僕の机でイケナイ遊びをしている美少女に馬乗りで〇されたら世界が滅んだので、不健全な展開を回避してこの世界を救いたい。

斜偲泳(ななしの えい)

第1話

「え?」


 気が付くと、僕は放課後の教室で砂原さんと見つめ合っていた。


 元女子校で、今も女生徒の数が圧倒的に多い愛聖高校において、砂漠の狼の名で恐れられるちょっぴり怖いクール系の美少女である砂原涼さはら りょう


 そして先日、友達から借りた不健全な漫画を学校に置き忘れ、それを思い出した僕が放課後に取りに戻った際、その漫画をオカズにして僕の机で不健全な行為を行い、口封じの為の僕に馬乗りになって不健全な事を行っていた、一年生の頃のクラスメイトだ。


 そのせいで色々あり、この世界は一度滅んだはずだった。


 この世界を生み出した神が、その上位存在の決めたルールに背いたせいらしい。


 具体的には、創造神の作ったラブコメ世界の主人公である僕が、ラブコメを通り越して行き過ぎた不健全行為を行ってしまったのが原因のようだ。


 なぜそんな事がわかるのか、僕自身にも分からない。


 だって僕はさっきまで、クラスメイトの罠にハマり、図書委員の仕事を手伝わされていたはずだった。図書室の談話室は百合な女子達が不健全な密会を行う百合の花園と呼ばれており、そこに綺麗な先輩達がやってきて、不健全な事をしていた。それで僕の相棒も不健全な状態になり、それを見たクラスメイトの子も不健全な事をしてきて、事を終えて本を借りに来た先輩達の前でもっと不健全な事になり……。


 そう、その瞬間世界は終わったのだ。


 お腹の底から込み上げる熱いパトスと共に僕の魂は飛び出して、終わった世界と共に虚無に帰り、可能性の塵となって新しい世界の礎になるだけのはずだった。


 それが今、こうして見慣れた二年一組の教室に立っている。


 砂原さんはあの時と同じ、「見られたか、じゃあ殺すしかない」という人殺しの目で僕を睨んでいる。


 僕の机の上には友達から借りた不健全な漫画が開きっぱなしだ。


 ……なるほど。


 神様はもう一度チャンスをくれたらしい。


 終わりの始まりであるあの日から全てをやり直そうという事なのだろう。


 この世界の命運は今、僕の肩にかかっているというわけだ。


 僕だってこんな所で終わりたくない。


 だって僕はまだ童貞だ。


 まだやっていない不健全な事が山ほどある。


 まだやっていないギリ健全な事も沢山ある。


 女の子と手だって繋いだ事のない僕だ。


 ラブコメの主人公として生を受けたからには、こんな所では終われない。


 それにはまず、なんとかして砂原さんの不健全な馬乗り行為を阻止しなくては。


 そんな事を思っている間にも、砂原さんが足早に近づいてくる。


 前回は、そのまま押し倒されて馬乗りを許してしまった。


 僕は冴えないチビ助だ。力ではどう頑張っても砂原さんには敵わない。


 捕まった時点で僕は負け、世界は終わる。


 だから僕は、くるりと背を向け教室から飛び出した。


「っ!? ま、待って! 待てってば!?」


「ごめん砂原さん! 世界の命運がかかってるんだ!」


 そんな事を言っても通じないとは思うけど。


 砂原さんはただ、元クラスメイトの僕に不健全な行為を見られて、死ぬほど恥ずかしくて不安なだけなのだ。


 それで安心を得たくて、僕にあんな事をしただけなのだ。


 だから、僕が逃げたら物凄く不安になってしまうと思う。


 でも、許して欲しい。


 だって世界が滅ぶかどうかの瀬戸際なのだ。


 僕は誰にも言ったりしないから、お願いだから見逃して欲しい。


「待て! 天野! ねぇ、お願い! 待ってってば!?」


「言わない! 誰にも言わないから! 追ってこないで!?」


 全力で走る僕を、必死の形相になった砂原さんが追いかけて来る。


 その顔に、クールで格好よくてちょっぴり怖い砂漠の狼の面影は欠片もない。


 そこにあるのは、不安と恐怖に押しつぶされた哀れな半泣き顔があるだけだ。


 女の子にそんな顔をさせてしまい、僕の良心は罪悪感でズキズキ痛んだ。


 別の所もズキズキ痛んでいた。


 相棒だ。


 あの時と同じで、僕の相棒は痛いくらいに張り詰めていた。


 当然だ。


 だって元クラスメイトの美少女がたまたまとはいえ、僕の机で不健全な行いをしていたのだ。その様を、唖然としながら終わりまでじっくり眺めてしまったのだ。


 健全な男子高校生なら、不健全な状態になるのは当たり前だ。


 それで困ったことになっていた。


 走りにくい。


 ものすごく走りにくい。


 僕は冴えないチビ助だけど、相棒はビッグな奴だった。


 それだけが僕の唯一の取り柄と言ってもいい。


 でも今はそれが仇になっている。


 パンツの中で右に左に暴れ回り、窮屈なズボンの中で身体をぶつけて、痛いよ、狭いよと泣いている。


 僕も泣きたい。


 不健全な状況に、僕の感度は異様なまでに上がっていた。


 興奮冷めやらぬ今の状況では、こうして走っているだけでも相棒が爆発してしまいそうだ。


「待てって言ってるでしょ!?」


「うわぁ!?」


 砂原さんに追いつかれ、襟の後ろ側を乱暴に掴まれた。


「やだ、やだ! お願い、離して! 絶対誰にも言わないから!」


「そんなの信じられるわけないでしょ!?」


 ぼろぼろと涙を流しながら怒る砂原さんは、完全にパニックで、自分で自分をコントロールできない状態にあるらしい。


 後ろから抱えるように左手で僕の口を塞ぎ、右手で脅すように相棒を握りしめると、そのまま手近な空き教室に連れ込んだ。


 そしてあの日の再現が行われた。


 あぁ、失敗した。


 またダメだった。


 上位存在のルールに反した事で、この世界は二度目の滅びを迎えるだろう。


 逃げればいいなんて安直な考えだった。


 相棒があんな状態では、走って逃げるなんて無理だったのだ。


 そうでなくとも、冴えないチビ助の僕が、運動神経抜群の砂原さんから走って逃げるなんて出来っこなかった。


 あぁ、もっとよく考えて行動していれば!


 砂原さんに馬乗りにされながら、僕は心底後悔した。


 でも、こんな風にも思った。


 砂原さんとこんな風に一緒に世界の終わりを迎えられるのなら、それはそれで悪くないかもしれない。 


 諦めた瞬間、僕の我慢は限界に達し、世界は再び粉々に砕けて無に帰った。


―――――――――――――


 先日公開停止を受けた作品の続編です。

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