第19話 友人2の有用な助言
「それで今度は、俺のところに
呆れたような声でそう返してきたのは、セイントルキア学園時代の同級生のリシャール=リバーフィールド。リバーフィールド伯爵家の長男だ。
私達の結婚式には参列してくれていたが、うちの領地とワインの産地で有名なリバーフィールド伯爵領は接していて、片道5日程度なので、そろそろ領主邸についていると思っていたんだ。よかったよかった。
「大体、結婚して6日で喧嘩とか何をやってるんだよ」
結婚したその夜からとは口が裂けても言えないな……。
「うちの領内は、男も女ものんびりしているからなぁ。あんまり参考にならないと思うぞ」
「そこをなんとか。実はな、うちの妹がこう言ってたんだよ」
「!? ミリアリーゼさんが何か!?」
「ん? ミリア? 違うぞ、マリアがだな」
「……ああ、マリアリーゼさん。マリアリーゼさんね」
「マリアが、『ミリアは朗らかで落ち着くタイプの男性が良いワインが出来たって笑顔で話しかけてくるのが好きだ』と言っていたから――」
ドンガラガラガッシャーン!!!
「ど、どうした! 何があった!?」
「ちょ、ちょっと椅子から落ちただけだ、気にするな」
「気にするわ! 何をやってるんだ、全く……」
「それで、ミリアさんについて、他に何か情報はあるのか?」
「いや、それ以上は教えてくれなかったんだよ。本当にケチ臭い妹達だろう?」
「ミリアさんをケチ臭いとか言うな!」
「もう一体なんなんだよ!」
何故私の友人達は妹の肩ばかり持つのだ?
「それでだな、ワインに何か秘訣があるのかと思って……」
「それはない」
「え?」
「それは断じてない」
「そ、そうか」
ワインを片手に持っていると、男味が増すとかそういうことはないのか……。
「分かった。ええとだな、うちの領内特有の話だからあくまでも参考に留めてほしいのだが」
「助かる」
「うちは皆呑気だから、思ったことをぽろぽろ口にしているようなんだ」
「思ったことを?」
「そうだ。例えば、ご飯を食べている時にふと、『今日も美しいな』と妻に向かってぽろりと呟く夫や、小麦の収穫をしている夫に『働く男って素敵……』と呟いている妻の例が散見される」
「なん、だと……!?」
なんだその、生粋の人たらしな領地は!
なんて危険な場所だ、ステファニーを連れて行くのは避けなければ。
「かくいう俺も、学園時代はよくミリ……ゲッホゲホ、女性に『ところ構わず口説かないで!』と恥ずかしがられてしまって、ようやくうちの領地が特異なことに気がついたんだ」
「それまで気がついていなかったのか」
「ああ。食事中に父が母を褒めるのも、ふとした時に母が私を褒めてくるのも、皆普通のことだと思っていた」
生まれながらの人たらし、怖い。
「だが、どうやらこの性格は、その……領地外だともの凄く異性ウケがいいらしい」
「伝聞なのか?」
「それはまあ、そうだ。私には想う女性がいるから、女性関係は控え目にしていて、実感がないんだ」
「そうなのか!? 今まで聞いたことがないんだが、相手は誰だ!?」
「すまないがお前にだけは絶対に言えない」
「私にだけ!?」
それから、どんなに頼んでも下手に出ても、リシャールの奴は私に誰に懸想しているのか教えてくれなかった。
そして、「そのうち分かるから」「無理はするなよ」「ミリアさんによろしく」とそれだけ言って、奴は通話を切ってしまったのだ。
私は不満タラタラの顔で廊下を歩いていると、一つ年下の双子の妹マリアリーゼとミリアリーゼがこちらに歩いてきていた。
「マリア、ミリア」
「あら、お兄様。対策は練れたのかしら?」
「……」
「兄様のために、一応恋愛小説もいくつか見繕ってきたのだけれど」
「な、何ッ!?」
私は二人が抱えている書籍を奪うようにして受け取る。
そういえば、先ほどまでの友人達の会話からすると、二人はバーナードとリシャールと知り合いのようだった。
1学年違うとはいえ、バーナードもリシャールも妹達も、セイントルキア学園の生徒だったのだ。学園内で顔見知りになったのだろう。
学園といえば、卒業したばかりの私達と違って、一つ年下の妹達はまだ在学生だ。私の結婚式に参加するために領地に戻ってきてはいたけれども、そろそろ学園のある王都に帰還しなければならない頃だ。もっと早めに戻る予定だったのに、私とステファニーのために滞在を長くしてくれているのだろう。申し訳ないことだ。
「二人とも色々と本当にありがとう。この本も助かった。よかった、バーナードとリシャールに聞いたけどいまいち自信がなかったからな」
「バッ!?」
「に、兄様? リシャール様に連絡を取ったの?」
「……? ああ、色々と話を聞かせてもらったんだ。あいつらはモテるらしいから、まあまあ参考になったぞ」
「何ですってぇ!? バーナード様から何を聞きましたの!」
「……?? 何って、女性の口説き方に決まっているだろう」
「それで!? それで、リシャール様はなんておっしゃってましたか!?」
鬼気迫る妹達の様子に、私は恐れ慄きながら、二人から聞いた話を妹達に伝える。
恐ろしさのあまり、私の語り口はしどろもどろもいいところだったが、話を聞き出した妹二人は、何故か顔を赤らめて「さすがバーナード様……」「リシャール様……」と満足げにしていた。一体なんなのだ!
まあいい、情報収集はこのぐらいにして、後は私なりの対策を練るのみだ。
グッと拳に力を入れ、私は気合を入れるのだった。
「ああそういえば、二人の好みを伝えたら、バーナードもリシャールも驚いていたな」
その後の失言により、私が烈火の如く怒る妹達から散々お説教を喰らったことは言うまでもあるまい。
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