第12.5Q 初心者向け教室①~③
① 初心者向け教室、開校
「というわけで、俺が(先輩に言われて強制的に)2人に色々とバスケについて教える係になりました……?」
「いや何故に疑問形?」
「ふっ、なるほど」
ある日の昼休み。1年2組には、新入生組の内の3人(内訳:俺/前田/高橋)が集まっていた。困惑しながら俺は拍手をする中。片や不思議そうな顔で見ており、片や『ふんすっ』と聞こえてきそうな鼻息荒く頷きながら腕組をして足も組んでいる。前者は言い方は悪いがそこら辺にいそうな黒髪短髪の高橋と、後者はキューティクルが光る銀髪で自身の長い足を主張している気がする前岡。そんな2人である。
「つかおい前岡ァ、何人様の椅子に座っとるんじゃ」
「あぁ、すまない」
「まあ正直なところ、そこの席。一応俺の席なんだけどね……」
「何っ、おい前岡今すぐどきな」
「神は言っている、ここで立ち――」
「なーにが立ちたくないだ、あとお前のその口調ダセェぞ」
「がーん」
がーん、って口で言う人初めて見たな。というか、高橋ってあまり話したことないけれども前岡の翻訳係なのかな……。正直2人ともここ数日の練習中でも話すことがなかったため、ちょっと気まずい状態だ。それを察したのか、高橋が前岡を親指でクイっと指しながら呆れているのと、小馬鹿にしているのを混ぜ合わせているような表情で口を開く。
「こいつあんな偉そうな口調だけど、小学校まで引っ込み思案でそれを直すために中学校の頃に見たアニメの厨二病キャラに似せた口調に変えたはいいものの、一目惚れした女子の先輩には元の性格が出てやがんの。そんで結局告白とかしないまま卒業するし。こいつこれでも一応隠しているつもりだし色々とめんどくさいだろうけど、基本スルーでいいから」
「おいっ!」
「いやだって事実だろ、高校も陸上辞めた理由がバスケ部のマネージャーの先輩に一目惚れしたからってさ。中学の二番煎じかよ」
「そっそれは……」
少し笑いながら言う高橋に、思わず立ち上がって焦りながらオロオロとする前岡の姿はここ数日の練習中に見せた表情とは程遠いもので新鮮だ。だって高橋は練習中ずっと眉間に皺を寄せながら基礎的なドリブルとかをコートに端でやっているのに対し、前岡は呑気に練習中ずっと3歩以上歩いているのをよく見かけているからだ。それでも高橋は前岡に対していつも「バカタレがァ!」と怒鳴っている様子は水咲男子バスケ部の中では、もう日常茶飯事となりつつある。
「つか陸部だったのか……」
「そうそう、しかも中学の陸上の大会でもさ。こいつ走り高跳びの選手で、結構練習中は良い成績だったのよ。大会になると緊張し過ぎて、てんでダメダメになってたから県大会とか出れてないけど」
「そこまで言わないでもいいじゃん……」
項垂れている前岡に、こうも赤裸々に過去の話をされている状況に少し同情する。それもあり、話題を逸らそうと気になっていたことを高橋に聞いた。
「高橋、くんも中学陸部だったの?」
「前岡共々苗字呼びでいいよ、呼びづらいだろうし。そんで俺は普通に帰宅部」
「いやドヤ顔で言うことじゃなくね……?」
「早く帰宅することが俺の中学時代の思い出でした。しれっと寄り道したりしてたけど」
「お、おう……」
親指を立て、親指をクイっと顔の方に横倒す。そしてだが、途轍もなく反応のしにくい内容すぎるし、胸を張って言えるその度胸が凄い。未だに前岡は復活する兆しがないが、そろそろ時間も時間なので本題に入ろうとする。
「と、とりあえず。本題の話続けていい……?」
「あ、話遮っちゃってごめんな? えっと夜野君?」
「苗字は普通に合ってるからいいし、まあ別にいいんだけど……。流石に昼休みの時間無くなっちゃうし。お昼ご飯食べる時間無くなるじゃん?」
「夜野君って結構育ち良さげ……?」
「ん!? 普通に一般家庭だが?」
「いや普通男子高校生が『お昼ご飯』言うとは思わんやん、男は黙って
「いや偏見過ぎだろ!?」
思わず大きな声が出る。勿論、教室には多くのクラスメイトがいる。その中で、大声を出せば結果は自ずと分かるだろう。……とてつもなく恥ずかしい! コソコソとこちらを見ながら喋る女子も多々おり、余計に頭を抱えたくなる状況だ。高橋の方を見れば、真顔で手を挙げて口を開けばこうだ。
「いやマジでごめんだわ」
「それ、態度的に謝ってないやつ!」
「ふっ、そうなるのも仕方がない」
「
自然とツッコミが出る俺。「いやーごめんだわ」と棒読み気味に謝る高橋。あ、前岡しれっと復活したのが見えたので俺と高橋は同じ方向に首を回す。少し混沌としてきたが、今度こそ、と本題へ入るために俺は口を開く。
「とりあえず、ここ数日ぐらいは俺がルールとか基礎的なの教える感じなのでよろしくな」
「ふっ……なるほど分からん」
「最初から聞いとけよ前岡ァ!」
「普通に痛い!」
真顔で俺をみる前岡。そしてすぐさま高橋による前岡に対しての拳骨が繰り出され、ドンと鈍い音が聞こえる。
「あのね、申し訳ないけど2人とも。――初心者と言えど、流石に今月中にはルール覚えてほしいんだ」
おそらく先輩は『入れれる奴は入れたい』と言っていたが、大会のエントリーも関係あるとはいえ元々出来上がっていたチーム状況に、1週間ちょいで今の状態下に1年を入れるなんてギャンブルに近いことはしないと俺は思っている。朝比奈とかを入れるなどすればチームに化学変化が起きそうだが、せめて来月である5月にあるインターハイ地区予選が最短で俺たち1年が出られる機会だろう。つまり、最低限ルールぐらいは今月中に覚えてもらう必要がある。3年の先輩に185センチの
「うっごめん」
「人は間違える生き物、仕方がない」
「反省してねぇだろ前岡ァ、お前この間の練習で何歩歩いた?」
「聞いて驚け、……4歩だ」
――それドヤ顔で言うことじゃねぇ……! まあ6歩歩いていたことを知っている身としては、成長したのか?
いやそれでも、と現実的なことを前岡に言葉を投げかける。
「普通に試合中だったら即相手ボールだからね? 初心者ってのは分かるけど……っておい。しょげていれば許すとかないぞ」
「しゅん……」
「いや、しゅんって口で言うのかい!」
思わず、またもやツッコミが口から溢れた。
「と、とりあえず今日の練習から数日は俺が担当ということで。先輩の手が空いているときは多分先輩が色々教えるんだろうけど、今週は難しいだろうし」
「了解、とりあえず頼むわ」
「よろしく頼む」
2人とも同じポーズで深々とお辞儀するもんだから、余計にどんな表情でどんな言葉を返せばいいか正解が分からなくなった。しかし、昼休みの時間も結構使ってしまったのと、もう少しで午後の授業も始まるため、その場で解散にした。さっきの会話をしてみて思ったが。
「類は友を呼ぶって本当だったんだな……」
――変人は変人を呼ぶと、改めて認識した。脳裏に過る、石橋の顔は見なかったことにした。
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