第55話 転生者(男爵)
現グレイサム男爵は異世界からの転生者だった。前世でも男爵だったグレイサムは、記憶が戻った時にココは何処だと混乱したが、前世で関わりのあった勇者タケフミの産まれた星だと2ヶ月程すぎて気がついた。
その時点で年齢は10歳。前世では68歳まで生きたローレン・グレイサムは慎重に記憶を辿っていく。
「確か…… 俺が前世で32歳の時に勇者だったタケが魔王を討伐したって神託があって、勇者は地球という生まれ故郷に帰っていったっていうのも神託であったんだよな…… で、今が西暦1998年の地球だと…… こうしちゃ居られないな、タケを探そう!!」
勢いこんだがまだ僅か10歳の少年に過ぎないローレンでは大した情報は集まらなかった。それでもインターネットを駆使して集めた情報によると、日本のある都市で【神隠し】と呼ばれた事件があったのは去年の1997年の事だったらしい事。
その【神隠し】事件で15歳の少年が行方不明になったらしい事。
少年の名前は
その少年が勇者タケフミだとローレンは気がついた。
「えっと、どういう事だ? 俺は前世で68歳までの記憶があるぞ。タケが地球に戻ったって神託が出てから36年は生きたぞ。で、転生してみたらタケが異世界に行った1年後って? 時間軸がおかしくないか? すると、何か…… 俺が地球でタケに会えるのは、コレから何年も先の話になるのか? えっと確か魔王を討伐した時にタケは40歳だったよな…… 俺が34歳になる年にコッチに戻ってくる計算になるのか? エエイ、ややこしい! いったい如何なってるんだ!?」
それでもローレン少年はその日(勇者タケフミが地球に戻ってくる年)を心待ちにする事にした。幸いな事に前世で覚えたスキルを地球でも取得する事が出来た。
ローレン少年は体と心を鍛えて、地球に戻ってきた勇者タケフミに会える日を心待ちにしていたのだ……
そして、話は現在に戻る……
ハア〜、まさかこの人が地球に居てくれるとは、神様も
「お久しぶりですね、ゴルベイン男爵、いやゴルベイン聖司というべきですか? あれからだと2年が過ぎましたか?」
だが、私の言葉に怒ったような声を出すゴルベイン聖司、改めグレイサム男爵。
「ちげぇーよ、タケ! 俺はお前と最後に会ってから40年も生きてたよっ! で、気がついたらこの地球に転生してたんだよっ! 前世の自分に気がついたのはタケが異世界に行った1年後だったんだよ! だから、俺は50年以上タケを待ってた事になるんだよっ!!」
いや、そんな風に怒られても私の所為じゃないのですが…… 私は少し困ったような顔をしていたのだろう。
「まあ、お前の所為じゃ無いのは分かってるんだけどな…… しかし、本当に会えて良かったよ。俺以外にも転生してるヤツが居るかも知れないなって思ってスキルを使って探ってみたが、この国には居ないようだったしな。それに、何だかここ数年になって急に諸外国で能力者って呼ばれる弱っちいスキルに目覚めた奴らを集めまわってるから、俺も警戒して大っぴらにスキルを使用してなかったんだ。それで、今世だと俺はローレン・グレイサムだから、その名で呼んでくれよ、タケ。あと、丁寧語は無しだ、地球じゃ男爵だなんて言っても何の権力も無いからな」
「分かりました、いや分かったよ、ローレン。しかし、貴方がイギリス人に転生してるとはね。まあ、私としては本当に不思議な感じなんだが、でも魔力を
私は素直な気持ちでそう言い、そして願いを言ってみた。
「最近、フリーメーデンとかいうおふざけ組織がチョッカイを出してきたから潰したんだけど、他にもそんな組織はあるのか? 私としては彼らのような組織が何を勘違いして
私がそう言うとゲラゲラとローレンは笑い出した。
「勇者タケフミに手を出すなんて、馬鹿な事をしたもんだな、アイツら。安心しろ、タケ。今は裏から世界各国にある通達を女王陛下の名で出して貰っている。そんな間違いはもう少しで無くなる筈だ」
私は少し驚いた。異世界でも国王陛下と親しい存在だったが、地球でも女王陛下と親しくなっているとは。
「フフフ、何を驚いているんだ、タケ。俺の能力は知ってるたろう?」
ああ、そうか、ローレンは地球でもスキルが使用出来るのに気がついているんだな。それならばあのスキルを使用して女王陛下とお近づきになるのも頷ける。
「【神託】だな、ローレン」
一応確認の為にそう言ってみた。
「そうだよ、タケ。私はこの国では聖職者では無いが、何度か陛下に
やはりそうか。しかし、ローレンに【神託】を出しているのは何処の神だ?
「その【神託】は信頼出来るのか?」
「安心しろ、タケ。唯一絶対神じゃないし、神を
私を拉致した存在とは別のあの豊穣神様か。ならば安心だな。
「それでだ、タケ。地球でも転移出来るんだろ? この屋敷に転移陣を作って構わないから、日本のお前の拠点と繋いでくれよ。俺も日本に気軽に行けるようになると助かるからな」
ローレンは私にそう言ってきた。そう言えばと思い、私はローレンに確認してみた。
「ローレン、結婚は? まだしてないのか?」
「ああ、タケ。俺の好みは知ってるだろう? 俺は理想を求めて日本に行きたいんだ、だから頼むよ」
ハァ〜、まだあの絵姿の
絵姿に残されていたのは私よりもずっと前の時代の異世界に召喚された勇者で、腰までの黒髪、目は黒目で二重、背は高くなく150cm程、スレンダーな体型で描かれた日本人女性だったのだ。
「俺は今世では理想を求めて結婚するんだ!!」
力強くそう宣言するローレン。まあ、私としてもイギリスにいつでも移動出来る転移場所ができるのは有り難いから、了承する事にした。
「良し! さすが、タケだ。それじゃ、この部屋で良いから、早速頼む」
私はローレンに言われるまま、この部屋に転移陣を作り、私の自宅と繋げた。ローレンには転移陣の使用方法に説明はいらない。
「私の日本での自宅だから、来る時は気にせずに何時でも来て構わない。が、入出国記録は当然無いからな、外を出歩く時は気をつけるんだぞ」
私は一応そう注意しておくが、ローレンは笑いながら言った。
「心配するな、俺には特別大使としての任命証があるから、もしも日本のポリスに捕まってもそれを見せれば外交官特権で直ぐに釈放されるよ」
こいつ、どこまで用意周到なんだ。
「それよりも、タケはどうなんだ? 前世ではエロフやら獣耳やら、魔女っ娘やらとヨロシクしてたけど、地球に戻ってきたんだから、コッチで結婚するんだろう?」
「ああ、そのつもりだよ。それと、誤解があるようだから言っておくが、私から彼女たちに手を出した訳では無いからな。彼女たちに無理やり迫られていたんだぞ」
分かった、分かったと笑いながらローレンはいうが、突然真顔になって
「で、あの娘は何者だ? とぼけるなよ、深野の娘の事だ。お前は分かっているんだろ?」
私にそう問いかけてきた。
やはり気がついていたか。まあ、それもあって今日の晩餐なのだとは分かっていたが……
「彼女の事は心配しなくていい。私がそう言えば安心するか?」
私の言葉にローレンは少しばかり
「分かった、タケ。彼女の事はお前に任せた」
そう言って話は終わった。そして、私たちはカオリちゃん、
因みに
翌朝、桧山さんが目を真っ赤にして眠そうな顔のまま愚痴を聞かされたから間違いない。
ローレンの所の侍女さん、グッジョブです!
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