-10 あーん


 「ねぇ旭っち、外になんか食べに行こ?」

 「あぁ、いいぞ」


 講義と講義の合間に、時間があるので、俺たちは外へと繰り出すことにした。べつに昼飯は学食でも食えるんだが、今回は鳥栖の要望に応えることにする。

 行き交う人たちの波に身を任せつつ、店探しをしていく。


 「この辺ってチェーン店多いよな」

 「近くに大学が二つもあるから、若者向けのビジネス展開をしてるんでしょーに」

 「大人って賢いな。俺、立派な大人になれるか正直不安がある」

 「でもさ、旭っちは昨日大人の階段を上ったわけで」

 「やめろ! 思い出させんな――すいませんでした!」

 「にひひっ、怒るのか謝るのかどっちかにしろよ~」

 

 はにかみながらバシバシ肩を叩いてくる鳥栖をいなしつつ、よさそうなとこに当たりをつけていく。

 うーむ、麺とかはいいな。でも、定食系も捨てがたい。


 「そういえばさ、この近くにカフェあったよね?」

 「え? まぁ、そうだな」

 「なんか最近バズったってうわさの店なんだよね~。旭っち、知ってる?」

 「ど、どうだろうな」


 そーっと目を逸らす。知ってるもなにも俺のバイトしてる店だったから。

 

 ちなみにだが、鳥栖は俺がそこでバイトしてることを知らない。教えたら絶対にからかいに来るに違いないからだ。

 なので、できれば候補から外しておきたいところ。


 「あー、俺はがっつりご飯ものが食いたいかも」

 「んむぅ、旭っちがそこまでいうなら、ウチもそうしよう」

 

 無事に鳥栖の承諾も得られたので、先ほど当たりをつけてた中のひとつにあった定食屋さんに入る。

 店内はそこそこの賑わいをみせていた。それぞれ券売機で品物を頼み、できたものを持って空いていたテーブル席に座ることにする。

 向かいの席に鳥栖が座り、目を輝かせながら箸を持った。


 「お前の肉野菜定食、美味そうだな」

 「あ、それなら、半分こしよ? そっちの生姜焼きもウチによこせ~」

 「ほいほい。――って、お前っ、三切れはやめろよ! 俺の分なくなるだろ」

 「昨日動いたからなぁ、エネルギーが不足してるんかなぁ」

 

 コイツ、人の弱みを抉ってきやがる。ぐっ、心が痛い。痛すぎる。

 胸を押さえて苦しむ様子にさすがの鳥栖も良心が痛んだのか、申し訳なさそうに頭を下げてきた。


 「ウチ、旭っちの優しさにつけこんでたとこあったかも。だから、このとーり!」

 「うん、まぁ、分かってもらえたのなら」

 「お詫びにあーんしてあ・げ・る。ほれ~っ」

 「やめろ、目立ってんだよ」

 

 仕事中っぽいサラリーマンとか、学生とかにじろじろ見られて……って、あれ? あそこにいるのってまさか……。


 「どしたん、旭っち? もうひと口欲しいの?」

 「もぐもぐ……んっ、いや、あそこに知り合――んぐっ」


 肉野菜を口に放り込まれながら、視線を向けているとどうやら食事が終わったらしい。ほかにいた連れの女子たちと席を立ち、こっちにやってくる。

 で、チラと視線を向けてきて。特に気にした様子もなく、去っていってしまった。

 怒ってるような感じはみられなかったが、本人に訊ねてみないことには分からんよな。


 「ぶーぶーっ、旭っちの反応うっす~、つまんねー」

 

 え、なんでコイツ怒ってんの……?

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