第61話 先ずは仕事

 深野さん女神の言葉にカオリちゃんも顔を赤くしながら異論を唱えた。


「ママ、私はまだ結婚しません。仕事をちゃんとしないとダメだと思うの」


 魔王カーナだった時も思ったが相変わらず責任感が強いだ。魔王だった時は慕って集まってくれたたみの為に必死になっていたな。地球に転生しても変わってないようだ。


「私も新しい依頼がありますから直ぐに結婚なんてはできませんよ。2日後に打合せもありますし」


 私も重ねてそう言うと深野さん女神は残念そうな顔になる。


「でもね、愛し合ってた2人がやっと長い時を経て出会えたんだから早く一緒になるべきだと私は思うの」


 あ、そこに誤解があるから一言いっておいた方がいいかな?


「あの、深野さん女神。長い時を経たのはカオリちゃんだけで、私的には別れ別れになってからそんなに時が経ってないといいますか…… その…… 地球に戻ってまだ5ヶ月ぐらいなので」


 そう、私は魔王カーナと離されたのはそれぐらいである。カオリちゃんは私が居なくなった後も魔王カーナとして事後処理を3年ほどしたそうだ。慕ってくれていたたみたちがしいたげられない様に手をうち、どうやら何とかなりそうだと思ったら創生神によって転生させられたらしい。


 たみたちがしいたげられないようにする為に、私の仲間だった者たち(最終決戦についてきていた3人やその前にパーティーを組んでいた者も)がカーナに力を貸して、更には自分たちの目の黒いうちは必ず守ると誓ってくれたそうだ。


 それに、今はコチラに転生しているあの困ったお貴族様にも世話になったらしい…… あいつ、そんな事は一言も言ってなかったぞ。次に来たときには少しだけ優しくしようと思う。

 因みにカオリちゃんは会って直ぐに分かったそうだが、自分の正体はローレンには分からないように隠蔽いんぺいしておいたそうだ。


 良かった…… 私に賛同してくれ、パーティーを組んでくれた者たちや私を手助けしてくれた者は皆、私が居なくなっても心はそのままでいてくれたんだな。

 カオリちゃんは言う。


「タケフミのお陰よ。私が魔王として君臨して人と敵対していた頃は【魔の者たち】なんて名称をたみは人族に付けられてたけど、私が転生する前には【魔力の民】と呼ばれるようになってたわ…… 本当に有難う」


「いや、良いんだ。それに私がそうした訳じゃない。かつての仲間や君が努力した証じゃないか。私なんか何もしてあげられなかったんだから……」


「ううん、そんな事ないわ。タケフミが居なくなって、途方にくれていた時にあのエルフエロフ騎士と、ジャガー族の拳、それからサキュバスの魔女っ娘痴女っ娘が来てくれて、私に力を貸すって言ってくれて…… それから昔のタケフミの仲間にも連絡してくれて…… 何でそこまでしてくれるの? って聞いたら、みんながみんな、それが勇者タケフミが望んだ事だからって言ったのよ…… だから、タケフミには一番感謝してるのよ」


 不覚にも涙が零れそうになる。だが、そこに非常に良いタイミングでツッコミが入った。 


「もお〜、ママを放っておいて2人の世界に入らないで〜!!」


 しまった! 深野さん女神が居たのだった。かつての仲間の話が懐かしくてついつい話し込んでしまった。


「でも、ママは直ぐにタケフミさんと私を結婚させようとするから話に入らせないようにタケフミさんと私にしか分からない話をしてたの」


 おお! さすがはじつむすめだ。可愛くいかれる深野さん女神を恐れずに言い返した。私には無理だな。


「スミマセン、つい懐かしくなってしまって。深野さん女神ないがしろにしていた訳ではないんです。ただ、やっぱり直ぐに結婚とかは私たち2人には無理ですよ。桧山さんの了承も必要でしょうし。けれども深野さん女神のそのお言葉は私には心強いです。有難うございます」


 そう言って私は深野さん女神に頭を下げた。私の言葉を聞いた深野さん女神はニコニコと笑顔になって、カオリちゃんに言う。


「ほら〜、カオリちゃん。コレが大人の対応よ。貴女あなたも見習いなさい。でも、鴉さんは本当にそれで良いの?」


「はい、先ずは私もカオリちゃんも目の前にある仕事を投げ出したりは出来ませんし、こうして出会えたのだから慌てる事は無いかと考えてます」


 私はそう言って深野さん女神に納得してもらったのだった。こうして話合いは終わり、私とカオリちゃんは深野さん女神が認める婚約者となった。

 深野さん女神いわく、桧山さんも認めているとの事だが、私は実際に会って話をするまでは楽観視しない事にした。 


 


 そして2日後の朝、私はスターフェス東京事務所にやって来た。スーツは新調してある。


「おはよう、タケフミ。ちょっとだけ待っていてくれ。ナツキに引き継ぎがあるから」


 そう言われて私は事務所の外に出て自販機でブラックコーヒーを買い飲んでいた。そこにランドールの2人とカオリちゃんがやって来た。


「おめでとう、オジ…… じゃなかった、カラスさん。ヒヤマさんと婚約したのね。ヒヤマさんから聞いたよ」


 ナミちゃんが私にそう言って祝福してくれた。


「ムゥ〜、ヒナもタケフミさんを狙ってたけど、ヒヤマさんには勝てそうにないから…… おめでとうございます」


 ヒナちゃんも祝福してくれている。


「有難う、2人とも。そういう事だからよろしくね」


 私は2人にそう返事した。しかし、ヒナちゃん狙ってたって言うけどヒナちゃんは私で遊んでただけだよね? 【不可視】を使用した私を見つけては楽しそうな顔をしてたし。


 それからカオリちゃんに予定を聞き、私もこれから違う事務所からの依頼を受ける事になるようだと伝え終えた時に相川先輩が出てきた。


「オッ! 来たか。中でナツキが待ってるから行ってくれ。それじゃ、タケフミ、行こうか」


 私はハイと返事をして先輩のあとに続いた。駅に向かい新宿方面に行く電車に乗った。


「木山さんはどうも誰かに狙われてるようでな。警察にも相談してあるそうだが、四六時中ついてくれる訳じゃないから、外にいる間、守って欲しいそうだ」

 

 電車の中は空いていたので先輩は小声でそう私に言ってきた。私は軽く頷いておく。そして、どこで誰が聞いてるのか分からないので、ここでは仕事の話は止めておきましょうと小声で先輩に伝えた。


「おお、そうだな。悪かった。それじゃ向こうの事務所に着いてから話をしよう」


 そして、オジサン2人が黙ったまま電車に揺られること10分。目的の駅で降りた私たちは徒歩で事務所に向かった。駅から徒歩5分ほどのビルに入る先輩。


 受付で名刺を出してアポイントはとってあると伝えると受付のお姉さんが


「伺っております。あちらのエレベーターで5階にお上がり下さい。降りて右に進んでいただきますと、正面に社長室がございますので、そちらにお願い致します」


 と丁寧に教えてくれた。


 私たちは教えられた通りに進んだ。社長室の扉をノックする先輩。中から扉が開き、顔を出した女性が相川先輩に親しそうに声をかけた。


「アラ、相川くん早かったわね。でも良かったわ、木山ちゃんももう来てるの、中に入ってちょうだい」


「ご無沙汰してます、社長。こちらがボディガードの鴉武史からすたけふみです。では、失礼します」


 へえ、女性の社長さんだったのか。それにしても随分と腰の軽い社長さんだな。後ろに立ってるのが秘書さんだろうに、その人に扉を開けさせずに自分で扉を開けるとは…… ある意味この社長さんは秘書泣かせな人なんだろうな。


鴉武史からすたけふみです。本日はよろしくお願いします」


 私はそう挨拶をして先輩に続いて部屋に入った。


「アラー、とってもいい男!! どう? 私と一夜のアバンチュールを楽しまない?」


 中にいた木山美登利きやまみどりさんにいきなりそう言われたのでビックリして固まってしまったが……

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