第51話 瞬殺、壊滅

 私が静かに微笑みを浮かべているのを見て、No.2と名乗った男が苛ついている。

 どうやら日本人特有の言葉が分からない時の愛想笑いだと思われたようだ。


「英語が理解できないのか? ったく、コレだから教養のないジャップ日本人は……」


 その言葉に私はプッツンしてしまった。


𝓘  𝓦𝓘𝓛𝓛  𝓒𝓡𝓤𝓢𝓗アイ・ウィル・クラッシュ


 私の口からクイーンズ・イングリッシュが飛び出たのが意外だったのか、一瞬No.2は驚いた顔をしたが、直ぐに笑い始めた。


「フハハハ、英語を理解出来るようだが、この人数の、それも貴様には理解出来ない能力を持った者を相手に、ブラフはったりにしても私たちを【潰すぞ】とは良く言った。深野かその娘が能力者だろうに、貴様はただの人なんだろう? だが私はそんな強がりも嫌いではない。せめて苦しまずに死ねるようにしてやろう! おい! No.20、れ!」


 最後まで律儀に聞いてやり、私は全員の魔力を封じ込めた。そしてこの場から逃さないように、周りに結界を張った。


「なっ!? 何故だ! 能力を使えない!?」

「No.2、ダメです! 転移も不可能です!!」


 口々にそうやって騒ぐ男たちがうるさいので、No.2以外の男たちの言葉をついでに封じてやる。


「ど、どうした、お前たち!! 何か言え! クソッ! 深野の能力か!?」


 などと物凄く見当違いな事を言ってるが、こんなのがNo.2だなんて、やっぱりおふざけ組織だな。魔力を読む事も出来ないとは…… 私はNo.2に声をかけた。


「潰すと言ったとおり、潰させて貰おう」


 言葉を終えた瞬間に男たちに【重力魔法】で5倍の重力をかけた。能力者っていうぐらいだから5倍ぐらいなら耐えるだろうと思った私は愚か者でした……


 おい! そこの瀕死になってる奴、頼むからまだ死ぬな! 私は殺すつもりは無いんだ。そして、そこの君! 何で既に虫の息なんだ! 日頃からちゃんと鍛錬をしてたらこれぐらいで虫の息になってりしないぞ!! 

 私は大慌てで魔法を調節しつつ、瀕死の者や虫の息の者に【治癒魔法】をかけてやる羽目に…… 

 うん、今度からはもっと事前にちゃんと考えて魔法を使用するとしよう。

 一つ賢くなったと思えばこの失敗もまた必要な事だったのだ! 

 

 私は自分をそう鼓舞こぶして先程の失敗を心の中から消し去った。

 そして、No.2に向けて喋った。


「君たちはもう普通の一般人だ。能力者では無くなった。いや、体が重くなり満足に動かせなくなった分、一般人よりも弱い存在となったんだ。これからは謙虚に生きてみる事だな。そしたら神の奇跡が君たちの身に起こる…… かも知れない」


 私の言葉に悔しそうな顔をしたNo.2が反論してきた。おお、根性あるじゃないか、英国紳士。


「クッ、何をどうしたのかは分からないが、まだNo.1が居る! No.1は我々なんかとは格が違うぞ! その余裕も崩れ去る事になるだろう」


 そこまで言って気絶した。あ〜、真実を教えてやりたかったのに、根性無しめ! つい私は先程とは逆の事をNo.2に対して思ってしまった。


 私は彼らの魔力を逆に辿り、彼らのアジトを既に把握していた。だから、そのままアジトに居た、ここに来た彼らよりもほんの少しだけ魔力の使い方がマシな男の魔力も封じ込めていた。

 そして【思考感知、解析】を使用していたので、今No.2がNo.1について語った時に思い浮かべた顔と、その男の顔が一致したのも確認したので、既にNo.1も君たちと同じ状態になってるよと伝えたかったのだが…… 


 まあ、いいか。そもそも、彼らは前座だろう。この様子を何処かから見ている存在が本命だろうと思う。


 私はその存在がチョッカイをかけてくるのを暫く待ってみたが、今はまだ手出しをしてこないようだ。


 そこで、私はジョージさんと桧山さんを思考停止させ、無力化した能力者たちをロンドンにある聖ジョージ病院前に転移させた。もちろん、突然に現れた彼らに周辺の人たちが騒ぎ出すが、私の姿は【不可視】で消してあるので、そのまま放っておく。そのうち誰か優秀なコメンテーターという人たちが適当な理由を思いつくだろう。

 それから、彼らの乗ってきた車は彼らのアジトの駐車場に放り込んでおいた。

 

 更に車まで戻った私は、小細工として10メートルほど離れた道路の奥、左に落ちていた巨木の丸太を道端に置いておく。

 

 そして、ジョージさんと桧山さん2人の思考停止を解いて私は車に戻った。戻る際に車にかけた魔法は解いてある。突然に外の景色が見え、音が聞こえだした事に動揺しているようだ。


「お、おい! アイツらは何処に行ったんだ? それに、さっきまで外が見えなかったがっ!」


 桧山さんがそう聞いてきたので、私は


「アイツらって? 何の事ですか? 先程、倒れていた倒木ならば何とか私1人で動かしましたよ」


 と桧山さんに伝える。ジョージさんは、


「うーん…… 夢だったぁのですかぁ? 倒木にぶつかりそうになって急ブレーキをふんだぁ……? うーん?」


 と悩みながらも現実にある目の前の光景に何とか納得しようとしているようだ。


 私は平然とした態度で、桧山さんに言った。


「お疲れですね、桧山さん。ジョージさん、さあ行きましょう。あと少しで町に着くんですよね?」


「オーッ、そうでぇ〜す。直ぐに車を出しま〜す」


 桧山さんはまだブツブツと言っているが、まあ町のホテルで夢でも見て貰おうと思う。


 それからホントに10分ほどで町に到着した。ジョージさんはホテルの駐車場に車を入れる。

 そこで私は深野さん女神とカオリちゃんに声をかけてホテルに到着しましたよと伝えた。

 私の言葉でパッと目を開く2人はやはり親子で、2人とも同じ表情で、ベッドで寝れるのね〜と言っている。

 

 車を出てフロントに向かうとジョージさんがチェックインを済ませてくれていた。

 深野さん女神とカオリちゃんは2階の207号室で、私は向かい側の部屋で208号室だ。奇数がツインで、偶数がシングルの部屋だという事らしい。


 そして、ジョージさんと桧山さんは3階の301号室。2階のツインはもう一杯で、3階の部屋になったらしい。

 桧山さんは最後まで、金は出すからシングルの部屋でと日本語でホテルマンに伝えていたが、横からジョージさんが、英語で


「有難うってお礼を言ってます」


 とホテルマンに伝えていたのを、私も、深野さん女神も、カオリちゃんも黙っていた。


 貞操の危機かも知れないが、何とか乗り越えて下さい、桧山さん。私は内心でそう桧山さんにエールを送って、2人をエスコートして部屋に向かった。


 そして2人の部屋に、先ずは確認の為に私が先に入り、誰も居ないのを確認してから部屋に入ってもらった。

 2人が部屋に入って、扉の外からもしも出かける場合には向かいの部屋の私に知らせて欲しいと伝え、私も自分の部屋に入る。

 2人の部屋と、もちろんジョージさんと桧山さんの部屋にも結界を張り、安全を確保したのは言うまでもない。


 そして、何事も無く翌朝を迎える事が出来たのだった。


 翌朝、朝食を食べ終えた私たちは早々にチェックアウトして車に乗り込み移動を開始した。

 助手席に座る桧山さんが朝からお尻を手で抑えていたので、私はジョージをた。


 ジョージも無理やりは嫌いなようで、拒絶されたので何もしてないようだが、桧山さんはお尻の貞操の危機を感じて無意識に尻に手を当てているようだ。


 うん、ジョージは紳士らしく、無理やりに襲いかかるような男では無いが、桧山さんにはこのまま貞操の危機を感じていて貰おう。その方が仕事がスムーズに進むと思う。


 そして、私たちは午前中に先乗りしていたテレビクルーの待つエジンバラに到着したのだった。


 




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