第32話 流石に叱られる不用意なわたくし ※ステフ目線
男達が回収された後、残されたのは、数人の護衛騎士にわたくしと、それからミッチーです。
わたくしは、何だか怖気付いてもじもじと黙っていました。
先ほどまではあんなにミッチーに抱きつきたかったのに、事態が収まってしまうとなんと声をかけたらいいのか分からなくて、わたくし狼狽えてしまっているのです。
「……あ、の」
「怪我はないか。何かされていないのか」
「は、はい」
「それは良かった。……だが全て、運が良かっただけだ。何をしているんだ君は!」
悲鳴のような叫びに、ビクリと体が反射的に強張るのを感じました。
常日頃わたくしに甘々のミッチーも、今回は流石に怒っているようです。それは当然です、こんなふうに危険な目にあったのは、わたくしの迂闊な行動が原因なのですから。
「……ご、ごめんなさい」
わたくしが悪いのは分かっています。分かっているのです。
けれども、理屈が分かっていることと、気持ちの問題は別です。
わたくしは、怖くて悲しくて、ぽろぽろと涙が溢れていくのを止めることができませんでした。
そんなわたくしを見て、ミッチーが慌てています。
「違う、すまない。……だめだな。私はどうしても、女性に対して気が利かない」
ミッチーは大きくため息をつくと、今度はわたくしを優しく抱きしめてきました。
「怖かったろう。もう大丈夫だ」
大きな体にすっぽりと包まれて、わたくしはもう一杯一杯で、色々な我慢が弾け飛んでしまいました。
わんわん泣き出したわたくしを、ミッチーは困った顔で見つめています。
「うっ、ううぅう……っ」
「ステファニー、すまない。その……私は怖かったんだ」
「うぅ…………ミ、ミッチーが……?」
「そうだ。君を失うかと思ったら怖かった」
「……」
「君が路地裏に入って行った後、男達に引き摺り込まれるのが見えた時は、建物ごと雷魔法で破壊してやろうかと思った」
被害甚大! それはもう災害ですわ!?
「えっ、待ってくださいまし、ミッチーはわたくしがステファニーだって最初から気が付いていましたの?」
「当然だろう」
「で、でも、わたくし変装しています! 実家の侍女達にだって、なかなかバレないくらいの名変装で」
言い募るわたくしの頰の涙を拭いながら、ミッチーは肩の力を抜いた様子で、ふっと微笑みます。
「私にステファニーが分からない訳ないだろう?」
(な、何ですのそれえぇーーーー!?)
他の女性の見分けがつかないのに、わたくしだけはどんな格好をしていても分かってしまうなんて!
そんなのもう、わたくしにぞっこんフォーリンラブってことではありませんかぁああーーーー!!
「わたくしのこと、大好きすぎですわ!」
「うん。私はステファニーに夢中だからな」
「わたくしのこと、愛さないって言ってたくせに!」
「あ、あれはただの照れ隠しだ。しかしその、本当にすまなかったと思っている……」
「じゃあ本当のところはどうなんですの」
「え?」
「本当は、わたくしのことをどう思っているんですの!」
わたくしの言葉に、ミッチーは目をパチパチと瞬いた後、少し照れながらも、頰を緩めて自然な微笑みを浮かべました。
「私は君にメロメロキュンキュンだよ、ステファニー」
その穏やかな微笑みに、わたくしの杞憂は全て吹き飛び、ハートを射抜かれ、理性もどこかへ投げ飛ばされてしまったのです。
「分かりました。じゃあ仕方ありませんから、許してあげますわ!」
「えっ!? 許ッ……え!!?」
「だ・か・ら! 許してあげますって言いましたの! も、もう許してもいいですわよね? わたくし十分我慢しましたわ。も、もういいんじゃありませんこと!?」
「……!?? いや、そのだな」
「いやよ、もう許して! わたくしが許すことを許して! 何なんですの、こんなにわたくしを焦らして、もう絶対許しませんわー!!!」
わたくしは、ひしっとミッチーに抱きつきながら、「ミッチーのばかぁぁああ」とわんわん泣き荒びます。
そんなわたくしに、ミッチーは「許してくれるのか!? やっぱり許さないのか!?」とオロオロしながらも、しっかりと抱き止めてくれたのでした。
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