【第1章完結】初デートで酒場はナシです! ~転生婚活アドバイザー~
六畳のえる
ある日のアドバイザー
第0話 自画像で盛るのはやめましょう
ゆっくりと昇ってきた太陽が、地面を照らす。色とりどりの花が咲き誇る時期であるものの、まだ少し肌寒いせいか、ようやく蕾が膨らみ始めていた。
「今朝海で釣ってきたばっかりの魚だよ、いらんかい?」
「アンタそれ、昨日とおんなじヤツじゃないか」
何度も繰り返された会話が聞こえる朝の市。
南にメインの門があり、大きく円形状に広がっているカタスイ村。隣村との距離も近く、かなり栄えているこの村の中央、酒場や宿屋の並びに、大きな建物がある。二階建ての店は、光沢を出すような細工をしているのか、木造と思えないほどツヤのある綺麗な店構えをしている。「ライナの結婚相談所」と書かれたその二階建ての店に、開店と同時に一人の男性が訪れた。
しばらくして、女性の快活な声が飛ぶ。天井がやや低めだからか、店の外までよく響いた。
「だからネイトさん、前も言ったじゃないですか! 絵描きさんに描いてもらうのはいいけど、こんな美形に描いたら実物見てひっくり返るでしょ!」
テーブルで男女が向かい合って座っている、丸顔で団子鼻の男が口を尖らせた。
「でもよ、リアミーさん、まずは見た目で釣らないと……」
それを聞いた彼女は、真っ白な髪を躍らせるように首を横に振る。
「会ってすぐにバレるんだから意味ないの! その瞬間に『嘘をつく人なんだ』って思われておしまいなんだから。いいですか、大事なのは、結婚を見据えて真剣に相手とお付き合いしたいっていう誠実さ、そして数多のライバルを勝ち抜く狡猾さですよ」
「分かった分かった、まあ顔以外はちゃんと書いてるからよ」
ニヒヒと笑うネイトを気にかけず、リアミーは彼の書いてきたプロフィールに目を通している。やがて、その腕をぷるぷると震わせた。
「ネーイートさん、給料も盛ってるでしょ! ダンジョン入り口付近のゴミ拾いで毎月四千ゴールドっておかしいでしょ! このユーデア国の平均が千七百ゴールドなのに!」
「いやあ、バレちまったか。じゃあ三千くらいに——」
「高い! 盛るにしても限度はあるからね!」
頭を抱えながらようやくプロフィールを修正し、ネイトは意気揚々と帰っていく。もう理想の相手を見つけたかのような軽い足取りだった。
「はあ……前の世界では年収証明が必要だったから虚偽申告できなかったからなあ。早くここでも源泉徴収票や税務申告書の仕組みができるといいんだけど……」
ネイトを見送りがてら店の前に立ち、すっかり明るくなった村を見渡しながら、リアミーは大きく溜息をついた。
且つて幾つかの国を併合してできたというユーデア国。魔王のような存在はいないものの、強弱さまざまなモンスターも出れば、先祖が宝を埋めたとされるダンジョンも多数あり、冒険者や勇者と呼ばれる人が何人もいて、パーティーを組んで管理所で依頼を受けて討伐や探索のミッションに勤しんでいるという、至って普通の国だ。
カタスイ村はその南に位置しており、肥沃な土壌で農作も盛ん。少し遠いが歩いて海まで行けることもあり、漁業を営んでいる人もいる。北方の村からの海路もあるため、移住や旅行で村に来る人も多い。
そんなカタスイ村に古くからあるのが、一軒の結婚相談所。「ライナの結婚相談所」と名前を冠したその店は、この村の生き字引のようなライナおばさんが「人が多かったら、その分相手に迷うだろ」と若いときから始めた相談所だ。とにかく登録者が多いということで、隣村であるスタップ村やマドン村からも登録が来るほどで、逆に他の人が新規で相談所を始めるのは難しいとさえ言われている。
しかし、ライナも最近はかなり高齢で店を切り盛りするのが難しくなってきたらしく、代わりに店を任されているのが二十七歳、働き盛りのリアミーだった。
「リアミー、おはよう!」
「おはよ、デックさん! 今日もダンジョン? 気を付けてね!」
声をかけてくれる人々に挨拶をして、彼女は両手を上に上げてグッと伸びをする。
「さて、今日も新しいお客さん来るかなあ!」
ちょっと傾いていた木製の看板を直し、彼女は店の中に戻って行った。
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