第18話 友人1の有用な助言



「……それで、私のところに遠距離通話テレフォンしてきたのか」



 呆れたような声でそう言ってきたのは、バーナード=バジョットだ。

 バジョット伯爵家特有の燃えるような真っ赤な髪に橙色の瞳が特徴的なガタイのいいこの男は、セイントルキア学園時代のクラスメートである。


 今回の件を相談するならば、私だけでなくステファニーのことも知っている相手の方がいいと考えた私は、セイントルキア学園時代のクラスメート達を思い浮かべた。


 しかしながらよく考えると、仲の良い友人達は6日前の結婚式に呼んでしまったので、ほとんどがまだ自領に戻る旅路の最中である。しかも、遠距離通話テレフォンは有線で繋ぐ必要があり、高価で整備に金がかかるので、各領地の領主邸や軍事本部等の主要な場所にしか置かれていない設備だ。


 領主邸や軍事本部の遠距離通話テレフォンを自由に使うことができるクラスメート……。


 そこで白羽の矢を立てたのが、このバーナード=バジョットである。


 バーナードはバジョット伯爵家の長男なので、セイントルキア学園卒業後はバジョット伯爵領にある伯爵家本邸に戻っていた。しかも、結婚式に参列していない。いや、元々は私達の結婚式にも参列する予定だったのだが、バジョット伯爵が体調不良で倒れてしまったため、次期伯爵として領地を離れられなくなってしまったのだ。そして何より、私ともステファニーとも割と仲が良いのである。


「頼む。お前は俺と同じく図体だけがでかい無愛想かつ無神経な男のくせにモテると聞いたぞ。何が秘訣なんだ」

「それが人にものを頼む態度か!」

「本当に困っているんだ。やはり脳筋がいいのか。日に焼けた方がモテるのか」

「お前は一体どこを目指しているんだ」

「円満な夫婦関係だ」


 心底困り果てている様子の私に、最初はビキビキと血管を浮き上がらせていたバーナードも、諦めたように息を吐く。


「全く、お前に夢中だったあのステファニーさんを怒らせるとは、お前は一体何をしたんだ」

「ステファニーを名前で呼ぶな!」

「クラスメートは全員彼女を名前で呼んでいただろうに。お前、本格的に拗らせてるんだな」


 確かにステファニーは、「卒業したらすぐにマイケルと結婚するから、分かりやすいように名前で呼んでくださいまし」と意気揚々にクラスメート達に語っていた。「そ、そ、そんなことを公言するな!」と慌てる私に、「婚約者なのに照れてるミッチーも可愛いですわー!」とステファニーが抱きついたものだから、クラスメート達は生暖かい眼差しで私達を見ていたな……。


「女性への対応だったか? 私の家は男世帯おとこじょたいだから、そういう相談は向かないと思うぞ。妹さん達に聞いた方がいいんじゃないか。……その、マリアリーゼさんとか」

「そのマリアリーゼにも聞いたが、教えてくれないんだよ。ああそういえばミリアの奴が、『マリアは騎士っぽい武骨で不器用な男性からちょっと照れながら誘われるのが好き』とか言っていたな」


 ドンガラガッシャーン!!


 耳元から大音量の物音が聞こえて、私はキンキンする耳を抑えながら慌てる。


「どうしたバーナード! 何かあったのか!?」

「……い、いや、少し椅子から転げ落ちただけだ」

「運動神経の塊のお前が? 一体何をしているんだ」

「いや、その。……他にマリアリーゼさんは何か言っていたか」

「マリア? いや、それ以上は何も教えてくれなかったんだよな。ケチ臭いやつだ」

「マリアさんをケチ臭いとか言うな!」

「マリアさん!?」


 急になんなんだよ、もう。


「いや、なんでもない。ええと、これは私の持論に過ぎないのだが、それでいいか」

「それで構わない!」

「……女性に対する対応で一番大切なのはだな、誠意を持って接することだと思う。その女性の容姿だけでなく、在り方を尊敬していれば、自然と言葉が出てくるはずだ」

「自然と」

「そうだ。相手の女性をよく見ることだ。綺麗だの可愛いだの、女性が喜ぶ言葉を覚えてそれを杓子定規に言うのではなく、相手の女性の良いところをしっかり見極めるんだ。その結果が、綺麗、可愛い、といった言葉に繋がるのは問題がない……と、思う」

「なるほど、とにかく綺麗可愛いだな」

「こいつ話を聞いてない!?」

「冗談だよ。分かった、ステファニーをよく見ることにする。どうもありがとう」


 満足げな声で返す私に、バーナードは「無理をするなよ?」「少しずつ挑戦するんだ、できる範囲を見極めろ」「下手すると戦死離縁するぞ」「マリアさんによろしく」と言って最後まで心配そうにしていた。



 うん、なんとなく分かったぞ。

 ステファニーをよく見ていればいいんだな。


 しかしあれだ、心配だからもう一人ぐらい相談しておくか。

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