☆第26Q 反省会
10分間のゲームも終わり、選手全員がコートの中央にあるホワイトボードの前に集められていた。
「はい、んじゃまあ反省会始めんぞ。試合出てない奴らも気が付いたことはどんどん出してけよー」
パンパン、と手を叩く須田の合図と共に反省会が始まる。反省会と謳っているが会議のようなきっちりとした司会進行などなく、あーでもないこーでもないとまるで『会議が躍る』と言わんばかりのグダグダ感が漂っていだ。
「今日は両チームに言えることだけど、珍しく安藤と夜野の
「そうっすよ! つか安藤の野郎、めっちゃ調子良すぎじゃないですか?? おれ、それのせいで昼飯奢る羽目になったんですけど!?」
「そもそも割り勘とはいえ、奢る言ったのお前だからな白橋」
「ムキーっ! 何がお望みですかこの野郎」
「白橋、とりあえず明日学食な」
「おれのおかねぇ……」
須田の一言から始まった反省会だが、すぐさま脱線を始める。めそめそと胸を抑えながら泣く白橋の肩に手を置くのは、悪魔のような笑みを浮かべる安藤である。安藤自身が金髪というのもあり、悪魔より魔王に見えたと後日白橋は語った。
「雑談は練習後にしなさいねー、ってか今日のような試合を本番でやられたら、今さっき以上に流れ持ってかれるな」
「まあそうだな。後はお互いあったとはいえディフェンスが全体的に甘い印象はあった。リバウンドもチームAは路川が何回も取っているに対して
「サァッセン!! 俺がゴール下で存在感出せなかったあまりに……!」
「どぇぇぇぇぇっ待て待て待て、後レンズゥ割れてない!?」
須田が腕を組みながら考え込む中、ふとした内山の一言に悔しそうに床に項垂れる江端。チームBのなかで
とはいえ、江端本人としては目の前で193㎝の路川に何度もリバウンドを取られた。その結果、「おれゴール下向いてないのでは……?」と試合中何度も心の内で考えていた江端の
カコンと勢い余って自身の眼鏡を床に落としているが本人は気にしていないというより気づいていないように見える。今日は珍しく普段ならコンタクトを付けている江端が眼鏡を付けてバスケをしていたのもあり、須田は余計に動揺していた。安藤曰く、「あいつ馬鹿なんで、コンタクト忘れて眼鏡忘れるとかザラにありますよ。あと寝たら落ち込んだ事すぐ忘れるし」と呆れながら2度も言ったのは須田の記憶に新しい。
「バスケに目立つ関係ないからね江端君?」
「
「やだっ! ウッチーそんな白い目で俺の事見ないでくれる!?」
そんな様子に思わず須田は声を荒げながら江端を何度も立ち上がらせようとするも江端はスライムの如く床にへばり付く。後悔の念が強いのかはたまたおちょくっているのかは本人のみぞ知る。この間、他のメンバーは意見を出し合っていた中での出来事である。そんな中、こっそりと朝比奈に声をかけたのは前岡だった。
「朝比奈くんさぁ」
「何?」
「なんか吹っ切れた?」
「あー、いや別に吹っ切れたわけじゃないけど。……まあ、案外このチームも悪くないって言うか。点取るの楽しいなって思ったって言うか」
「へぇ!」
「ってか声デカい煩い。名前知らないけどお前身長高いな何センチ」
「エッ知らないだと……」
「ちょっ前岡ァーー、こいつ体験入部のときに褒められた事もあって友人認証していたから余計に落ち込んでやがる……」
覚えてもらえていない事実に驚愕して前岡は本来の性格を表しているかのように、アルマジロのように丸まっていた。それを不思議に思ってか朝比奈はツンツンと背中を突く。そんな1年同士で朗らか(?)な会話をしている間に2年の藤戸はそういえば、と話題を変えていた。
「白橋と夜野のディフェンスって結構ザルだよな」
「夜野はそんなザルって程じゃねぇだろ。……今日はいつも以上に抜かれたりドフリーにされていたけど」
「うぐぅ!」
「ちょっとちょっとー、1年に寄ってたかってイジメるの良くないと思うの白橋!」
決してイジメているわけではない。ただふとした感想を2年生の先輩から聞こえた夜野は思わずぐうの音が出るほどに一気に落ち込む。そんな様子の夜野を白橋は庇うかの如く、一歩前に出る。
だが、その行動は他の2年からすれば恰好の的であった。
「つか俺からしたら夜野より白橋の方がやりやすいわ、ドフリーでスリー打てるし」
「てめぇ安藤の野郎……!」
「がんばれよーザルディフェンス組。特に白橋」
「お前に言われたくねぇわ藤戸ォ! つかザルじゃねぇしそもそもザルだったら今頃安藤の野郎に何回も奢ってるわ!」
「お前、去年から100に近い回数『今おれお金ないんですぅ……』って泣きながら俺の膝にへばり付いていただろうがよ」
「うっせぇ、安藤のばーかばーか! そんな記憶は宇宙の彼方に飛んでいきましたァ!」
「怒り方子供じゃんウケる」
「江端ァ助けてよーーー! 安藤と藤戸と安藤が俺のことイジメるのー!」
「何で2回も俺出てんだよ」
場は混沌と化していた。
「確かにディフェンス苦手だけどさぁ……」
巻き込まれ事故となった夜野は事実とはいえ言われた事に体育座りをし、蹲る。その背中は落ち込んでいますと表現しているも同然だった。それにしても、と目の前で行われている反省会の様子を俯瞰して見てみると、中学時代との違いを身をもって体感していた。
――
今現在も桐谷と桝田は何かを確認しているようでクリップボードに挟まれている紙にスラスラと文字を書いているが、別に桐谷や桝田が何も言わないというわけではない。とはいえ、今までのコーチはコーチに言われたことを遂行するような練習スタイルだったため入部して1か月というのもあり慣れてきたとはいえ未だに物珍しさはある。
――それで結果出しているんだから凄いよな。桐谷先生になってから
夜野は別の方向にふつふつと胸の内側から溢れてくる怒りの矛先が向かいつつあった。そんな中。
「げぇっ毎度練習中試合中拘わらず突然現れた石橋!」
「げぇっ! て言われるのは僕からすればご褒美なんでアザッス!」
「えっ何言ってんのこの子コワッ」
ふふん、と不敵に笑う石橋に藤戸が正直な感想を口にする。重い腰を上げた夜野は石橋の頭を勢いよく叩く。
「いやドMかよ」
「やだ夜野ちゃんアタイのことそう思ってたのね……!」
「めんどくせぇ」
「あいたっ」
「すみません、安藤さんこいつの事は何とかするんで」
「ったく落ち込む暇がねぇな」と言わんばかりに大きなため息をつく夜野に『幸せが逃げちゃうぞ☆』と夜野の頬を何度も突きながら絡みに行く石橋を見て、バスケ部内でもまともな人間枠の人たちは「あっなんかこの光景見覚えがあると思ったら須田と内山、安藤と白橋のあれだわ」と今までの既視感について理解し、霧が晴れたかのようにすっきりしていた。
反省会もグダグダながらとはいえ、一度終了となった。そして須田・江端の戦いの軍配は江端に上がった。へとへとになっている須田を横目に「ちょっと一瞬だけいいか?」と内山に声をかけられたチームBは、ストレッチを始めているほか部員が集まるホワイトボードの前から少し離れたところ立っていた。
「悪い、最後の2分は確実に僕のミスだ」
メンバーが集まったと同時に深々と頭を下げる内山。
「えっいや謝んないでください! つか俺の方こそすみません……安藤さんのディフェンス全然抜けなくて」
「僕もすみません、はしゃいじゃって!」
「俺もすみません、安藤の野郎に煽られて」
「すんませーんですんませーん」
「っておい。確かに僕は謝るつもりで来たけど夜野、お前が落ち込んでどうする。後他3人は明らかに謝るつもりねぇだろ」
夜野が内山に対し落ち込みながら謝る姿を見て、石橋、白橋、江端と続く。だが、夜野とは違い残り3人は『とりあえず謝っておけばいいや精神』が見え隠れしていた。ちなみに江端は何故呼ばれたのか分からないままこの場に来ている。
「とりあえず自己満とはいえ、謝りたかっただけだ。悪いな引き留めて」
内山自身の汗で萎みかかっているマッシュヘアから覗く眉は下げられており、本当に悪かったと両手を合わせる内山の姿に何度も頷く4人。それを見てか「それじゃストレッチ入念にな、僕水買って来るわ」と後ろを振り返らず自販機のある廊下側の出口に歩いて行った。
「何というか、須田さんより内山さんの方が主将向いているのでは?」
「……気づいたか夜野、顔からして石橋もだな」
神妙な顔で頷く石橋。それを見てか白橋はゆっくりと瞼を閉じ、数秒後にゆっくりと目を開く。世界がまるでスローモーションかのようにゆっくりのように感じる。そして、白橋が(どこかいつもの顔と違って眉と顎が太かったように見えたが)口を開く。
「正直に言おう。
――部内の誰もがそれ思ってる。須田さん含めて」
「ですよねー」
「なんじゃそりゃ!?」
夜野と石橋の白橋から伝えられた内容の返事は両極端だった。
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