第12話
村の中は不気味なまでに静まり返っていた。人の気配がまったくない。村には物があちらこちらに散乱しているばかりで、
放棄されて何日も経っているのだろう荷車のむしろで覆われた荷台からは鼻を刺す腐敗臭がした。編みかけの靴下が地べたに落ちている。
異変が起こった後、村人たちは慌てて逃げ出そうとしたのだろうか。
僕は慎重に村の奥へと足を進めた。
村の中心のこじんまりとした教会の前にはちょっとした広場があって、そこに立派な井戸が備え付けられている。僕はその井戸にもたれかかる人影を見つけた。
周囲の気配を静かに探る。ひりつくような悪意が感じられないのを確認してから、僕は倒れたその村人に駆け寄った。
近づくにつれそのみずほらしい姿が
「大丈夫ですか?」
その男性の体を抱き起し、言葉をかけて意識を確認する。男性はうすぼんやりとまぶたを持ち上げた。
「…が…して…きた…。」
うまく聞き取れなかった僕は耳を近づける。
「…どらが鳴らされて、地響きがして、奴らが来た!」
いきなり男性が
瞬間、周囲から凄まじい数の気配がした。無数の何かが僕たちに向かって
誰もいない。
そのうち、僕のうなじが
ドーン、ドーン。
どらが鳴る音が周囲に響き渡り始めた。小刻みに大地が揺れる。僕の額を冷や汗が伝った。
ゴオォォ、ゴオォォ。
次の瞬間、直感に従って僕は男性を押し倒して自分も地面に横ばいになった。
頭上をすさまじい勢いで無数の矢が飛んでいく。その矢は井戸の底から弓なりの軌道を描いて飛んできているようだった。
近づいてくる何かの笑い声
その矢が止むころには、僕も敵がどこから近づいているのか気がついていた。
地下だ。地中から何かが近づいてくる…!
僕は男性を無理やり立たせて井戸から離れる。男性の腕を引きながら僕は村の門へと向かった。
村全体がくぐもった気味の悪いどらの響きで覆われている。ついには井戸から何者かが姿を現した。
汚い
井戸からだけではない。村のあちこちの地面が
足の遅い男性を背負って、僕は村を駆ける。すれ違いざまに僕に向かって
目の前の小鬼の喉を刺し貫き、目を潰し、心臓を貫通する。数十体にもなろうか、小鬼の死体の山を築きながら僕は先を急いだ。
村のちょっとした広い道に出る。背後から
振り返ると、猪に
まさか、騎兵まで小鬼は持っているのか。開けたところに出たのは失敗だったな。僕がそう後悔した時だった。
ヒューッ、とよく聞きなれた風切り音が遠くから聞こえた。僕は思わずにやりと笑ってしまう。そして、そのまま前に向き直って走り出した。
背後で僕を
瞬間、はるか遠方から飛来したマルグレット卿の矢が見事に猪の頭蓋を潰した。
背後で猪の大きな鼻息が止み、小鬼たちが地面に投げ出されたり壁に衝突したりしている音が聞こえてくる。
マルグレット卿は
小鬼たちは村の堀からもわらわらと地上に
マルグレット卿が矢を
「さっさとここから離れてしまいましょう!」
僕は男性を馬の背に乗せながらマルグレット卿とグウェンドリン卿に叫ぶ。二人は返事する代わりにさっと馬に飛び乗った。
僕を先頭にして凄まじい勢いで丘を下っていく。
僕たちの進路に小鬼の一群が待ち構えていた。小鬼たちは集団で盾を掲げ、槍を構えている。
しかし、不慣れなのかその列には所々に隙間があり、小鬼たちの腰もどこか引けている。
僕は好戦的に笑った。そんな
僕の笑みを見た小鬼がビクリと体を震わせた。
そして、それを見逃すほど僕たちは甘くなかった。
僕は剣を馬の前に突き出して構える。背後からマルグレット卿が放つ矢が盾や
ただでさえ
グウェンドリン卿もその槍を振るい、少なくない数の小鬼を
止めとばかりにマルグレット卿が放った矢が小鬼の最後の
「このままボルゴグラード城まで一気に駆け抜けますよ!」
背後から猪に乗った小鬼たちが追撃してくる。マルグレット卿が馬に乗ったまま背後に振り返り矢を放った。
マルグレット卿の矢は面白いように小鬼たちの
先回りして目の前に姿を現した小鬼の騎兵たちを突いて猪の上から吹き飛ばしてしまう。
脇の森に隠れていた
初撃を外した小鬼たちはその報いとしてすぐにマルグレット卿の鋭い射撃を受け、沈黙した。
開けた平原に出る。遠方にはボルゴグラード城の堂々とした姿が見えてきた。大半の小鬼の追手は諦めて村の方向へと去っていくが、幾匹かの小鬼は
しかし、次の瞬間、彼らの顔が恐怖に歪んだ。
城から新たに出てきた北方騎士団の騎士たちが馬に乗って彼らへと突撃を
ある小鬼は首をはねられ、また別のある小鬼は猪ごと両断された。一帯に小鬼の死体が積み重なる。
追手の処理は増援の騎士たちに任せて、僕たちは城に向かった。城門に馬を乗りいれた僕たちに一人の騎士が近づいてくる。副団長だ。
「ショルツ卿、マルグレット卿、グウェンドリン卿も見回りご苦労。馬を
小鬼との戦いでの
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