12話:魔王なのに可愛い
エリシアの言葉にフェイドは思わず目を見開いた。先ほど、支配者は神がなにかしらの干渉をしており、黒の支配者を殺そうとしていると聞いたからだ。
だから、フェイドは魔族にいると聞いて驚いたのだ。
エリシアはその支配者がどこの誰で、どこにいるのかを説明する。
「テスタの部下が、北西にある街で雷を自在に扱う魔族を見たという。その者が言うには、ただの雷ではないらしい」
「そうか。だとしたら『黄の支配者』だろうな。雷系統なら最強ともいえるだろう」
「ふむ。ならば間違いないのかもしれない」
「もしかして、俺に頼みっていうのは……」
フェイドはエリシアが何を頼もうとしているのかを察した。
「うむ。どうにかその支配者だろう者を魔王軍に仲間に引き入れたい」
「仲間に、か……」
「ダメだろうか?」
魔族を想うエリシアは、強い仲間を欲していた。それはフェイド然り、支配者だろう者然り。強き者を求めていた。
魔族が生き残るための戦力を。
「敵だった場合、大きな被害が出ることになる」
「だとしても。支配者の力は強大で、なんとしても仲間に引き入れたいんだ。ダメだろうか?」
少し考えるも答えは出ている。
「俺も気になっていたところだ。それに魔族領に支配者がいるとなれば、見過ごすことはできない」
「そう言ってくれて助かる」
「それで、誰が行くんだ?」
「私とテスタ、フェイドの三人で行こうと考えている。その間、私が魔王城を開けることになる」
フェイドが初めてエリシアと出会った時もそうであった。魔王城を開け、一人で山脈へと来ていたのだ。
エリシアは「心配要らない」と言い、その理由を話す。
「その間、魔王城の管理及び命令はモードレッドに任せている。モードレッドは戦闘以外も優秀だからな」
「そうか。出発はいつになる?」
「早い方がいいだろう。連合軍も今回の作戦で戦力が多く削られている。早々に仕掛けて来ることもないだろうからな」
エリシアの推測は正しく、連合軍は大敗したことで迂闊に攻めることができなくなっていた。加えて、勇者二人の損失は戦力と士気に大きく影響していた。
「次からは慎重になるだろう。また、同じように勇者を失いたくないだろうからな」
「うむ。三日後に出発をしよう。その間にテスタとの挨拶は済ませておいてほしい」
「わかった。テスタはどこにいる?」
「テスタはよく、城の外にある修練場にいる。よく場内を走り回っているから、誰かに聞けば教えてくれるはずだ」
「わかった。明日にでも挨拶をしに行くとしよう」
話は終わり、フェイドとエリシアはお茶を飲む。
話はなく、無言の時間が過ぎていくが、エリシアは無言に耐えられなく、何を話そうか頭を悩ませていた。
居心地は悪くないだろうかと。会話がなく気まずくないのだろうかと。
ついついフェイドの顔色を伺ってしまう。フェイドを見ると、ティーカップを片手に外を眺めていた。
何かあるのだろうか。そう思いエリシアが外を見ると、青空と城下町の様子が見えるだけ。聞こえてくる小鳥のさえずりが、この無言の空間に心地よく響いた。
「今日は良い日だ」
「そうだな。ゆっくり散歩をして、昼寝をしたい気分だ」
「お前は毎日忙しそうにしているからな」
魔王といっても、やることは人間達の王とやることは同じだ。重要書類に目を通したり上がってくる報告に対処したりなど様々だ。
フェイドはそんな疲れ切ったエリシアを見て思う。魔族や人間も、結局は同じなのだと。
「エリシア」
「どうした?」
「少し寝たらどうだ?」
「今か?」
「ああ。今ぐらいしかゆっくりできないだろ?」
「それはそうだが……」
「時間になれば起こしてやる」
「そうじゃなくてだな……」
少し恥ずかしそうに頬を朱色の染めるエリシアは俯きながら小声で、フェイドに聞こえる声量で呟いた。
「は、恥ずかしい、のだ……」
フェイドは思わず目を見開き、声を出して笑う。
笑ったフェイドを初めて見るエリシアだが、それよりも笑われたことに反応した。
「何故笑う!」
「いや、なに。魔王なのに案外可愛らしいところがあるんだと思ってな」
「~ッ⁉」
湯気が上がるかのように一気に顔が真っ赤になる。
「フェイドのバカッ!」
そう言ってクッションに顔を埋め、そのまま寝てしまうのだった。
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