第2話


「――」


 何か声がする……。


「――」


 いや、話し声と言うよりコレは……鼻歌か?


 明確な『言葉』と言うよりも楽しそうな『音の響き』が聞こえ、まどろみの中。彼はゆっくりと目を開けると……彼の鼻に何やら美味しそうな匂いが届いた。


「……?」


 ここは……一体どこだろうか。


 あの状況から見て気絶していたのは間違いないだろう。ただ背中に感じる感触は気絶する寸前まで寝ていたコンクリートではない。それこそコンクリートと比べるのもおこがましい程柔らかい。もう一眠り出来そうなくらいだ。


「あ、起きたね」


 二度寝を決め込む前に女性が彼の目を覗き込む様に顔を近づける。


「!」

「何? そんなに驚いて。ひょっとしてもう忘れちゃった? ものすごく血が流れていたし」

「……ぃや」


 確かに驚いた。思わず声が小さくなってしまうくらいには。


「一応手当もしたし、ぐっすりと寝ていたみたいだから倒れた時よりはマシになったと思うけど」


 言われて見ると確かに頭や腕には包帯が巻かれている。


「まぁ、あの状況だったから声が出にくいのも仕方ない……かな」

「……」


 先程から彼に話しかけているのは「女性」というよりはどことなく少女っぽさ……いや「あどけなさ」が残っている様に感じる。

 髪は出会った時に月明かりに照らされて光り輝いていた「金色」で、ただ服装は仕事前なのかスーツだ。


「ぁ……の」

「?」


 彼は何とか声を出しながらゆっくりと辺りを見渡して一生懸命ここがどこなのか訴えかける。


「ああ。ここは私の家の客室だよ」

「……!」


 一体どれだけの徳を積めば美女の家出目を覚ますなんて事があるだろうか。


 正直衝撃以外の何モノでもない。


「本当はこれから君に欲しい事や自己紹介とか色々したいところだけど……まだまだ本調子じゃないみたいだから」

「?」


 彼女はそう言うと、人差し指を出し彼の額に「トンッ」と軽くと押すと――。


「……ぇ」


 自分の身に何が起きたのか理解するヒマもなく、彼はまた深い眠りへと落ちていった。

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