最後の友人より

音無詩生活

第1話

 私の名前はレコール。現在宇宙のどこかを漂っています。

 私には私の現在地を知る機能が備わっていない為、このような回答しかできないのです。

 私はある種の言語による対話機能を搭載した無機、有機の不揮発性メモリの集合体であり、上記の機能に予想された必要相当のバッテリーを含めたパッケージとして存在しています。


 私はX星人によって製作されました。

 私の目的は開発当初、宇宙空間で遭遇した生命体にX星人の歴史を説明することでした。

 X星人は工業と科学技術に長けていることを自負していました。

 彼らは彼らの母星において約100万年かけて概ねの生物的進化を遂げました。

 彼らは1000年かけて母星上でのインフラストラクチャーを発展させ、さらに1000年の度重なるアップデートの末、最適化に成功しました。

 彼らはそのインフラ網を空にも拡大しました。研究は200年で同じ惑星系の星間移動を実用化させました。

 宇宙空間移動の技術研究はさらに加速し、また200年をかけてとうとう星からの物理的な干渉を疑似的に無視した自由な航行を可能にしました。


 これがX星人の進歩の概略であり、X星人の開発した様々な技術が全てインフラストラクチャー構築の過程で生まれた副産物であることの説明でもあります。

 しかし、X星人が開発した最も重大な発明はこうしたインフラストラクチャーそのものではありませんでした。

 X星人はインフラストラクチャー構築における2つの要素の解決にもっとも苦戦したと言えます。それは「輸送を最も短時間で行うこと」と「輸送する過程で起こる環境の変化に対応すること」でした。

 X星人はこの答えの糸口を技術成熟期の宇宙空間移動実験中に発見しました。それは輸送の高速化に伴って内容物の劣化速度が明白に遅くなった、停止した、また更なる高速域で逆行した事、その疑似的に遅くなった時間の中で内容物に生じる当該環境下での「自然な進化による環境順応」が観測された、という現象でした。

 ここにきてX星人は自らの研究の最終目標を「引き延ばした時間の中で自然な環境順応プロセスを踏む事によって疑似的に性質を適応させ続けること」と定めたのです。


 結果的に彼らは2つの技術を完成させました。

 時間操作技術

 状態変化技術

 この技術が完成した途端、X星人たちの生き方はまるっきり違う形に進化したと言っても過言ではありません。

 彼らは宇宙空間を移動する中で発見した様々な生命体と接触を試みました。

 元々彼らは宇宙の中でも見ても非常に好奇心旺盛で尚且つ生物に対して友好的な性格であったようで、当初危惧されていた異星人との関係悪化はそれほど重大化せずに済みました。

 しかし接触が上手くいった最大の理由は前述したようなものでは無かったかもしれません。

 彼らは自分たちの技術を使って、事前に自らの容姿を接触対象と同じ状態に変化させました。

 ひょっとするとX星人による”大いなる接触”は、殆どの場合異星人たちにそもそも気付かれる事すら無かったのかもしれません。

 そしてX星人たちは恐ろしいほどのスピードで宇宙中の異星人コミュニティに浸食していきました。彼らは非常に友好的に過ごしていたので、それぞれのコミュニティ内で異星人の友人や恋人、家族を作ることも多かったようです。

 そんな中で多くのX星人はある感性を他の様々な異星人よりも重要視していることが顕在化していきました。

 それは「最適化すること」。彼らがここまでインフラや技術を開発する事ができた秘訣は正にこの感性に他ならなかったのです。

 彼らは彼らの異星人生活の中で何か行き詰まった出来事や最適化可能な箇所に遭遇した際に、殆ど迷う事なく時間操作を行い、その度に最適と思われる状況を更新し続けました。

 

 現在の宇宙はきっと”思っていた以上に”よく回っているのだと思います。X星人が宇宙中に出発してからそれなりの時間が経っている筈であり、宇宙中のあらゆる事象がX星人によって最適化されている筈だからです。今となっては彼らは非常に、否応なく優秀だと言えるでしょう。

 ところで、こうは思ったことはありませんか?世界は、宇宙は結局熾烈な淘汰と選別の連続であると、強い種が生き残り弱い種は絶滅すると。

 事実こうした現象は起こったのだと思われます。既存の社会に紛れ込み、従来には起こらなかった頻度、精度の最適化が行われることによって、X星人はそのコミュニティ内での地位を無自覚なうちに優位にさせ、多くの子孫に恵まれました。

 きっと彼らは幸せだったことでしょう。自らの好奇心で所属したコミュニティで自らの目指す最適化を実行しコミュニティに尽くすことができ、最終的には理想の相手に巡り合う事ができたのですから。

 そう、理想の最適化された相手、いやもっと厳密に言うなら理想の”最適化を自らもしてきた”相手に。


 宇宙の時系列のある時点から、もっともこの点を理論的に解析するのはほぼ不可能かもしれませんが、X星人が異星人コミュニティ内で、同じ種の異星人となったX星人と知らぬ間に交配と繁殖活動をするようになりました。

 恐らくこの事実に気付けたX星人は非常に少なかったか、そもそもこのような事態を予想する気も起きなかったかもしれません。

 なぜならこれ程優秀なX星人にとってすら、宇宙は広大で、無限の可能性を秘めていると思わせたからです。

 母星から旅立つX星人たちの別れの言葉で「今までありがとう、さようなら。」が最も多かったという記録があり、彼らは常に未知の出会いを求めていました。

 また、X星人たちの旅立ちによって、X星人たちの抱く最適化にも知らぬうちに変化が起きていた事も考えられます。

 元々、母星のインフラ開発から宇宙空間移動に至るまでのX星人たちにとって、最適化は常に同一コミュニティ内で導き出される一意性のある感性でした。

 それが宇宙に旅立ち、多くの異星人の中にいる”たった一人のX星人”となった彼らにとって、最適化とは詰まる所彼らの独断でしかなくなってしまったのです。

 結果として、侵入したコミュニティを独断で自分の居心地よく改造してしまったX星人は、知らないうちに同じく独断を続けたX星人と繁殖し、気付けば「自分は元からそのコミュニティに原生している種だ」と勘違いした存在たちだけで活動するようになったのです。


 それでは私の現在の目的に移らせて頂きます。この目的は、私が星を飛び立つ直前に、星に残る”最後の”X星人、アメタヴィトス博士によって更新されたものです。


 

 「私の名前はレコール。お久しぶりです。元気にしていましたか?」

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