第56話 (閑話)頑張れ、真理ちゃん! 弐(終)

 私は今日もタケフミさんに会えない……


 そんな事を考えながら仕事をしている。父は東京に単身赴任で行ってしまった。警察庁に入庁する事になったらしく、辞令が出て直ぐに引っ越していった。広い家で一人だけなので、あんな父でも居なくなると少し寂しい。


 そんな私を見かねて東郷さんと香山さんは毎晩ご飯に誘ってくれて、家まで2人で送ってくれていた。


 私もそんな同僚2人と食事に行くのが楽しくて、ついつい甘えて毎晩一緒に行ってしまう。父には正直に言ってある。父は東郷先輩が一緒ならいいよと言ってくれてる。

 私は東郷さんにも、香山さんにもタケフミさんに会えないって愚痴をこぼしたんだけど、東郷さんからは、


「真理ちゃん、タケフミくんは真理ちゃんに恋愛感情を抱く事はないよ。それはね、君がタケシの娘だからって事もあるけどそれだけじゃなくて、恐らくはタケフミくんには踏み込んではいけない秘密があるんだよ。その秘密を知ると真理ちゃんに危険が及ぶ可能性が高いから、真理ちゃんを恋人にするという選択肢はタケフミくんは持ってないと思うよ」


 とさとされた。でも、私を危険な事から守りたいって事は私の事を大切に思ってくれてるって事だよね。って思ってたら顔に出ていたらしく、


「それこそ自分の子供のように思ってるんだと思うよ」


 って東郷さんには言われてしまった……


 香山さんは、そんな私の話をニコニコしながら聞いてくれている。

 そんな香山さんに私は八つ当たりしてしまう。


「もう! 香山さん、そんなに笑って! おかしいですか!?」


 だけど八つ当たりした私にも香山さんは優しい。


「い、いや、ごめんよ、相馬そうまさん。笑ってる訳じゃないんだ。一所懸命だなと思って、微笑んでたんだよ」


「分かってますよ〜、もう。八つ当たりしてごめんなさい」


 私は直ぐに香山さんに謝る。

 

 そんな感じの日々が続いていたある日、東郷さんの奥様が調子を崩されたそうで、東郷さんが早退した。でも、私は……


「あの、香山さん、今日も一緒にご飯に行って貰えますか?」


 って、香山さんを誘っていた。アレ、何でだろう?


「きょ、今日は僕だけになるけど、相馬そうまさんはいいの?」


 香山さんは少し動揺しながらもそう聞いてきた。でも、ちょっとだけ嬉しそうに見える。

 うん、香山さんなら大丈夫だよね。


「はい! あんなに毎晩行ってたのに今日は無しなんて寂しいので、東郷さんには悪いですけど香山さんが良かったら、一緒に行ってくれますか?」


「う、うん。分かった。一緒に晩ごはんに行こう。今日は僕だけだけど、ちゃんと家まで送るからね」


 そして、私は香山さんと2人だけでご飯に来た。東郷さんは居なかったけど、私はとても楽しかった。香山さんは私の話を最後まで聞いてくれて、最後に自分の意見を押しつけがましくない言葉を選んで言ってくれる。それが何だか心地良くて、いつもより遅くまで話をしてしまった。それでも面倒くさがらずに香山さんは私を家まで送ってくれた。


 翌日、東郷さんは普通に出社してきたけど、


「香山くん、真理ちゃん、悪いね。妻の体調がまだ悪くてね。晩の食事会には行けないんだよ」


 って、香山さんと私に謝ってきたので、私は、


「奥様の事を第一に考えて下さいね。私は大丈夫ですから。それに、香山さんが晩ごはんにお付合いしてくれますし」


 そう言って東郷さんに安心して貰おうとしたのだけど、東郷さんは


「おっ! 香山くん、そうか…… そりゃ年寄りは出しゃばれないなぁ」


 とニヤニヤしながら香山さんを見ている。香山さんは少し顔を赤くしながらも、


「ちゃんと相馬そうまさんを家まで僕が送りますから、心配しないで下さいね」 


 って東郷さんに言っていた。


 そして、その日から香山さんと2人で食事に行く日が続いたんだけど、アレ? 

 私はタケフミさんが好きだったよね…… でも、何でだろ? 日に日に香山さんが私の中で気になる男性ひとになって来てる…… えっと、この気持ちは浮気? 

 ううん、タケフミさんとは付合っても無いから浮気じゃないよね。

 えっと、何だか香山さんに相馬そうまさんって呼ばれるよりも名前で呼んで貰いたいって思ったり、毎晩毎晩、外で食べるのはいくら独身貴族で、単価の安いお店にしか行かなくても、お金が勿体無いから、今度は家に来てもらって手料理を食べて貰おうかなって思うのって…… 私は……


 ある日、私は会社の昼休みに香山さんと一緒にお弁当を買ってきて食べていた。そこで、女は度胸! で、香山さんに言ってみた。


「あの、香山さん!」


「は、はい、何かな、相馬そうまさん?」


「私って、自分で思ってたよりもタケフミさんが好きじゃなかったみたいなんです。何ていうか…… 憧れ的な感じだったんだなって暫く前に気がついて…… で、ですね…… 散々いろいろと私の話は聞いて頂いていて今更なんですけど…… 香山さんって彼女さんは居られますか?」


「い、いや、僕は女性とお付合いした事は1回も無いよ」


 ふぅー、私は大きく息を吐き出した。


「それじゃ、もしも、もしもですよ…… その香山さんが良かったらですけど、私とお付合いしてみてくれたり…… しません?」


 私は一大決心したけど、最後は弱気になっちゃった…… うん、まだまだ度胸が足りない〜。


「えっ、えっ!? あの、本気で言ってる? 真理さん?」


 あっ、やった。自然に真理さんって言ってくれた。


「はい、本気も本気、大本気です! ダメですか、信吾さん?」


 ここで私も名前で言ってみた。


「ッ! な、名前で…… ううん、いや、こんな僕で良かったら、結婚を前提にお付合いしてください! お願いしますっ!!」


 アレ? 私から告白したのに、信吾さんから告白したみたいになっちゃってる。フフフ、でもまあいっか。これから2人で色々と思い出を作っていこう。


「はい! 信吾さん、ヨロシクお願いします! でも、父に挨拶する時は覚悟を決めて下さいねっ!!」


 私がそう言った時に、会議室の扉が開いて東郷さんと、社長が入ってきた。


「心配するな! 香山くん、タケシには俺からも言っておいてやるから!」(東郷さん)


「いやー、おめでとう、2人とも。でも真理ちゃんにはまだまだ働いて貰いたいから、子作りはもう少し後にしてくださいね」(社長)


 私と信吾さんは2人して顔が真っ赤になってしまったのは仕方ないよね。それに社長、結婚を前提にお付合いするのであって、まだ結婚をする訳じゃありませんからねっ!! 


 そして、東郷さんがこっそり私に教えてくれたんだけど、東郷さんの奥様が体調不良だって言うのは嘘で、横から見ていると信吾さんが私を好きなのは直ぐに分かったから、チャンスを与えようとしたんだって言ってたの。

 えっ! 奥様にどうぞって、信吾さんと2人でお見舞ですってマスクメロンをお渡ししましたよねって言ったら、女房と2人で美味しく頂いたよって軽くかわされてしまった……


 もう、次はそんな嘘はつかないで下さいね、東郷さん。


 私と信吾さんは正式にお付合いする事になって、父に報告したら、


「なにーっ!? と、東郷先輩は何をしてたんだっ!? 真理に悪い虫がつかないようにって散々頼んでおいてのにっ!?」


 って言うから、私は


「それじゃ、東郷さんは信吾さんを悪い虫だって思ってないって事だよね。だからお父さんも認めてね」


 って言うだけ言って電話を切りました……


 帰ってきた時は美味しいご飯作るから、許してねお父さん……


 

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