第3話
さて、冒険の始まりについてだが。
事の始まりはアデリアさんの一言だった。
「私達の武器、今のままでいいのかな?今までは暢気な一人旅だったけど、これで魔王に通じるとは思えない」
それを言うなら私の武器も最初の王城でなげやりに貰った剣だぞ。
もっと勇者っぽい武具がほしい。
他のみんなも新調した方がいいだろうという結論に達した。
この頃には私もそれなりに戦えるようになってきたからきちんと闘えてみんなの役に立てるように武具がほしいと思った。
と、いうわけでアデリアさんが聞いたことがあるという伝説の鍛冶職人の元へ行くことになった。
幸い今いるところから然程離れてはいなかったため思ったよりも苦労もなくすぐに鍛冶職人の元へ辿り着いた。
全然伝説感がなかった。
伝説の鍛冶職人はこれまた伝説感がなく、もっさりとした髭のおっさんだった。
問題は、武具を作るための材料がないと言われたことだ。
それはそうだ。
なんてったって今から倒しに行くのは並みの魔物や魔族じゃない。
魔王だ。
それ相応の材料が必要なんだろう。
鍛冶職人の人が言う材料を集めることになったが、これが山を幾つも越え海を越えての大冒険になってしまった。
いや、元から大冒険してたんだけど。
「寒い寒い寒いめっっっちゃ寒い」
吹雪止まぬ山中で目的の素材のひとつがある、世界一高い山にあるダンジョンを探す。
カルシアさんが風圧を遮断してくれる魔法を掛けてくれたから歩けるけれど、そうじゃなかったら立ち往生で氷の彫像の出来上がりだろう。
さすがに寒さはどうしようもなかったから震える体を擦りながら進んでいくと、イースさんが「寒いって言うから余計に寒く感じるんじゃないんですか」って言ってきたけど、イースさんもめちゃくちゃ寒そうで歯が噛み合ってない。
根性で喋って偉いね、イースさん。
「やっぱレアな素材は山なら山頂にあるんだよ!」
との大雑把ながらも野生の勘いアデリアさんの一言で山頂を目指すことになり、アバウトすぎるな…と山頂付近で今更ながらに思ったけど、本当に山頂にダンジョンの入口があった。
さすがは私達のアデリア姐さん!!
山頂の入口から入ったらあとは下り坂だった。
そりゃあ行くとこなんてもう下しかないもんな。
ダンジョン内に入ると吹雪がないからか寒さは軽減された。
帰りはまたこれを上るのか…と思いながらこの頃にはようやく一人でも敵を倒せるようになってきた私はみんなの足を引っ張らないように懸命に現れる魔物相手に戦った。
切って切って切り殺した。
段々と感覚が麻痺してきそうなのが恐かった。
少し前までは単なる村人なのに、今は食す獣以外も殺している。
どんどん下へ降りると平たい場所へ出た。
いかにもここのボスがいますって雰囲気だなって思ったら奥から現れたドラゴンが雄叫びを上げる。
その雄叫びだけで、体が震える。
でも勝てるだろうか、じゃない。
勝たなきゃいけないんだ。
ここで死ぬわけにはいかない。まだ、魔王とも会っていない。
巨体を存分に動かして威嚇し攻撃してくるドラゴン相手に私達は頑張って戦った。
訂正しよう。
私以外が頑張った。
一人でも敵を倒せるようになってきたと思ったけどドラゴン相手にはまだ無理だった。
覚えたての後方支援の魔法を使い、時には隙をついて撹乱したけど、圧倒的に他の三人の方が強い。
私がドラゴンの吐く炎に服を焦がされている間も三人は攻撃の手は休めず、どんどん追撃していく。
すごい。みんの攻撃に荒れ狂うドラゴンは圧巻だった。
これが戦いなのか。
改めて思った。
そして、このドラゴンにはなんの罪もないんだよな、とも思った。
私達が勝手に住処に入り込んで勝手に戦闘を仕掛けて殺して素材として奪おうとしている。
これは、勇者として正しいことなのだろうか?
疑問に手を止めている暇はない。
三人が懸命に戦っている。
元村人であろうと、今は私が勇者だ。
「みんな!頑張っていくよ!」
己自身を鼓舞するように周りにも声を掛けていく。
今はまだ役立たずの勇者でも、私は勇者なんだから。
勇者は勇者らしくなくちゃならない。
そうしなきゃ、すべての意味がなくなってしまうから。
ドラゴンは体力も攻撃力も防御力も一級品で、途中で逃走も考えたけれどアデリアさんの攻撃が効いた隙にイースさんにカルシアさんがバフを掛けて弱点の魔法攻撃で一瞬倒れたところをアデリアさんに「アルテ!」と叫ばれ我に返ってとどめをさした。
ドラゴンの断末魔と共に、これで良かったのかという疑問が尽きないが経験値がかなり上がったことは実感した。
レベルが上がる分だけ殺してきたことになる。
だけど、ドラゴンなんて強敵相手でも私の経験値を気にしてとどめを回してくれるアデリアさんの気遣いがありがたい。
魔王を倒すという人間側の希望としてはこうして強い武具を揃えて経験値を上げていくのが正解なんだろう。
ドラゴンの亡骸を一瞥して素材を採取し、元来た道を戻っていった。
鍛冶職人に武具を作ってもらうためにはまだ素材が足りない。
次の素材を求めて別の地域へと旅立たなければならない。
きっと、そこでも殺すんだろうな。
そう思いながらダンジョンから出てまた寒さに震えた。
魔王の仲間のもので身を包み魔王に挑むのもおかしな話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます