第5話

今度はスーパーウルトラアルティメット超合金的な感じの物を持ってこいと言われた。

なんだよ。

スーパーウルトラアルティメット超合金って。

ぼくのかんがえたさいきょうのぶきに出てきそうな名前だな。


しかし、実際に正式名称はなく、鍛冶職人の間でそう呼ばれているらしい。

もっとましな名前を考えてやれ。




スーパーウルトラアルティメット超合金は、スーパーウルトラアルティメット超合金で構成されたゴーレムから採取されるらしい。

なんなんだそれは。直球過ぎるだろう。

大体誰が造ったんだそんなゴーレム。


無機物は殺すと言うんだろうか。

また、戦いになるのかと思うとエルフの隠れ里の脱力感が懐かしくなる。

いや、あれはあれで色々ダメだけど。勇者の旅的に。




そんなこんなでまた旅は始まった。

もうそろそろ足手まといにはならないと思いたい。

それだけ殺して経験値を貯めているんだということからは目を逸らして。

ゴーレムのいるダンジョンの内外も魔物がたくさんいた。

また殺してはどんどん進んだ。

この感覚に慣れてはダメだと思いながらも作業のように進んでいく。

切って殺して強くなって。切って殺して強くなって。繰り返しの作業で先に進む。


少し疲れたなと思い、魔物が辺りから居なくなったところで剣を仕舞うととカルシアさんがお茶を淹れて持ってきてくれた。

「少し休憩にしましょうか」

見るとアデリアさんとイースさんはすでに休憩モードだった。

私の隣に腰を下ろしたカルシアさんは「つらいですか?」と訊ねてきた。

「殺すことに慣れたくはないですね」

カルシアさんは笑う。

「そんな、魔王を倒して世界を平和に導く勇者様が何を仰います」

魔王を倒して、本当に平和になるのかなぁ、という疑問はお茶と共に飲み込んだ。

「殺しに慣れることと、魔王を倒すことと、平和になることは同一なんでしょうか?」

カルシアさんはいつもの笑みを崩さない。

「どうでしょうか?それはまだ誰もやってみたことがないことですから」


じゃあ、私がやってみよう。

その時、託宣を受けたときより明確に感じられた。


殺しに慣れることなく、魔王も倒さず、平和にしてみせよう。


きっとそれが、戦い慣れた人達より権力を持つ人達よりなにもない私が勇者に選ばれた意味だと不遜ながら思った。


私は、私に与えられた託宣にその意味を付けた。



「カルシアさん!」

勢いよくカルシアさんの方を向く。

「私、頑張りますね!」

出来うる限り殺さない方面で、私は私の世界を救う!

突然の決意表明にもカルシアさんは決して笑みを絶やさず「はい、頑張ってくださいね」と答えた。

カルシアさんは基本的に決して否定しない。

それは時には残酷なことだと思うけれど、勇気とやる気を貰えるのも事実だ。

私は出来たばかりの目標を手のひらに込めるようにぐっと握って天へ掲げた。

意味の分からないイースさんに距離を置かれたけど、アルテさんはそんなことでは挫けないのだ!

ちなみにアデリアさんからは拍手を貰った。

こちらも意味は分かっていないだろうが元気出る!さすがはアデリア姐さん!!




決意も新たにゴーレムのいる薄暗いダンジョンを潜って進むとドラゴンの時と同じように平たい場所に出た。

ここにきっとゴーレムがいる筈。

そう思った瞬間には相手からの第一波がこちらに向かってきていた。

なんとか防いで臨戦態勢を取る。

誰が何を言うでもなく、そのまま戦闘になった。


ゴーレムはドラゴン同様強かった。

何しろ動きは鈍くても堅くて物理攻撃が効かないうえに魔法も効きにくい。

おまけにバラバラにされても魔術が掛かった核のおかげで元通り。

攻撃は強く、避けても衝撃波で壁に打ち付けられる。痛い。苦しい。

なんでこんなことをしなくちゃならないんだと思いながらもゴーレムの攻撃を避けて剣を振るう。

ダメージが効いているのかどうかすら分からないが、倒せるって信じたいな!


「みんなー!頑張ろー!えいえいおー!」

士気を上げるために掛け声をしたが、「おー!」と呼応してくれたのはアデリアさんだけだった。

いいもん。別に寂しくないもん。

魔法組は詠唱中なだけだもん…。


ふと、ダメージを受けて一瞬バラバラになったゴーレムの残骸にきらりと光る宝玉が見えたあれが核だ!

「イースさん!」

呼ぶとちょうど攻撃用に氷の矢を組み立てたところで、私の視線の先にゴーレムの核を視認し矢を射った。

ヒビが入る程度だったがまたゴーレムの形を保てず崩れるところを狙ってゴーレムのスーパーウルトラアルティメット超合金を華麗に避けながら核を真っ二つにした。

ゴーレムはもう動かない。

スーパーウルトラアルティメット超合金だけが地面に転がった。


「お、おわった…」

「よくゴーレムの核を見つけられましたね」

イースさんが珍しく感心してくれた。

「両目とも目がいいんだ」

へらりと笑うと「野生の勘ですか」と返された。

視力がいいって言ってんだろ。




なにはともあれ、ゴーレムは退治しスーパーウルトラアルティメット超合金を鍛冶職人の元へ持ち帰ることになった。


出来うる限り殺さないと決めた直後からゴーレムを倒してしまった。

仕方のないこととはいえ、ゴーレムは、でも、意思を持ち動いているモノだった。

これは生きているといってもいいだろうか。

つまりはまた殺してしまった。


エルフの隠れ里の平穏さが既に懐かしい。




殺したくないというのは、勇者として許されるんだろうか?

そもそも、殺したくはない私が勇者になること自体が間違いだったのでは?

私が勇者になった意味、それはなんだろうか、未だに分からない。


『殺しに慣れることなく、魔王も倒さず、平和にしてみせよう』


そう自分に誓った筈なのに、すぐに足場が揺らぐ。

ダメだダメだダメだ!!!

私は、私の思う勇者になるんだ!


ゴーレムとの戦いは殺したくないけど仕方のないことだった!

例え、このゴーレムもドラゴン同様罪がないとしても。

殺しにはまだ、慣れていない!大丈夫!

魔王は分からん。

平和にはしたい。これは本当。

でも、本当の平和ってなんだ?


魔王と和解する前に、私達は魔王の仲間を大勢殺して素材として扱って武具を造って貰って会いに行く。


これで、本当にいいんだろうか?




殺しにはまだ慣れてはいないけど、戦いに慣れてきたことは喜ばしいことなのか、私にはわからない。

でもきっと、アデリアさんやイースさん、カルシアさんの手を煩わせることも減ったしそれは良かったんだろう。


今までの勇者は魔王を倒そうとしてきたんだろうし、伝承にない都合の悪い勇者の話は闇に放り込まれてきたんだろう。

私も英雄譚になれるような勇者じゃないからきっと語り継がれはしない。

こんな風に迷いを抱えて旅をした勇者やその仲間も今までにもいるかもしれない。


『殺しに慣れることなく、魔王も倒さず、平和にしてみせよう』


それが今の私に出来るかは分からないが。


「カルシアさん、宿に戻ったら祝勝のディータイムしましょうか」

へらりと笑ってみせれるだろうか。


私は、みんなが思う勇者にはなれそうにもないけれど、勇者なのだから仕方がない。


諦めにも似た感情で、帰路についた。

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