第58話 困ったお貴族様
日本に戻ってきた翌日、私は報告の為にスターフェス東京事務所に向かった。
出迎えてくれたのはエロフ…… じゃなくて、ナツキさんだった。相川先輩は今はコンドルスターと他の歌手の方を連れて一緒に打ち合わせに出かけているそうだ。戻るのは夕方になるとの事で、ナツキさんからは
「鴉さん、昨日の今日なんですから夕方までゆっくりと体を休めて下さい」
と言われたので、私はお言葉に甘える事にした。
「では、18:00頃にまた来ます」
そう言って私は所長室に入らせて貰い、そこから自宅に転移した。
自宅に転移した私は直ぐに気がついた。
「ローレンッ!! そこに居るのは分かってるぞっ! 出てこいっ!」
そう、私の自宅にローレンが既に来ていたのだ。そして、台所からカップ麺を
「ムグッ、ゴクンッ。おお、無事だったか、タケ。心配したんだぞっ!!」
嘘を吐けーっ!! 心配してたんなら私が大切にとっておいた【旨辛辛増担々麺(辛さ15倍)】を勝手に食べるなよっ!!
「ローレン、取り敢えずそこに座れ。違うっ! 椅子じゃないっ! 床に直接座れ。この国の作法をお前に先ずは教えてやろう……」
そう言って私はローレンを床に正座させた。それでもローレンはカップ麺を
お前、曲がりなりにもイギリス人なんだろ? 麺を
私はそう思いながらもローレンに説教していく。
「いいか、ローレン! 先ずはこの国では家の中は土足厳禁だ。フォークとカップ麺を机においてそのままの姿勢で靴を脱げ!」
ローレンは土足のまま我が家の中をウロウロしていた。コレは文化の違いだからしょうがない。異世界でも家の中は土足だったしな。だがしかし、私のカップ麺を勝手に食べた事を許しはしない。
ってローレンよ…… 靴を脱いで直ぐにカップ麺とフォークを手にしたな……
「いやー、タケよ。このヌードルは美味いな。さすが俺が憧れと尊敬を持っているジャパニーズクオリティだ!」
正座しながら麺をズルズルと音を立てて啜るイギリス人……
くそ、こんな事ならば棚の奥にちゃんと隠しておけば良かった。まさか他人に食べられるとは思わずに台所の見える場所に置いていたのがダメだったな。
「それよりもローレン、私が自宅に戻ったらという話だった筈なのに、何で私が居ない時に転移して来たんだ」
「いや、そりゃお前が心配だったからだよ。ほら、イギリスでも【神の奇跡】の事がニュースになってな。ありゃ、お前だろタケ?」
こいつ…… 私が居るから大丈夫なのは分かってる筈なのに私の家に来る口実にしやがったな。
「ローレン、その言い訳では私は納得出来ないな。何より家主が居ない家に勝手に入り、あまつさえ私が楽しみにしていたカップ麺を勝手に食べている…… 貴族にあるまじき行いだろう。私は怒っているぞ。さあ、ローレン、選ぶんだ。強制帰還か勃起不全か? どちらを選ぶ? 因みに勃起不全の期間は一ヶ月だ」
だが、私の言葉にローレンは不敵に笑った。
「フッフッフッ、タケよ。いつまでも俺を異世界に会った頃のままだと思ってたら間違いだぞ。良かろう、どっちでも良いからかけてみろ!!」
えらい強気だな。何かあるのか? 私は試しに勃起不全をかけてみた。ちゃんとかかる。
「おい、ローレンよ。偉そうに言ったけどしっかりとかかったぞ、勃起不全」
私の言葉に驚くローレン。
「なっ!? なに、そんな馬鹿な! 俺がロンドンのオババから貰った
絶句しているローレンに私は教えてやった。
「確かにその
「なっ、待て待て、タケ! 俺はアキバに……」
最後まで聞かずに私はローレンをイギリスへと送り返した。全く、困ったお貴族様だ。勃起不全は明日には治るようにしておいてやってるし、まあ問題ないだろう。おっと、転移陣を改良しておこう。私が家に居ない時は発動しないようにしておかなくては。ローレンは異世界でもそうだったが
私は転移陣を改良してから部屋にいって布団に横たわった。さすがに私も疲れていたのか直ぐに眠ってしまった。
16:30まで寝た私は起きてから少し早いが夕食を食べて、シャワーを浴びた。
そして再び転移して東京に戻る。因みにイギリスからは何度か転移陣を発動させようとしているローレンの魔力を感じたが無視しておいた。
東京に戻った私は少し早いがスターフェス東京事務所に向かった。相川先輩は既に戻っていた。
私は所長室に通された。念の為に防音しておく。
「おつかれさんだったな、タケフミ。みんなを、いやあの飛行機に乗ってた人たち全員を無事に連れて飛行機を飛ばしてくれて有難う」
相川先輩は私にそう言って頭を下げるが、私はここでもしらばっくれる事にした。
「先輩、アレは【神の奇跡】ですよ」
「フッ、そうだな。そうしておいた方が確かに良いな。深野さんからは電話で報告を受けている。今回の報酬は社長に言われてお前の口座に振り込んでおいたから確認しておいてくれ」
先輩からの言葉に私は分かりましたと返事をしておいた。そして、先輩が歯切れ悪く言葉を続けた。
「で、だな…… あー、その何だ…… お前の事が業界で少し話に上がり始めてだな。ウチじゃない芸能事務所から紹介してくれって頼まれたんだが…… 社長はお前の判断に任せるって言ってたから、ウチの事は気にしなくていいけど、どうだ?」
ほう、違う芸能事務所からか。私は暫く考えてから先輩に言った。
「その、ボディガードが本当に必要な状況のタレントさんを抱えているのなら私は構いませんが、そこの所はどうなんですか?」
「ああ、それはだな。必要かと言えば必要だろうな。何せアチコチで口の悪さから敵を作ってるからな…… ほら、お前も名前ぐらいは知ってるだろ、【
ああ、あの
「分かりました。私で良いのなら力になります。それで、どういう段取りなんでしょうか?」
「ああ、3日後に木山さんの所属する事務所に案内するよ。そこで話をする事になる。時間は午前9時からだ。8時にここに来てくれるか?」
「はい、分かりました。では、今日はコレで」
「ああ、頼むな。受けてくれて助かったよ、タケフミ」
何かあったのか? その芸能事務所からの圧力とか? まあ、それは行けば分かるか。私はそうして所長室からそのまま先輩に断りを入れてから転移して自宅に戻ったのだった。
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