第21話 新しいスタッフ一日で辞める

オープンして5年の歳月が流れ、クリニックは毎日300人近く来院するようになっていた。


待合室はあふれるほどの患者で埋め尽くされ、トイレにいく暇も無いほど忙しい日々が続いた。



 そんな中、ヤンキーさんが体調を崩して入院してしまったのだ。


職場復帰までは二か月ほどかかると言う。退職も視野にいれての休職となった。


 ヤンキーさんが長期の休みに入ってしまった事で、受付と他部署の人員補充も兼ね、新しいスタッフが何人か採用された。


受付には、24歳の若い病院勤務経験者が入ってきた。


1歳未満の赤ちゃんがいるけれど、近くに祖母がいるから面倒みてくれるので、保育園が決まったらフルタイムで働きたいと言う。


セッカチさんは喜んで大変期待していた。


 ところが出勤初日、診療開始時間になっても彼女が来ない。


「今日は出勤じゃないと思っているのかな? 連絡ミスなんじゃない?」

皆で心配していると、暫くして新人さんがやってきた。


「すみません、遅くなって」

慌てるようすもなく「子供が~」と言い訳する彼女を見て、私は“続かないだろうな”と思っていた。


次の日、診察の時間になっても彼女はこない。


「子供が熱出したので今日は休みます」

お昼過ぎにラインで知らせがきた。


 次の出勤日も彼女はあらわれなかった。


そのまま無断欠勤となり、何日か過ぎた後「一身上の都合により退職します」

というメールが一通届き音信不通となってしまった。


急遽、通所リハビリで配属予定になっていた女性を受付に異動してもらう事となった。 


彼女は、病院のクラーク経験者で雰囲気も良く私は大いに期待していた。


 しかしその日から目が回る程の忙しい日々が続き、新人教育がままならない状態が続いた。


加えて、新人さんはとてもマイペースでのんびりしている性格のため、スピード重視の受付スタッフや仕事にも馴染めていないようだった。


「仕事はどうだ? 今後受付でやっていけそうか?」

一か月経ったある日、彼女は院長に呼ばれた。


「受付は自分には荷が重い、もっと楽な部署に変えてほしい、最初に配属となった部署に戻れないか」

そう答える彼女に院長は激怒して厳しい言葉を投げかけたらしい。


その日の夜、彼女からセッカチさんに「今日限りで退職させていただきます、法的手続きをしていただいても構いません」という驚きのメールが送られてきてそれきりになってしまう。

院長は一体どんな言い方をしたのだろう?


新しく迎えたスタッフが一度に二人も辞めてしまった事で、受付はヤンキーさんが戻ってくるまでは三人だけで仕事をすることになった。


気付けば私は毎日出勤し、どんどん深みにはまっていく。




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