ある晴れた昼下がり・・・
@nezumi-73
出会う
ある晴れた昼下がり、農業都市国家へ向かう街道の宿場にて、真っ赤な瞳の教会教師と出会った。
彼女は成人男性の半分ほどの背丈しかなく、見かけた時にはなぜ子供が一人で宿場に居るのかと思ったが、纏っている生成りのケープには教会教師の制服独特の銀糸の刺繍が施されている事に気付いた事で、迷子扱いする非礼をせずに済んだ。
その彼女のケープには赤地に金糸で「21」と刺繍されたエンブレムが縫い付けてある事から、あまり上位の教師では無い事が分かるが、数万人いる教徒の中で26人のみに与えられる称号と考えると、かなり優秀な人材だろう。
ただ、挨拶をした感じでは見た目通りの子供ではないかと思ってしまった。
農業都市国家の収穫祭に招かれ、ようやくたどり着いた宿場町で闘士と思える大男に出会った。
人の姿を見るなり何か失礼な思惑に捕らわれたような視線を投げかけて来たので、教会から支給された教師制服のケープに施された独自の模様が見えるように姿勢を変え、ついでに称号のエンブレムを見えるようにしてやった。
やや驚きの表情を見せた大男の背中には造りは荒いが頑丈そうな背嚢があり、その側面には鉄のマグカップと反対側には弦楽器と思われるものがぶら下げられていた。
ぶら下げた楽器で何が弾けるのか声をかけてみると、地方の民謡だと答えた。
この図体がなければ、野盗の餌食になっていたであろうと思わせる程に覇気のない大男で、演奏は下手だった。
同じ宿に居あわれたのも多少の縁と行き先を尋ねてみれば、目的地も用事も同じ農業都市国家での収穫祭と、一人旅も退屈なので共に行こうとのお誘いを頂いた。
教会といえば数の暴力だと思っていたが、この教師は一人旅だという。
自分も一人で歩き続ける事に退屈を感じ始めていたのでお誘いを受けた。何より学がありそうなので演奏のアドバイスを貰える事を期待していた。
翌日、そんな話を交えながら旅程を話し合ったところ、三日以内に一雨来てその後は晴れが続くとの事で、宿場にある食堂の隅を借りて演奏の練習と演目の整理をやった。
これが町の井戸端でよく聞く「放置出来ない男」と言うものだろうか。このまま一人で金の亡者の巣窟となる祭りの場へ入ろうものならまったく相手にされず干物になって発見されるか、遺骨さえ残らない程にしゃぶり尽くされるか、まともな未来が想像出来ない。
善は急げと早朝出発する様な事を言い出したのですぐに雨が降る事を伝え、その雨が止むまで食堂の片隅を借りて路銀稼ぎと演奏の練習をさせる事にした。
三日の練習の末分かった事は、金に関してはこの男より子供の用が信用出来る事。意外と器用でちゃんと教えればちゃんと演奏出来る事。身体的には傭兵でもやって行けるが、精神的に血生臭い事は続かない事。
覇気がない程度では済まなかった。
四日目になって雨も上がり快晴となった空の下、刈り取られて禿野原となった麦畑に挟まれた街道を、二人は農業都市国家へ向かい歩き出した。
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