第2話 始まり②

 だいぶ体調が良くなってきたので、起き上がった。老人とおじさんは、少し前にこの部屋を出て行っていた。

 ベッドに腰掛けると、この部屋の様子がよくわかった。想像よりも、こぢんまりとしている。木でできたベッド、机、椅子以外何もない、簡素な部屋だ。ただやはり、ランタンの暖かい光がこの部屋全体を包んでいた。

 この部屋には窓があるのだろう、カーテンが引かれていた。開けてみる。ただ外は暗く、火のような淡い光があるのみで、ほとんど何も見えなかった。

ただこの部屋は1階にあるようだ。地面をすぐ近くに感じる。

 私は扉を見た。これを開けるしかないようだ。私が誰か、それを知るためには。少し恐怖を感じるが、あの二人とも敵意はなさそうだったことを思い返す。

 私が今身につけてるのは・・・白の柔らかいワンピースだ。おそらく寝巻用の衣服なのだろうが、ちょっとしたドレス位装飾が凝られていた。うん、これくらい厚さがあればいける。

 私は扉の取っ手に手をかけ、深呼吸をしてからそっと開いた。


「え・・・」

 驚いた。何しろ扉を開ければそこはいきなり・・・外だったからだ。見上げれば、満天の星空。目を落とすと、そこには大きな焚き火を囲う人、馬、それから・・・なにあれ? もっと小さな・・・生物。

 少し出て後ろを振り返ると、自分が今まで一つの部屋でなく、小屋、ロッジであることに気付いた。他にも同じような小屋が焚き火をかこんでぐるりとある。

「おお! お嬢様、こっちこっち!」

 手前に座り込んでいたさっきの赤ら顔のおじさんが私に気付いて、手招きしながら呼びかけてきた。

 私は戸惑いつつも、そこしかアテがないので近づいてみた。

「さあ、病み上がりですからな! このスープは栄養満点! お飲みください。」

 そう言って目の前の鍋から、金属製のボウルのようなものに何かを注いでくれた。見たこともないような、ブルーに透き通った液体だ。ときおり何かの葉っぱや魚のような具材が入っている。

 え、これ飲むの・・・

 匂いをかいでみる。匂いも初めまして過ぎて、何とも言えない。おじさんの方をちらっと見てみる。満面の笑みだ。観念するしかない・・・

 ちょっと口をつけてみた。軽い清涼感のある酸味のあと、とてつもない苦味が襲ってきた。

 うえっ・・・

 雰囲気的に、口には出せない。顔もなるべく、歪めないようにした。

 これは飲んでいけない! 直感がそう告げていた。だが、どうやって突っぱねよう。だが、このおじさんは、私がこれを飲むとなんの疑いも持っていない。途方に暮れていると、何やら声が聞こえてきた。

「リリス、リリス!」

 私が少しの間キョロキョロしていると、おじさんが

「あ、お嬢様、おじい様がお呼びですよ。あちらにおられます」

 そう言って、焚き火を挟んだ向こうを指差す。

 そこにはさっきの老人がこっちに向かって手を振っていた。


 そうか、私の名前はリリスというのか、そして、あの老人が私の祖父なのか。


「ガンジス! 君も来るんだ」

 祖父が次にそう呼びかけた。

「はい! ただいま!」

 おじさんがえっちらおっちら立ち上がる。そうか、このおじさんはガンジスという名前なのか。

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