3

「じゃあ、まずはわたしから話すね」


 いつもそうだった。

 三人集まれば、マイペースな紅葉と寡黙な桜庭に対してうまくリードしていくのが桃川美亜だった。紅葉はそんな三人の相性がとても心地よかったのだけれど、今年の春休みに舞浜ランドに遊びに行った時に見た光の粉をまぶしたような美亜の笑顔が、ただただ可愛かったのだ。その時から幼馴染の理解者は、紅葉の初恋の相手へと成長してしまった。


「さっきも言ったけど、最初にこの人いいなって思ったのは、紅男と一緒に初めて桜庭くんのバスケの試合の応援に行った時。普段はあの紅男と仲良くしてくれてるただの優しい人だな、くらいのつもりだったんだけど、結局はギャップ萌えなのかな。きりっとした表情でバスケットをする姿がね、すっごく甘酸っぱかったの。恋愛漫画を読んでても、なかなかそこまではならないんだけど、ああ、これが恋なんだなあって。それからだよ。ずっと桜庭くんのことを見てた」


 鼻をすすりながら、それでも楽しそうに話を続ける美亜のことを、紅葉は黙って見ていた。その笑顔の先に自分がただの友達枠でしか出てこないことが、胸をぎゅっと締め付けた。


「だから、桜庭くんが紅男のことを好きで、それも男として好きだっていうのを聞いて、よく分からなくなった。それはね、桜庭くんがゲイだからって思ったからじゃないの。本当は、わたしの一番大切な友達が、恋敵になったっていう事実が許せなかったの。それも女としては自分の方がずっと上なんだって思ってたんだってことが分かったから、辛かったの。わたし、そんな嫌な女なんだなって思って」

「美亜……」

「黙ってて」

「は、はい」


 一瞬睨まれて、紅葉は口に手を当てて塞いだ。


「けど、そういうどうしようもなく羨んでしまう部分も含めて、わたしは女なんだなって思う。桜庭くんが女嫌いなんだとしたら、きっとこういう部分が嫌なんだろうね。それをこうしてわざわざ口に出して言うところも、なんか同情誘ってるみたいで嫌だけど、でも自分から正直に話すって言ったんだもん。話さなきゃだよ」


 桃川の頬を伝った混じり気のない雫が、テーブルの上に落ちた。


「あの日からずっと、紅男に対してどろどろとしてるの。嫉妬とか、同性としてとか、異性としてとか、もういっそわたしも男だったら良かったのかなとか、滅茶苦茶考えて、眠れなくて、挙句に風邪なんか引いて、ほんと馬鹿。馬鹿なのはわたしだった。大馬鹿よ」


 桜庭も紅葉も、黙って聞いていた。


「でもね、そんな馬鹿が一生に一度くらいの気持ちで言う好きを、桜庭くんにはちゃんと受け止めてもらいたいの。わたし、桃川美亜は、桜庭正陽くんのことが大好きです。真剣に考えて、お返事を下さい。お願いします」


 頭を膝上まで下げた美亜の頭から、ニット帽が落ちた。桜庭は黙ってそれを拾い上げると、顔を上げた彼女に手渡してから、


「今度は俺の番だな」


 低い声で桜庭が頷いた。

 紅葉は自分が最後なんだ、と感じて、胃袋の辺りが重くなる。

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