第39話 条件
打ち付けた頭から血が滲む。ジンジンと痛むその傷を押さえ、ハルは起き上がった。
心配そうに擦り寄ってくるアルの頭を撫でながらふと隣を見ると、日野が座っていた。
「ショウちゃん……?」
聞こえていないのか? 虚ろな目をして俯く日野に呼びかけるが、返事は返って来ない。
どうして黙っているのか? 何かあったのか?
不思議に思いハルが日野へ手を伸ばした時、グレンの銃声と、刻の愉しげな声が聞こえ、ぼやけていたハルの意識が現実に引き戻された。
「なんだ、その銃は飾りか? 的に当たらなければ意味が無いぞ」
そう言って、放たれた弾丸を避けながら首を傾げる刻にグレンはチッと舌打ちする。
動きを予測しながら撃てど、ギリギリで避けられ当たらない。
「うるせぇ! チョロチョロ逃げ回るんじゃねぇよ!」
ガウンガウンと銃声だけが辺りに響く。
刻は弾丸の間を抜けて一気に距離を詰めると、愉しげにグレンへ笑顔を向けた。
「へたくそ」
「んだと!? ぶっ飛ばすぞ、この白髪頭!」
そう叫んだ瞬間、刻の手がグレンの顔に迫る。
大きな手に顔を掴まれ、そのまま力一杯地面に叩きつけられた。
目の前の世界がぐるりと回転し、後頭部へ鈍い痛みが走る。
少し離れた場所から、ハルの叫ぶ声が聞こえた。
ズキズキと痛む頭を押さえながらグレンが体を起こすと、赤みがかった髪の子供が駆け寄ってきた。
子供はグレンの前に立つと刻を見上げ、その金色に輝く瞳を見つめる。
「お前、何やってる!? 危ないから下がってろ!」
驚くグレンを他所に、ゆっくりと近付いてくる子供を刻が冷たく睨み付けると、その小さな身体がカタカタと震え出した。
「もう動けるようになったのか? 大したものだな」
「……殺して。あんたじゃないと、駄目だから」
青い本を両手で抱き締め、刻を見上げたその瞳は恐怖に揺らいでいた。
それは刻という殺人鬼に対しての恐怖なのか、それとも、これから自身に訪れる死というものに対しての恐怖なのか……震える小さな命を守ろうとグレンが立ち上がると、刻は目の前の子供へ爪を向けた。
「動くな。貴様は死にたがっている奴も助けるのか?」
そう言った刻の爪はすぐそこまで迫っている。いつ引き裂かれてもおかしくない。
助けなければ……しかし、子供は刻に殺してと訴えている。
助けるのは果たして正しい事なのだろうか……。
違う世界で、もっといい人生を
本の力で、本当に生まれ変われるのか?
子供が言っていた言葉が頭を過り、グレンは唇を噛んだ。
すると刻が子供の頭を爪の先で突つきながら、思い出すように本の内容を話す。
「生まれ落ちた地で不遇のときを生きる者、その身体が土へ還るとき、異なる世界への転生を果たす……貴様が読んだ文章はこれで合っているか?」
その言葉に、子供はコクリと小さく頷いた。少し爪で突ついただけでガタガタと震えが大きくなる。
殺せと言っておきながら死の恐怖に怯える子供に、刻はフンッと鼻で笑った。
「本の文字が読めるようだが、読めただけではどうにもならない。転生するにはいくつか条件がある。言ってみろ」
「……金色の瞳を持つ者に殺されること。最期まで本を手放さないこと。死ぬ直前に転生の言葉を唱えること」
「そう。つまり本を所持したまま、俺か……あの女に殺されることが条件だ!」
そう言ったと同時に、刻は子供の胸ぐらを掴んで投げ飛ばした。
軽々と宙に浮いた子供は、虚ろな目で座ったままの日野へぶつかり……倒れた日野の手に、本が触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます