指先で死を
@iijimaichiru
第1話:進路希望
予鈴がなった。未だ教室はガヤガヤとうるさい。なんとかハンターの連載が再開されるとか、コンビニで売ってるバターアイスが美味いとか。 昨日は日本上空にミサイルが通過し、日本海側に落ちた。幸い死者は出なかったものの。海沿いの街は津波の被害に遭ったらしい。でもそれはだれも話さない。話したところでなにも変わらないし、哀しくなるだけだからだ。
暫くして額に脂汗をかいた担任の西村が教室に入ってきた。服は常にジャージで、加齢臭が酷い。性格は生徒思いで差別しない良い人だが、女子生徒からの評価は最悪だ。
西村先生が教卓についても静かにはならない。先生はそれに気にも留めず自分の鞄を漁っている。無駄に多い雑山とした書類から黒いファイルが出てきた。そこで初めて先生は背筋をなるべく伸ばして立ち上がり大きなこえでクラスに訴えた。
「えー!今日の5限は数学からHRに変更になる。内容は、みんなのこれからの進路についてだ!人生を変える大きな選択になる。ゆっくりでいいから、真剣に考えて欲しい。」
(真剣になどと、逃げ切り世代がよく言う。)私は心の中で毒吐いた。いっても仕方ないと分かっていても、世界がもたらした負の遺産を若者に押し付ける社会が、世界が、私は心底大嫌いだった。
そんな事を考え、ぼーっとしていた間に、学校支給のタブレットにデータが送られてきた。wordファイルのデータはあまりにシンプルなものだった。
【進路希望調査票】
2年B組21番 野崎 律
以下希望する職種に丸をつけて提出してください。
・bloomer
・commander
但し、本人の適性を鑑みて、希望通りにならない場合もある事を予めご了承下さい。
以上
タブレットを持つ手に力が入る。くそったれだ。何が進路だ。2つしかないくせに。小難しい言葉で誤魔化して、結局は死ぬリスクが高いけど死ぬ時痛みを感じないbloomerか、安全な場所で指示できるけどその惨劇を全て脳裏に焼き付けて絶望の果ていつか死んでいくcommander。どちらも反吐がでる。道徳や倫理なんて、平和な世界限定の詭弁であったのだと今になると思う。この世界は、この国は、既にそれらが波状している。
結局、時間内に選択できるわけもなく。期日までゆっくり考えるようにと釘をさされておわった。周りをみてもそんな感じだ。そもそも現実感がまるでない。大人は大事な事ほど言わないから。イメージなんて出来るわけない。
クラスメイトは散り散りになって下校していく。私も帰ろう。図書室で借りた本を返してからだ。そしたらまた別のを借りよう。本を読めるのも新しい知識を得るのもきっともうそんなに時間が残されてはいないのだかー
「律ちゃん!図書室いくでしょ?一緒に行こうー!」
思考を一瞬で遮る高い声、分からないはずはない。幼稚園からの幼なじみ、花江 蜜。
うるさくて、常に一緒に居ようとする。今だってクラスの奴らと帰ればいいんだ。
うるさいけど、もう慣れてるし、断る理由もないから放っておく。すると後から子犬のようについてくる。クラスが違うからよくわからないがきっと頭悪い。人からは好かれそうだけど。
図書室について、本を返却したあと、いくつかの本をまた選んで、机の上に置いた。
大体1割くらい読んで、合いそうなのだけ借りる。だって時間は有限だから。
向かい側の席では蜜がなにか書いていた。大方友達への手紙が補修かと思った。でも、腕の隙間から見えるかしこまった明朝体に覚えがあった。
「おまえ、それ…」
「うん、早く書かないと、出すの忘れちゃうでしょ?」
「いや、そういうことじゃない。あたしが…言いたいのは」
「お前、bloomer志望なのか?」
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