5話:魔王の提案

 黒龍は『黒の支配者』について話し始める。


『最上位の祝福ギフトが『支配者』と呼ばれるものだ。『支配者』の祝福ギフトは赤、青、茶、緑、黄、白、黒の七つが存在する』


 黒龍は言葉を区切りフェイドに視線を向ける。


『特に黒に関しては、世界すらも支配できる力を秘めている』

「闇の軍勢か?」

『その通り。取り込んだ者の力を奪う『黒の支配者』は、支配者の祝福ギフトの中でも最も異端で、最強ともいえる力を有している。それも、世界を相手に一人で戦えるほどに』


 フェイドは黒龍へと胡乱気な眼差しを向ける。

 それに気付いた黒龍は「事実だ」と言って話を続ける。


『現に、世界は一度『黒の支配者』によって支配されたことがある』

「なんだと? そんな話は聞いたことがない」

『当たり前だ。遥か昔、今から一万年前になるから、歴史から忘れ去られていてもおかしくはない』


 衝撃の事実に、フェイドもエリシアも開いた口が塞がらないといった状況だ。

 黒龍はさらに話を続ける。


『そして『黒の支配者』は、世界に一人しか存在しない。その者が死ねば、次なる覚醒者へと発現する。今は貴様ということだ。人間よ、問おう。その力を何のために使う?』


 心を見透かされるような眼差しに、フェイドはジッと見据えて答えた。


「復讐だ」

『復讐とな?』

「最初に言ったはずだ。俺は復讐者だと。勇者に家族を殺され人間に人類の敵と烙印を押された俺は、その全てに復讐する」

『そうか。復讐か』


 黒龍は笑い言葉を続ける。


『それもまた一興。ただ、他の『支配者』はお前を殺そうとするだろう』

「関係ないな。敵なら潰すまでだ」

『そうか……』


 もう話すことはないと言わんばかりに黒龍は目を閉じて鼓動が止まった。

フェイドの足元から闇が広がり、黒龍を闇へと引きずり込んだ。

今まで以上の力と魔力が流れ込んでくる。


(厄災と呼ばれた力の一部でこれほどか)


 それほどまでに膨大なまでの力だった。

闇がフェイドへと収束したその場には何も残っておらず、銀黒色のドラゴンを召喚するとその背に乗って飛び立とうとして呼び止められた。


「何か用か?」

「私は魔王エリシア・スカーレッド。少し話がしたい」


 フェイドは少し考える。

 エリシアを見据えるが敵意はなく、話したいという意思が伝わってくる。

 フェイドはドラゴンから降りエリシアと向き合う。


「名前を聞かせてはくれないだろうか?」

「フェイドだ」

「ではフェイド。勇者と人間に復讐したいと言うのは本当か?」


 目を見て問うエリシアは真剣だ。

 ここで嘘だと言って魔族を殺すと言えば、魔王であるエリシアと戦うことになる。

 だが、エリシアの戦闘能力は、黒龍との戦闘を見て粗方把握していた。

 それでもここで嘘を吐くメリットはないために、フェイドは正直に答える。


「本当だ。勇者によって家族と村のみんなが殺され、逃げ延びた俺は人類と敵と判定された」

「つまりは、人間領に居場所はないと?」

「その通りだ」

「ならば提案だ。フェイド、仲間にならないか?」


 まさか魔王から『仲間にならないか』と提案されると思わなかったフェイドは驚きで目を丸くする。

 フェイドにとって悪い提案ではなかったが、仲間になるつもりは微塵もなかった。


「仲間になれという提案だが断る」

「そう、よね。フェイドほどの者が仲間になれば魔族は救わると思ったけど……」


 断られたことであからさまに落ち込むが、フェイドはエリシアに聞かなければならないことがある。


「一つ聞く。魔族の目的はなんだ?」


 フェイドはエリシアにそう尋ねるのだった。

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