3話:復讐の第一歩
要塞に到着したフェイド達は一室にいた。
隣にはアゼッタがおり、対面するのは要塞を任されている魔族の男だった。
その表情は険しく、フェイドに敵意を放ち睨みつけていた。
「アゼッタ様、人間がいるようですが?」
「この者は魔王様と手を組まれた人間です」
「魔王様が人間を許したと言いたいのですか?」
エリシアが人間を許すとは思わなかったのだ。それに、魔王と手を組んだとは思いもよらなかった。
「人間は敵です。数多くの同胞を殺し、自分勝手で欲望に素直な連中です」
「確かに、私も人間が憎いです。ですが、魔王様はこの者と手を組んだのです。魔王様からの伝言です」
――決してフェイドとは敵対するな、と。
「敵対するな? どういうことでしょうか?」
「そのままの意味です。この男、フェイドは勇者と人間に強い恨みを抱き、加えて魔王様のピンチを救った人物でもあります。同じ敵ということで、手を組んだと仰っておりました」
「分かりました」
男はフェイドへと顔を向ける。
その表情には先ほどまでの敵意は消えていたが、それでも警戒はしているようだった。
「私はこの要塞を任されているカルトスという」
「フェイドだ」
「人間が敵なのは本当か?」
「事実だ。勇者に家族や村のみんなを殺され、国に人類の敵と言われた」
強い復讐の念が敵意となって部屋に充満する。
それだけで空間が軋み悲鳴を上げる。アゼッタとカルトスは、フェイドの敵意に当てられて顔色を青くさせる。
「ま、魔族を恨んではいないのか?」
「恨む? 俺は魔族に家族や村のみんなを殺されたわけじゃない。恨む要素はどこにもないと思うが? だが、敵対すると言うのなら容赦はしない」
「わ、わかった」
「フェイド、落ち着いてください」
アゼッタの言葉に自身が冷静じゃなかったことが分かり心を落ち着かせることにした。
するとすぐに圧が消え二人はホッと胸を撫で下ろした。
「悪い。感情的になりすぎた」
座って落ち貸せるフェイドを見て、アゼッタとカルトスも席に着き話を始める。
これ以上フェイドには言えば、また先のようなことになるからと考えていたからだ。
アゼッタは現在の状況をカルトスに尋ねた。
「カルトス、要塞と周辺の状況は?」
「はい。現在の要塞に駐留している兵力は千。アゼッタ様と共に来た兵を合わせて二千になります。続いて、周辺の様子ですが――」
カルトスは周辺の様子を事細かに話す。
だが、問題は要塞から半日の距離にある海上だ。
「連合軍は中央に戦力を集めています。ですが、東部の海上を使って背後からの奇襲を画策しています」
「なんと! つまり、東部の港を使うということですか?」
カルトスの言葉にアゼッタは静かに頷いたことで肯定した。
代わりに答えたのはフェイドだった。
「その通りだ。さっきまで海上の方を索敵していたが、まだ敵の船団は見えていない」
「そうですか。上空から見た周辺の状況はどうですか?」
アゼッタはフェイドの顔を見て様子を伺う。周辺に敵が潜んでいるとなれば、迅速に排除しなければならないからだ。
こちらの情報を敵に渡すなどあってはならない。
「周辺に怪しい者はいない。恐らくだが、俺達が気付いていないと思われているだろうな。周囲の警戒は任せてほしいが、見落としている点もあるだろうからそっちでも頼む」
「分かりました。何か変化があれば報告をお願いしますね」
頷くフェイドを見て、アゼッタはカルトスに指示を出す。
「カルトス。あなたはここで防衛の強化を。その間に私達は沿岸と港の防衛の強化に向かいます。フェイドにも付いてきてもらいます」
返事を返さず、目を瞑るフェイドを見て肯定と受け取ったアゼッタはそこから詳細を話し始める。
フェイドはただ、ずっと聞いているだけ異論を唱えることはない。
「それで、これを聞いて二人はどう思いますか?」
「問題ないかと思われます。ただ、連合軍の戦力が未知数で、こちらの戦力を上回っている可能性も上げられます」
たったの二千の戦力で連合軍を相手にどうやって戦えばいいのか。カルトスはそれが疑問であり懸念点でもあった。
連合軍から海上から来る可能性があるのにも関わらず、魔王様はどうしてこれだけの兵しか派遣しなかったのか。
その疑問はアゼッタによって答えられた。
「それは、フェイドがいるからです。元々はフェイド一人で連合軍と戦おうとしていた」
「――なっ⁉」
カルトスは信じられないとばかりに目を見開いてフェイドを見た。
フェイドは瞑っていた目を見開き答えた。
「魔族は人間の俺をそう簡単に信用はしていないだろう」
その通りだとカルトスやアゼッタは思った。
今まで敵だった人間が「今日から味方だからよろしく」と言われても、簡単に割り切って信用することはできない。
「アゼッタは俺の監視だが、敵が来るかもしれないと分かっていて、何もしないわけにはいかない」
背後から奇襲は何としても阻止したい。
だが、連合軍が中央に戦力を送っているのなら、そこへ戦力を送らないわけにはいかなかった。
「なるほど。我らは背後からの奇襲をさせないために、少ない戦力で守ればいいのだな?」
「簡単に言えばそういうことだ。俺の
フェイドの勇者という言葉に二人は息を飲むのだった。
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