第三章 同業者

第1話


 そうして始まった『神殺し』の日々――。


 神亀は「たまに県外に行く事もある」なんて言っていたが、ふたを開けてみると週三日は県外に行って「ついでに」という仕事が追加される……なんて事もあった。


 でも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


 それは「自分一人だけじゃないから……」という気持ちももちろんあったが、それ以上に「それなりの普通の生活を送れている」という事が大きかった。


 仕事が終われば宿やホテル。家に帰る事が出来る。


 これがとにかく大きい。前のアルバイトでは家に帰る余裕すらなかった。


「!」


 基本的に県外行く場合の移動手段は新幹線で県内は車だ。


 根岸は今までスマートフォンやパソコンなどの電子機器を使った事がないため、宿屋電車の予約は全て神亀が行い。また車の免許もないため運転をする事も出来ない。


「……」


 そして今はそんな仕事終えて帰る途中の電車の中。


 さすがに疲れたのか神亀は隣のイスに座る根岸の方にもたれかかる様に寝ている。最初でこそ驚いたが、県外に行く時の移動中が神亀にとって睡眠時間らしく、片手で数えられなくなった辺りから慣れた。


 そもそも『神殺し』は夜だけとは限らないらしく、特に決まりもないため「寝られる時に寝る」という不規則な生活になってしまっている。


「ふぅ」


 そんな神亀に対して根岸はどうやらキチンとベッドや布団で寝ないと疲れが取れないタイプだったらしく、いかに自分が今まで不健康だったのか思い知らされる事になった。


「……」


 こうして様々な仕事……いや『神殺し』をしてきて感じたのは「神亀の強さ」だ。


 確かに神亀は自分で「手伝い」と言っていた。それでもあの説明を聞いて身の危険を感じなかったワケではない。


 しかし、実際に神亀と組んでみて分かったのだが、驚くほどに根岸の出番がない。それこそ「俺、必要?」と言いたくなるほどである。


「はぁ」


 ただ全く出番がない……というワケではない。それでも「たまに」だ。


 衣食住全てをまかなってもらって仕事も手伝い程度……さすがに申し訳ない気持ちにもなる。


 しかも彼女には助けてもらった恩がある。


 やはり人間。何かをしてもらったらそれだけの……いや、それ以上のモノを返したくなってしまう様だ。


「あそこじゃまず考えられないけどな」


 根岸はそう一人小さく呟く。


 ちなみに、根岸がずっと働いていたアルバイト先はただつぶれただけでなく、その大元の親会社が様々なところから訴えられて大変な状態らしい。


 他の系列会社も対応に追われ、とても立て直しなんて出来る状態ではない様だ。


「倒産も時間の問題……かな」


 どことなく神亀は他人事の様に言っている様に聞こえたが……それは本当に他人事だったからだろう。


 でも、そのアルバイト先にいたはずの根岸もたまたまそのニュースを見て特に何も感じなかったのは……本当にどうでも良いと思っていたからなのだと、後で気付かされた。

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