匹の角の生えた数mはある狼、魔物の一種「角狼」が数匹、少女を貪っていた。

 手足を食いちぎられた瀕死の少女と、目が合った。まだ、死んではいない。


「助けるぞ!」


 と叫ぶと同時に、とりあえず魔物に空気圧を凝縮した塊をぶつけてすっ飛ばす。


 少女の見るも無残な有様を見る。美しかった少女の顔は、恐怖と苦痛に歪み血に染まり、何かを私に訴えていた。


 私は、少女の体の時間を戻す。食いちぎられた手足や腹が胴体に戻っていく。血と泥にまみれた金髪も、汚れが消えていく。辺り一面を染めていた血も体内に戻る。


 空間の操作と同様に、私は時間を操作する力までいつの間にか手に入れていたのだ。少女の姿は、数分前、魔物に食いちぎられる前の姿に戻っていた。

 だが・・・よく見ると、左足の骨が歪んでいる。


 更に時間を操作し、彼女の過去を探れば・・・

 美しいこの少女、名はステラというのか。今年12歳か。

 かつて自分が住んでいた村長の息子に暴行され、その際左足を折られた。そして、梅毒を移されてしまった。

 村長に逆らえなかった彼女の父は彼女を軟禁したため、足は雑に手当てされ歪に繋がれ、梅毒は放置された。

 そして、冬を前に、彼女は父の手によって、事故で右手を失った弟ダンと、村内の他の家の子供2人とともに、この森に捨てられた。魔物に襲われたステラは、小さい子達を岩陰に隠して自ら囮となって餌食になるところだったのだ。


 こんな健気な魂がここで終わってよいものか?いや、よくない。

 彼女を狙う魔物が増えて私達を取り囲む。ここは気持ちを落ち着けて、低い声で「ナントカ~、ギロチン!」と両手をブンブン振った。

 残念ながら輪っか状の光線は出ないが、巨大な角狼共の首がストンと落ちる。これも空間操作魔法だ。

 ひとまず危機は去った。魔物の毛皮と肉は後で回収しよう。魔石とか取れるならそれも取ろう。


 時間逆転魔法で手足が戻った彼女は、驚愕の面持ちで、食いちぎられた筈の手足と、瞬時に撃退された魔物を交互に見つめていた。そして何かを思い出し、立とうとするが、歪な左足の所為で倒れ掛かる。そこを紳士の嗜みとして優雅に支えた。

 あ、今凄い嫌な顔された。だが気にしない。


「大丈夫。君の弟も、他の子も大丈夫だ」

「何これ?おじさんは誰?」ステラは怯えた顔で聞く。

「私は・・・時と場所を操る魔導士で、タイムというオッサンだ。君の足と、忌まわしい病気を治したい。ちょっと待っていてくれ」

「病気・・・無理よ!あれは一度かかったら治らないのよ!体も顔も腐って死ぬのよ!」

今まで恐怖に支配されていたステラは、憎しみと怒りのままに叫んだ。

「時間を戻す。君が傷つけられる前の時まで、君の肉体を戻す。まあ見ていてくれ。」

 私はステラを抱え、時間を戻す。彼女は更に嫌そうな顔をしたが気にしない。

 左足の骨は一度歪んだ継ぎ目から離れ、正しい形に戻った。

 体内に巣食う、私の目には黒い点に見える病原菌は次第に数を減らし、ついには消えた。


「君を蝕んでいた病気は、もう消え失せた。見てごらん」

 私が後ろを向くと、彼女はスカートの裾を上げ、股間に出始めていた斑点が消えているのを見た。

 驚く彼女。その驚きは、徐々に涙目に変っていく。

「もう気怠さも痒みも消えている筈だ。出来物も消えている。君は綺麗な体に戻ったんだよ」

 ステラは涙を流しながら

「なによこれ。なんだかもう、わからない・・・」と嘆いた。

 そりゃそうだろう。暫く茫然とする彼女をそのままにして、時を待った。


「さあ、君の弟たちを迎えに行こう」私はステラを励まし、手を引いた。

「何で私に弟がいるのを知ってるの?私の病気の事も?」

「言っただろう?私は時間を操る魔導士だ。弟のダン達は無事だ、君があの魔物から小さい子達を守ったんだ」

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