第22話 夫の様子に戸惑いを隠せない妻 ※ステフ目線
おはようございます皆様。
もぎたてフレッシュな新妻7日目のステファニーですわ。
初夜に喧嘩して以降、ようやく昨夜、わたくしは別邸に戻って参りました。
縋るミッチーに絆されたのかですって?
そのとおりですわ、わたくしはわたくし特効のまたたび酒に速攻でKOされてしまったのですわ。
大体、ミッチーは「失った君の気持ちを、これから取り戻してみせる」「君の気持ちを再燃させてみせるよ」と言っていましたが、常に最高潮にファイヤーしているわたくしの愛(ストップ高)をこれ以上燃やしたら燃えカスになってしまいますわよ?
それにしても、ミッチーは昨日から様子がおかしいのです。
しどろもどろになりながら、普段でしたらあり得ない発言を繰り返すその様は、10年以上の付き合いのあるわたくしですら今まで見たことがないものでした。
(大丈夫かしら……。一体これから、ミッチーは何をするつもりなのかしら……)
『わたくしの気持ちを
昨夜、この別邸に向かう馬車の中でも、ミッチーは不意にくつくつと怪しげに笑っていました。
(怪しい……正直もはや恐ろしいくらいですわ……)
わたくしは最高潮に警戒しながら、朝食のため、食堂に向かいます。
食堂への道すがら、廊下で何人かの使用人とすれ違いましたが、わたくしの姿を見て皆一様に微笑んでくれます。
どうやら使用人達はわたくしの帰還を喜んでくれているようです。新婚初日にして家を飛び出したわたくしを暖かく迎え入れてくれるなんて、優しい使用人に囲まれてわたくしは幸せですわ。
そしてそんなふうに考え事をしていたその瞬間、事件は起きたのです。
「ス、ステフ! きょきょきょ今日も一段と美しいな、マイハニー!!!」
「!??」
なんとミッチーが、モタモタと立ち上がったかと思うと、そんな熱に浮かされたようなセリフを吐きながらわたくしに抱きついてきたのです!
(どういうことですの、何が起こったんですの、わたくしどうしたらいいんですの)
頭が真っ白になり、淑女としてあり得ないくらい、口がカパっと大きく開いてしまいます。
そんなわたくしを、ミッチーは愛おしそうな目――ではなく、ギュンギュンに充血した瞳と必死の形相で凝視してきます。
(怖い!)
「ス、ステファニー、マイラブ。今日の最初の君へのちゅーは、わ、わた、私のものだ……」
「!!??」
なんとそこからミッチーは、声も体も震わせながら、わたくしの頰に口付けしてきたのです!
首から上を真っ赤にして、緊張で若干汗ばみながらメガネの奥のベリー色を揺らすそのセクシーかつキュートな姿に、わたくしも目を大きく見開いて凝視してしまいます。
普段のわたくしなら、こんな格好の獲物が目の前にぶら下げられたら、オオカミに変身して好き勝手にミッチーをいじり倒していたでしょう。
しかしながら、ミッチーがこのような行為に出ること自体があまりに想定外だったため、驚愕のあまりわたくしは動くことができません。
「さ、さあ、席につこうか。朝食をいただこう」
「は、はひ」
「君の好物ばかりを用意してもらったんだ」
「そ、そうですのね……」
ミッチーは椅子を引いて、わたくしを席に座らせてくれます。
ミッチーは普段から、こういうさりげない気遣いを欠かさない男なのです。
ようやく普段どおりの流れに……いやでも一体これはどうなっているのだ……と、わたくしは自分の手元を見ながらぐるぐると思考の渦に飲み込まれていきます。
(ダ、ダメですわ、この事態はわたくしの処理能力を超えていますわ)
わたくしは必死の形相でメイド長の方に目線をやり、『助けて!!』とアイコンタクトを送りましたが、メイド長はそっと目を逸らしてしまいました。
メイド長ぉー!!
「ステフ」
「ひぇッ!? は、はい」
戦々恐々としている中、急に話しかけられてつい変な声が出てしまいます。
「しょの愛らしい瞳に私以外のものバカリ映すなんて、悪い子だナ……」
「!!???」
ミッチーどうしてしまいましたのぉおおー!!???
冷や汗をダラダラ流しながら、顔を真っ赤にして必死の形相でこちらを見てくる様は、ときめきよりも驚愕しか生み出していません。笑いを通り越して、一体何が起こったのか、脳が現実を拒絶してしまうような光景なのです。
本人はキメ顔をしているのかもしれませんが、緊張と羞恥で頰が引き攣っているので、無理をしている様が手に取るように分かります。
わたくしは『もう耐えられない助けて!』と勢いよく侍従侍女達の方を振り向きましたが、彼らはぷるぷる肩を震わせながら『お願いこっちに振らないでください!!』と顔をぶんぶん横に振っています。
こんな状態で朝食の味なんて分かりませんわ、わたくし一体どうしたらいいんですの!?
しかし現実は残酷で、あっという間に朝食が運ばれてきてしまいました。
ふと、カタカタ音がすると思ったら、朝食を運んでいる侍女の手がぷるぷる震えています。気持ちは分かるけれども頑張って!!
「ス、ステフ」
「はいっ!?」
「その……も、もしかしてこの部屋は女性には寒いんじゃないか?」
侍女達は寒くて震えているんじゃありませんわぁー!?
壁際から、いくつか「ブハッ」と息を噴き出すような音がしたかと思うと、数人の侍従と侍女が部屋を走り去って行きました。
執事が、「後で教育し直さなければいけませんね」と涼しい顔をして呟いています。
優しくしてあげてくださいまし!?
若い侍従侍女にこの空間は酷だと思いますの!!
「ステフ、その、手を出してもらってもいいか」
「どうぞ!?」
「や、やはり冷たいな。私は今暑いくらいだから、こうして準備が整うまで、わた、私が温めてあげよう」
差し出した右手を包み込むように大きな手に握られて、わたくしはドキドキする余裕もなく、驚愕でまたしても口をカパっと開けてしまいます。
驚きすぎて血の気がひいているわたくしの手は冷たいかもしれません。
けれども、そんな真っ赤な顔をしてじっとり汗ばんだ手が震えているあなたは高熱患者のようですわ!!
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