第3話 開院初日
いよいよ待ちに待った開院初日、私は早めに出勤したが、もうすでにほとんどのスタッフが出勤していて開院準備をしていた。
みんな気合入っているな。今日はオープン初日だからね。
研修中にスタッフの仲間意識が高まっていたのか、クリニックはあふれんばかりの熱気に包まれていた。
一通りの準備が終わり、各部署で最終確認作業が行われたあと、院長からの挨拶があった。
「皆さん、これまでの準備等ご苦労様です。元気よく笑顔で患者さんを迎えてください。それじゃ~よろしく~」
そう告げると右手を挙げてガッツポーズをした。
まるでこれからスポーツの試合をするかのようなノリである。
あれ? そういうノリなの?
少し違和感を覚えたが、スタッフ一同えいえいおーの掛け声とともに、慌ただしく診療がはじまった。
初診の患者さんは、まず一階の受付で問診票を記入し、順番が来ると診察室に呼ばれる。
診察後、レントゲンを撮り、必要な治療が始まる。
私の仕事は、リハビリ治療が必要となって二階に案内された患者さんに、これからの治療内容の説明をする。
その後、電気治療をするための器具を取り付け、治療内容・効果を確認しカルテに記入していく。
そのほかには理学療法士のサポートや予約患者の予約を取り、電子カルテに入力していく仕事が主だが、患者さんが気持ちよくリハビリ治療ができるための工夫や、毎日通いたくなるような明るく・元気な雰囲気作りも重要な役割とされていた。
今か今かと待っていると、遂に最初の患者さんが二階にあがってきた。
私の持てる最大級の笑顔で近づく。
「いろんな病院に通ったけれどなかなか良い病院が見つからなくてね」
開口一番そう言われる。
どうしよう、こういう場合はなんて答えるのが正解なんだろう?
緊張で顔が引きつる。
しかし、今の私にできることは一つしかない。
兎に角、笑顔! 笑顔!
最後まで笑顔だけでごまかしたように思えるが、帰り際に「良い病院だね、また来るよ」と言ってもらえた時は、安堵で体から力が抜ける感じがした。
次の患者さんは険しく不機嫌そうな表情をしていた。
わ~ 気難しそうだな~。
足が竦むも笑顔はやめ、ゆっくりと近づく。
彼女は何も言わず静かに指定された席に着いた。
電気治療をしている間、視線を感じてその患者さんの方を見ると、何か言いたげな顔でこちらを見ている。
「どうかなさいましたか?」
恐る恐る声をかけてみる。
「もう10年も肩の痛みが治らないの、私は治るのかしら」
諦めたようにため息をつく。
困った。
治るかなんてわからない。
私は医療知識もないほやほやの新人なのよ。
見た目だけは無駄にベテラン級だけれど……。
だがそんなことは言えない。
「患者さんの前では堂々としていなさい」
ふとそんな言葉が頭をよぎる。
「うちの医師と理学療法士は優秀ですのでご安心ください」
我に返り胸を張ってそう答えた。
次の患者さんは尿意がきつかった。一人暮らしで誰も面倒を見てくれないらしい。
その後何人の患者さんの対応をしただろうか。あっという間に時間が過ぎ去り、気づけば怒涛の一日が幕を閉じていた。
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