第21話 震える愛の巨匠な私
ステファニーは、ステファニーだけじゃない彼女を含む私以外の人間は、カパっと顎が落ちそうなくらい口を開けて、唖然として私を見ている。
もはや気づいている者もいるかもしれないな。
私の立てた計画の名は、『普段のステファニーを真似しよう』大作戦である。
結局、友人にアドバイスを求め、書籍を読んだが、愛は多様なもので、どういった表現をステファニーが好むのか、私にはさっぱり分からなかった。
しかし、私には分かっていることがある。
ステファニーは愛を知っている!
そして、彼女がやっていた愛情表現は、彼女が好む方法に他ならないのである!
ならば私がやるべきことは一つ。
ステファニーが私に対してしていた愛情表現を真似る!!
(ククッ。さすが私。計画どおりだ……!)
ラブマイスターこと私は、計画を順調に実行に移せている自分を褒め称えながら、腕の中のステファニーを見つめる。
なんということだ、久しぶりに間近で見るステファニーは、輝かんばかりに美しくて緊張が高まるばかりだ!
「ス、ステファニー、マイラブ。今日の最初の君へのちゅーは、わ、わた、私のものだ……」
「!!??」
震えながら彼女の頰に口づけを落とすと、ステファニーは口だけでなく、目も大きく見開いて彫像のように固まっている。
なんだその表情は。
君だって「今日のミッチーのほっぺちゅーはわたくしのものですわー!」と言いながら、毎朝私にちゅっちゅしていたではないか!
もっといつもみたいに食いついてこないか!
「さ、さあ、席につこうか。朝食をいただこう」
「は、はひ」
「君の好物ばかりを用意してもらったんだ」
「そ、そうですのね……」
きっと私の首から上は真っ赤になっているであろう。
なんということだ、こんなにも実践が難しいとは! ラブマイスターの私でなければ、暴れ狂うような頰の熱で憤死してしまうところだぞ!
私は椅子を引いて、ステファニーを席に座らせる。
その場所は、私の斜め前だ。
(し、しまったぞ。一番近い席に座っているというのに、食堂だと配置が遠いから、『アーン』ができない……!)
私は自分の痛恨のミスに舌打ちしながら、平静を装って自分の席に着く。
しかし、なんだか暑いな。緊張のせいか、体がカッカしてきたぞ。
私はドッドッと音を立てて鳴り止まない心臓を必死で落ち着かせようとしながら、運ばれてくる料理を眺めるふりをしてステファニーをチラチラ垣間見る。
ステファニーは珍しいことに私の方を見ておらず、手元を見たり、救いを求めるようにメイド長達の方を見ていたりしていた。
そんなステファニーに不満を感じた私は、ハッとあることに気がつく。
(思ったことを、ポロリと言う……! 今がまさに、そのチャンスなんじゃないか!?)
こういう時、逆の立場だとステファニーは「わたくし以外を見ちゃいやですわ、ミッチー!」と言いながら私にぎゅうぎゅうしがみついてきていた。
食堂だからしがみつくのは難しいが、ここは頑張るところではなかろうか!
「ステフ」
「ひぇッ!? は、はい」
「しょの愛らしい瞳に私以外のものバカリ映すなんて、悪い子だナ……」
「!!???」
よ、よぉし、キマったぞ!
少し噛んでしまったが、まあ許容の範囲だろう。
妹達から昨日借りたばかりの『溺愛シリーズ』書籍によくこのセリフが登場していたのだ。
しかし、セリフありきの言葉ではない。ステファニーを見て、自然とたどり着いた言葉だから、悪くはないはずだ。
そうだよな、信じているぞバーナード!!
私は妹と友人と書籍に感謝しながら、ステファニーにキメ顔を向ける。
ステファニーはそんな私を見て、またしても、口を顎が外れそうなほどカパっと大きく開けていた。
その後ステファニーはすごい勢いで侍従侍女達の方を向いていたが、全員がぶんぶんと顔を横に振っている。
なんだ、それは一体どういう反応なのだ!?
(ま、まだまだ行くぞ! 生まれ変わった私の新たなる側面を、ステファニーの心に焼き付けるのだ!)
手や体の震えを無視しながら、私は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます