第38話 お前に、俺が殺せるか?
「また会ったな」
刻は愉しそうに日野へ笑いかけると、倒れた子供へ近寄っていく。
返り血にまみれたその姿にゾクゾクと日野の身体が震えた。
すると、目の前にいる刻の姿が徐々に霞んでいく。まただ、また頭痛が……。
ズキズキと痛み始めた頭を押さえるが、耐えられない。前回よりも更に激しい痛みが日野を襲っていた。
「お前……大丈夫か!?」
苦痛に顔を歪めた日野を支えながらグレンが声をかけるが、返事は返ってこなかった。
そんな日野の様子を愉しげに眺めながら、刻は子供の方へ歩いていく。
鋭い爪の先から滴り落ちる血液が点々と地面に跡を残した。
「人を殺した後なのに、よく笑っていられるね」
スタスタと子供の方へ向かっていく刻に、小さな拳を握り締めたまま震える声でハルが呟いた。
怒りと憎しみ、そして悲しみに満ちた瞳で睨んでくるハルを見て、刻はフンッと鼻で笑う。
「なら、自分で殺しておいて泣けとでも言うのか? 緑の片割れ……お前はずっと俺を恨んでいる。もう片方を殺したことがそんなに気に食わないのなら、俺を殺したらいい。出来るか? 俺の足にしがみつき、ただ殺されるところを見ている事しか出来なかったお前に、俺が殺せるか?」
「殺せるさ……ボクは必ず、お前を止める……」
「ハル」
「わかってるよグレン。挑発に乗るなって言いたいんでしょ? でも……」
そう言って唇を噛み震えるハルを横目に、刻は力無く倒れた子供から本を奪おうとした。
だが、子供は本を手放さない。
グイグイと引っ張っても頑なに本を手放そうとしない子供に向けて、刻が爪を立てようとしたその時、張り詰めていたハルの中で、何かがプツンと千切れる音がした。
ハルは力一杯地面を蹴って刻に飛びかかる。
「やめろおおおお!」
「ハル!? 行くな!」
頭に血が上ったハルには、グレンの制止もきかなかった。
刻は、足にしがみついてきたハルに、変わらないな……と呟くと、ハルの髪を掴み持ち上げる。
そのままボールのように蹴り飛ばすと、宙に浮いたハルの体は地面に叩きつけられた。
グレンは唇を強く噛み、虚ろな目をした日野の手を無理矢理離引くと、ハルの元へ駆け寄った。
頭から血を流し倒れたハルの傍に日野を座らせ、刻に銃を向ける。
その間に、刻は子供から本を奪い取っていた。
「だめ……取ら、ないで。お願い……このまま、殺して。私は……生まれ変わる。本の、力で……次は幸せな人生を……」
這いつくばい、涙ながらにそう訴えた子供の言葉に、刻の眉がピクリと動いた。
「……読めるのか?」
絞り出すような声で本を返してと訴える子供に刻の注意が逸れた瞬間、距離を詰めたグレンの拳が刻の頬を力一杯殴りつける。
よろけた刻の腹部を蹴り飛ばすと、その衝撃で刻は持っていた青い本を手放した。
バサリと落ちた本のページが、風に吹かれパラパラとめくれる。
グレンはそれを拾い上げると、子供へ投げ渡した。
「持ってろ」
その言葉に子供が頷いたのを確認すると、グレンは再び刻を見据えた。
服についた砂を払いながら、刻がゆっくりと立ち上がる。
鮮やかに輝く金色の瞳が、愉しげに笑っていた。
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