第13話 新たな町への件

 僕とエルは職練の町でEランクになったので、そろそろ違う町に出かけようって相談していたんだ。この町にきて2ヶ月が過ぎたしね。でも、僕とエルの意見は行先ゆきさきのことで真っ向から対立していた。


「だから、魔導具を見に王国カインの王都、カインに向かうんだってば!!」


「ユージ様、今や王都カインよりも、ヤーマーラ国との境の町、ヤカラ町の方が優れた魔導具が多くございます。それに、近くにはトウジ様の作られた観光温泉街もございますので、そちらを訪ねるのも子孫として当然かと」


 いや、僕は知ってるんだよ、エル。各部屋に露天風呂が完備されてる【豚の箱観光温泉街8号店】に泊まろうとしてるのを…… パンフレットを隠し忘れたエルの思惑は僕にはバレバレなんだからね。


 そして僕は勝負に負けた…… 何故か最後は腕相撲で話の決着をつけようってなって、僕は勝てると思って了承したんだけど、あの時の僕はなぜ勝てると思ったんだろう? 瞬殺されてしまったよ。


「フフフ、ユージ様。ではヤカラ町を目指すという事でよろしいですね」


 ぼくは力なく頷いたよ。負けた僕が悪いからね。それから宿屋のラムレさんにチェックアウトを伝えた。


「残念です、もっと泊まってもらいたかったのに。あ、エルさん。うちのほうから8号店には連絡を入れてますから、安心して下さいね」


 とニッコリ笑顔で言うラムレさんにエルがシーッって言ってるけど、もう遅いよ。まあ、そんな風にお願いしてたんなら行かなきゃ悪いよね。

 僕がラムレさんにわざわざ有難うございますって言ったからエルもホッとした顔をしてたよ。


 そして宿屋を出て冒険者ギルドに向かう。ギルドでは何故かギルドマスターの部屋に通された。


「行ってしまうのですね、ユージ殿……」


 サーラーさんが寂しそうな笑顔でそう言う。


「ずっとこの町に居て貰いたいのですが…… そうですか、行かれるんですね」


 ハーレイさんが横にいるエミリーさんと2人でそう言う。


「ガーハッハッハッ、二度と会えない訳じゃあるまいし、笑って見送ってやれよ。ユージはまだ若いんだから色々と見て回りたいんだよ。また、この町に寄った時には顔をみせろよ、ユージ、エル!」

 

 ゴーダックさんがそう言うとみんなが笑って、また会いましょうって言ってくれたよ。


 そして僕とエルは職練の町を後にしたんだ。


「この2ヶ月、楽しかったな」


 門を出て暫く歩いた後に僕がそう言うと、エルも


「ええ、皆さん良い人ばかりで、それにハクシン商会のお弁当は美味しかったですし、宿も快適でしたね」


 と同意する。


「でも僕はもっと色んな場所を見てみたいから、しょうがないよね」


「そうですね、ユージ様がここに住みたいと思われない限り、旅をしていくのも良いと思いますよ。私は何処までもついてまいりますから」


「有難う、エル……」


 ちょっとだけ、しんみりしちゃったよ。別れは辛いものだからね。でも、必ずまたこの町にも顔を出そうって僕は気分を入れ替えて元気に歩き出した。



 歩いて街道を進んでいたら後方から馬車がやって来たので僕とエルは道の端に避けた。すると馬車はちょうど僕とエルの真横で停まる。馬車の小窓が開いて女性の顔が見えた。


「あの、つかぬ事をお伺いしますが、冒険者の方でしょうか?」


 その女性が僕とエルを見てそう聞いてきたんだ。


「はい、僕もエルもEランク冒険者ですけど、何か?」


 僕がそう答えると女性の顔がホッとしたような顔になり、馬車の扉を開けて降りてきた。


不躾ぶしつけに申し訳ありません。依頼したいのですが、今は何か依頼を受けておられますでしょうか? 依頼したいのは護衛依頼なのですが……」


 馬車を降りてきてそう言う女性を見ながら僕とエルは顔を見合わせた。エルは僕に任せるという顔をしている。


「えっと、今は何も依頼を受けてません。ヤカラの町に拠点を移す為に移動している最中ですけど、護衛依頼ですか?」


 僕がそう言うと女性はパッと頭を上げて言う。


「はい、この先にあるテラムの町まで馬車の護衛をお願いできますでしょうか? 馬車の中にいるのはテラムの町を含めたこの辺り一体を治める領主様、タルカール伯爵のご息女なのですが、その大変言い難い事情がございまして…… 依頼料はテラムの町まで、ここからですと馬車で2日ほどですので、1日にお1人30,000コルク(銀貨3枚)お支払いしますので、何とかお願い出来ないでしょうか?」


 女性がそう言ってまた頭を下げた時に馬車から女の子が出てきた。僕よりも年下かな? でも物凄く可愛い娘だったよ。その子が平民の僕たちにとても丁寧な口調でこう言ってきたんだ。


「あの、初めまして…… タルカール伯爵の3女でハイリと言います。突然こんな事を頼んで申し訳ありません。実は父から勘当されまして、テラムの町で勝手に暮らせと言われまして…… 職練の町までは護衛が居たのですが、この先にはついていけないと言われまして困っていたんです……」


 僕には分かった。この先に伯爵の手の者により襲撃があると。そうじゃなければ護衛はテラムの町まで着いてきた筈だからね。一体なんで勘当されたのかは気になるけど、この娘は何も悪くないように思える。

 似たような境遇のこの令嬢を見捨てたくない僕はある条件をつけて護衛依頼を受ける事にしたんだ。


「僕はユージと言います。横の相棒はエルと言います。2人ともEランクと、ランクは低いですがそれで良ければ護衛依頼をお受けします。但し、条件があります」


 僕の最初の言葉にパッと顔を輝かせ、後の言葉にちょっと顔を曇らせるハイリさん。


「条件とは何でしょうか?」


 と少し不安そうに聞いてきたんだ。僕は条件を言った。その条件とは……

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