第2章
1話:王国
フェイドが魔王城に来てから二週間が過ぎた頃、連合軍の方でも動きがあった。
ミスレア王国の一室に、三人の勇者と、甲冑に身を包む男が数名跪いていた。
その先には豪奢な玉座に腰をかけて勇者を見つめる、ふくよかな体型に白い髪に白い髭を蓄えた五十代後半の男が座っていた。
名前をケイクス・サシャール・ミスレア。ミスレア王国の現国王、その人であった。
「計画の進捗を聞こう」
ケイクスの言葉に、甲冑に身を包んだ将軍が答える。
「では私から説明させていただきます。まずは現在の戦局からお話しましょう。現在、魔族領と人間領を隔てる北西と北東の戦線が停滞しております。中央戦線には十万の戦力を送り戦闘が始まっておりますが、八魔将が出てきたせいか、未だに拮抗しております」
「数ではこちらが有利なはずだが? それに、勇者を二人も投入している。にもかかわらずどうして停滞したままなのだ?」
ケイクスの尤もな発言に、将軍は「御尤もです」と答え、その理由を説明する。
「魔族は一人一人が我々人間よりも身体能力、内包する魔力が高いです。数値で言い表せば、二倍近い差があります」
「何とかならないのか?」
「北西と北東の両方の戦線に追加で五万の兵を送りました。中央には追加で三万の兵と共に、勇者様に出ていただきます」
「だがそれは陽動であろう?」
「はい。本命は現在建造中の軍船を使い、北東の海を使って背後からの奇襲を仕掛けます。奇襲に使う戦力は二万。少ないようですが、勇者様を筆頭とした戦力。十分に打撃は与えられるでしょう」
ケイクスは将軍の後ろで跪いている三人の勇者へと顔が向けられた。
そのうちの一人は、フェイドの両親を、村のみんなを殺したグレイであった。
「グレイ殿、勝てるか?」
「俺達は勇者です。悪を排除し世界を救う義務があります。勇者の名に誓って勝利して見せましょう」
「うむ」
満足のいく答えが聞けたのか、微笑が浮かんでいる。
次にグレイの右隣にいるプラチナブロンドの長い髪を後ろで一本に縛り、曇りひとつない淡い藍色の瞳をした男だった。
名をレイ・ミシェル。またの名を――【閃光】。
「レイ殿はどうだ?」
「お任せください」
「ははっ、頼もしい限りだ。【閃光】の異名が伊達ではないことを魔族どもに教えてやるのだ」
「はっ」
ケイクスはグレイの左で跪いている美女へと顔を向けた。
瑠璃色の長髪にスカイブルーの瞳をした美女、イレーナ・メルシャス。
氷魔法を得意とする彼女のまたの名を――【氷天】。
「イレーナ殿はどうだ?」
「陛下、私達勇者に任せれば、魔族など敵ではありません。どうか、ご安心してください」
「うむ。そなたらに任せたぞ」
「「「はっ!」」」
勇者達は返事をする。
中央戦線に二人の勇者、東の海上から一人勇者が侵攻することになっている。
将軍が作戦の決行日について話す。
「陛下、二週間後に作戦を決行いたしましょう」
「分かった。期待している」
「はっ!」
謁見の間を後にしたグレイは将軍に、誰が中央に行くのかを聞く。
将軍は立ち止まりグレイ達に向き直って答えた。
「東の海上には将軍一人とイレーナ殿に行ってもらいます」
「なら、俺とレイが中央で暴れ、注目を集めればいいってことだな?」
「はい。レイ殿も頼みました」
「任せておけ。魔族は皆殺しにする」
一瞥したレイはそう言って先に行ってしまった。
残ったグレイとイレーナ、将軍はそんなレイの背中を見ながらやれやれと呆れた表情をする。
「口数が少ないやつだ」
「レイってなんか冷たいわよね」
「お二人はあまりお話にならないのですか?」
将軍は勇者同士ならもっと話していると思ったのだが、二人が首を横に振ったことで意外とでも言いたげな表情を浮かべた。
「アイツは元からあんな性格だ」
「そうね。顔合わせの時から、口数が少なかったわ。そんなことより、私も用があるから先に行くわ」
「なら、俺は修練所にでも行く」
残された将軍は一人、ため息を吐くのだった。
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