第四章 「聖夜の理解者」
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寒くはなるものの雪は降らないだろう、というのが今日の夜の予報だった。
それでも既に息は真っ白になるくらいで、柊紅葉は耳が隠れる大きなニット帽に襟元にファー素材の付いたロングコートを羽織って、その家の前にいた。右手だけ手袋を外して、改めてLINEを確認したが、家の二階に居るであろう桃川美亜からの返事はまだなかった。
> 桃川美亜さん。イブの日に、二人で会ってくれますか。
昨日送ったものは既読が付いていたけれど、それに対して彼女が何を考えたのかを知る手段は結局強行突破しかないのだろうな、と紅葉は感じた。小さい頃に何度も押した桃川家のインタフォンを押すと、暫くして美亜の母親の声が応えた。
「あの、柊です。美亜さん、いらっしゃいますか?」
「あぁ、美亜ね。ちょっと風邪引いちゃったのよ」
嘘だ、と紅葉は思ったが「そうですか。お大事に、とお伝え下さい」まずは素直に引き下がる。
「ごめんなさいね」
その言葉の後に溜息にも似た無言を感じたけれど、プツッと音声は途切れてしまった。
玄関から離れて紅葉は二階の一室の窓を見上げた。ライトグリーンのカーテンが引かれていたけれど、それが一瞬揺らいだのが分かった。すぐさまLINEで「風邪とか言うな」と送ったが、一秒と経たずに、
> ばーか
と怒ったサンタのスタンプが返された。
「おい、美亜。なんで?」
声を上げたけれど、カーテンは開かない。
またLINEで返事だ、と思ってスマートフォンを見ると、それは桜庭正陽からのものだった。
> 今、家の前にいるんだけど。
家というのはおそらく紅葉の家の前のことだ。どうしたものかと思ったが、とりあえず「なんで?」と返す。
> 告白しようと思って。
「あのさ美亜。桜庭もここに呼んでいいか?」
と、ガラリと突然窓が開いて、カーテンを払い除けて顔を出した美亜が痰が絡まった声で叫んだ。
「ちょっと何考えてんのよ! 馬鹿馬鹿馬鹿! 大ッキライ!」
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