第11話 あの顔は機嫌が良いから大丈夫

 四人で食事を済ませ病院へ戻ると、日野は着替えと荷物の整理をするよう言われ、借りていた病室へ戻った。


 買ったものをリュックに詰めながら、旅支度をしていく。


 グレンとハルはその間に食料を確保してくると言って出て行き、アイザックは患者の様子を見に行った。


「そうだ、着替えなきゃ」


 ふと、ずっとスーツのままだった事を思い出した。日野は購入した服を取り出すと手早く着替えを済ませた。


 白のシャツに黄蘗色きはだいろのスカート。足元はパンプスからショートブーツに履き替えた。


 そして、残りの服はリュックに全て詰め込んでいった。


 リュックを閉めると背負ってみる。


 リュック自体は大きかったが、そんなに重いものを入れてはいないため負担はなかった。


 一通り支度を終えると、日野は一階へと降りて行った。


 階段を降りると、グレンとハルが戻って来ていて、入り口でアイザックと話していた。


 そこへ、まだ歩き慣れないブーツで小走りに駆け寄った。


「あの、お待たせしました」

「おや」

「わお」


 駆け寄ってきた日野を見て、ハルとアイザックが声を上げた。二人ともパチパチと手を叩いている。


 その後ろでは、グレンが目を丸くしていた。


「お姉ちゃん、可愛い」

「いやあ、見違えましたね。似合ってますよ」

「あ、ありがとうございます」


 褒められたのなんて何年振りだろうか。日野は照れくさそうに俯いた。


 女性物の服の趣味が合うのだろう。アイザックはしゃがんで嬉しそうにハルとハイタッチしていた。


 日野が顔を上げると、グレンと視線がぶつかった。


「さっきより多少はマシだな」


 グレンはフンっと鼻を鳴らしながら、すぐに視線を外した。やはり動き辛い格好は気に入らないのだろうか……。


 日野が申し訳ない気持ちになっていると、チョイチョイとスカートの裾を引かれた。腰を落とすと、ハルが小声で耳打ちした。


「あの顔は機嫌が良いから大丈夫」


 全く機嫌が良さそうには見えないが、ハルにはそう見えるらしい。


 二人は本当の兄弟のように仲が良いんだな……と日野は感心していた。


「そろそろ行くぞ」


 グレンの声に、日野はハッとして三人に向き直った。


「グレンさん、ハルくん。これから、よろしくお願いします。それに、ザック先生。色々と助けて頂いてありがとうございました」


 そう言って、日野は深々と頭を下げた。


「何かあったらいつでも来てください。まあ、私もたまに色々な土地に出かけたりするので、会うことがあるかもしれませんね」


 大きな手がポンポンと日野の頭を撫でる。


 いってらっしゃい、とアイザックは笑顔で送り出してくれた。


「世話になったな、おじさん」

「また来るね!」

「はいはい、煩いからもう来なくていいです」


 ハルがブンブンと元気よく手を振ると、アイザックも手を振り返した。


 日野も小さく手を振って、三人はアイザックの病院を後にした。




「さあて、これからどうなるでしょうか。グレン、任せましたよ」


 静かになった病院。小さな声でそう言うと、アイザックは自室へと戻っていった。

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