-7 酔った須藤と


 「旭くーん、こっち向いてー」

 「は、ちょ――!?」

 「ん~、ちゅっ」


 瞬間、頬っぺたに柔らかなものが触れた。じんわりと温かなそれに呆気に取られていると、ピンク色の唇が近づいてくる。

 次の狙いが俺の口元であることに気づいて、とっさに彼女をはねのけた。


 「痛っ……」

 「あっ、わ、悪い!」


 肩を押しやったときに力を入れすぎたのだろう、須藤は苦悶の表情を浮かべていて。

 患部を手のひらでさする姿に、チクリと胸が痛んだ。

 須藤が上目遣いのようなものを向けながら、吐息混じりに告げてくる。


 「旭くんのせいで腫れちゃったかもしれません……」

 「そんなつもりじゃ、なかったんだけど」

 「なので、冷やしてもらっても……いいですか?」

 「っ、分かった」


 急いでキッチンへと向かい、清潔なタオルを濡らしていく。これを押し当ててやれば、少しは痛みも引くかもしれない。

 ある程度水気を切り、須藤のもとに戻る。すると、彼女が着ていたトップスを脱いでるところだった。


 「ちょっ、おま――っ!」

 「なんですか? 脱がなきゃ冷やせないでしょー?」

 「そ、それはそうだけど」


 だからって男の前で堂々と脱ぐのは……。普通、抵抗あるもんだろ。

 こっちは二日連続で知り合いの女子の脱衣シーンに遭遇して、悶々とさせられっぱなしなんだが。

 

 「……っ」


 上半身下着姿の須藤を視界に収め、カッと顔が熱くなる。

 清楚な見た目らしい、白のブラジャーだった。布地に包まれているおっぱいは、昨日まの当たりにした鳥栖よりやや控えめだが、それでもでかい。バレーボールぐらいはあるかもしれない。


 「旭くんってばどこ見てるんですかー? 勝手にカップ数計算するのやめてくださーい」

 「し、してねーよ! てか出来るか!」

 「くすっ、見てることは否定しないんですね?」

 「ぐっ……」


 ニヤニヤとおちょくるような顔で見ないでほしい。

 なんだかいたたまれなくなってきた、もう帰りたい。――あ、ここが俺の家じゃん。

 酔ってるせいか、彼女はソファからずり落ちてしまっている。ソファを背にして、とろんとした眼差しを向けてきた。


 「早くー、冷やしてくださいよぉ」

 「ほ、ほら、タオル」

 「私っ、肩痛めてて、腕上がんないんですよっ」

 「服さっき脱いでたろ普通に!」

 「それで痛めたかもしれないです。な・の・で、お願いしまーす」


 この女どうあっても俺にやらせる気らしい。

 またも流されてしまってる気がするが、こっちにも非はあるので、断りづらいんだよなぁ……。


 背後からだとやりづらいので須藤の前に立ち、ひとつ息をつく。なるべく見ないように決意を固め、濡らしたタオルを近づけていった。


 「んっ……」

 「へ、ヘンな声出すなよっ」

 「くすくす……動揺し過ぎじゃないですか? 旭くんには刺激が強過ぎましたかね」

 「……っ」

 

 そりゃこんなの意識するなって方が無理に決まってる。須藤みたいな美女の下着姿を見て、吐息を感じて、気が触れてないのが不思議なぐらいだ。

 悶々としながらも、目を逸らしたまま、タオルを押し当て続ける。バクバクと鳴る心臓がうるさい。身体の火照りが、タオル越しに伝わってないといいんだけど。

 

 「旭くん、そろそろ」

 「あ、もういいのか?」

 「反対側も、お願いします」

 「そ、そうか……」


 言われた通りにタオルを移動させようとして、ゆっくりと顔を向けた瞬間。須藤に顔を掴まれてしまった。

 グイっと真正面に固定され、彼女の整った顔立ちが視界いっぱいに広がる。


 「へ?」

 「よそ見しないで、私だけを見ててください」

 「そんなのできるわけないだろ。お前っ、自分がどんな格好してるのか」

 「旭くんになら、もっと見られたっていいです」

 「それってどういう……」


 戸惑いを覚えていると、須藤が動いた。顔に添えていた手のひらを、自分の背中側へと回していく。

 パチンというなにかが外れる音がして、重力に従うかのようにブラジャーが床へと吸い込まれていくのが見えた。


 「ぁ……」


 俺の声はかすれていた。

 だって目の前に、須藤の生おっぱいが現れたんだから。

 ぶるんっという音が聞こえそうなほどに実を震わせ、ゆさゆさと揺れている。

 色白でハリのあるそれを、まじまじと見てしまう。目が離せない。


 「私のおっぱい、どうですか?」

 「え……あ、綺麗だと思う」

 「触ってみても、いいですよ?」 

 「……っ」


 いくらなんでもそれは、取り返しがつかないだろ。

 お酒を飲んで、解放的になってるらしい須藤の提案を、俺は呑むわけにはいかない。

 きちんと頭では理解しているのに、俺の手は伸びていて。

 下から掬い上げるようにして、須藤のおっぱいに触れた。汗でもかいてるのかしっとりしてて、手のひらに吸いついてくる。触り心地がいい。


 「んっ……けっこう紳士的なんですね。いきなりめちゃくちゃにされると思ってました」

 「俺はお前と違って、酒を飲んでないからな。自制ぐらいできる」

 「くすっ……ウソはダメですよ?」


 須藤が妖艶な笑みを浮かべたかと思うと、身体に刺激が走った。

 

 「うっぐうぅぅっ――!?」

 「もう、準備万端みたいですね」

 「おいバカっ、どこ触って!」

 「バカっていう方がバカなんですよー」

 「こ、こんな時にふざけてる場合じゃ……!」

 「ふざけてませんよ。私は、いつだって本気ですから」

 「……っ」


 なんだよその強い目は……。なにが言いたいんだお前は。

 まともに思考が働かないでいるところを、須藤が押し倒してくる。ごろんと床に寝かされ、上から彼女が見下ろしてきた。

 この展開は危険だと学んだばかりなのに、抵抗できない。流されるようにズボンとパンツが取っ払われた。

 須藤がスカートの中に手を入れ、白い布が足から抜き去られる。それがなんなのかは、ぼんやりした頭でもピンときた。


 「す、須藤……っ」

 「くすっ……バカはバカなりに、堕ちるとこまで堕ちちゃいましょうか」


 上にまたがりながら、須藤がささやいてくる。

 声だけでも抵抗しようとした瞬間、気持ちのいいものに包まれていって。

 俺の頭はだんだん真っ白になっていった……。

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