第25話 コンサート会場の下見
別途の打合せはコンドルスターが宿泊するホテルでの護衛をどうするかだった。今日から3泊4日で宿泊するホテルはこの田舎では情報が筒抜けなのもあって、多くのファンにバレている。
そして、そんなファンがコンドルスターを見かけたら握手してください、サインください、一緒に写真を撮ってもいいですか? と迫ってくるのは間違いないとの事。
そんなファンも数が少ないのであれば対応する時もあるが、さすがに多く来られるとライブでのパフォーマンスにも影響が出るから、その牽制もして欲しいと弥生から頼まれた。
また、そんな時を狙って触ってくるファンの子も居るらしい。
「それはいいんだけど、今から私が泊まれる部屋はあるのかな?」
いきなり1人増えて予約をいれてないのに飛び込みで泊まれるのか心配だったが、弥生が事も無げにこう言った。
「えっ!? タケ
はい、そんな事だろうとは思ってました…… ただ、寝てる間に部屋の扉を叩いたりするファンの子は居ないのだろうか? 私はそれも確認してみたけど、それはホテル側で対処してくれるそうだ。不用意に近づいているのを確認したら、ホテルの警備員が駆け付けてくれるらしい。
私はコンドルスターの子たちが部屋から出て食事をしたりする時だけついていればいいとの事だった。
それならば、確かに私が同じホテルに泊まる必要が無い。そして、朝にまた迎えに行けばいいという話だったので私は了承した。
「分かった、それなら私も睡眠時間を確保できるからそれで構わないよ。それで、東郷さん、この場合は私の力を使用してコンドルスターの5人の安全を確保しても構わないですか? 実は先ほど表に居たファンの中の何人かが、彼らの下半身に手を伸ばそうとしたので、力を使って触らせなかったのですが」
私の問いかけに東郷さんも頷いた。
「ファンとの交流会の場で逮捕者を出す方が大きな話題にもなり、抑止力効果も高いと思うからホテル内ではタケフミくんの力で彼らを守ってやっくれ」
それで、コンドルスターに関しての話合いは終わった。そこで東郷さんが席を外して表に向かった。
早速私は弥生に聞く。
「そ、それで弥生! 深野涼子さんが私に会いたいっていうのはどういう事なんだ? ハッ、まさか長年のファンである私に愛の告白を!? しかし、私は不倫は困る…… 出来たら深野さんが離婚してからの方が……」
私の妄想を弥生がハッキリ、キッパリと断ち切ってくれた。
「ハイハイ! タケ
クッ! 分かっているけどそんなにハッキリキッパリ言わなくても…… もう少しこの妄想に浸りたかったな…… 私は現実に戻されたのでジト目で弥生を見てしまったようだ。
「もう〜、タケ
ここでもハッキリと言われてしまったか。私にも自覚はあったがついついジト目になってしまったんだ。
「何で会いたいのかは私にも分からないわよ。でも、タケ
ふむ。どんな用事があるんだろうか? しかし、それもこれもコンドルスターの問題を解決してからだな。楽しみは最後まで取っておく派の私には物凄いご褒美だ。
私は内心のドキドキを抑えながら弥生に聞いた。
「それで、コンドルスターのこの後の予定は?」
「えっとね、コンサート会場の下見と打合せの後に地元のテレビ局に生出演よ。それが終わったら今日はホテルに泊まる事になるわ」
弥生が彼らの予定を教えてくれた。取り敢えず会場の下見にはついて行き、テレビ局では駐車場で待機する。それからホテルに一緒に行き彼らがやすむまで護衛をして本日は終了となる。
翌日は会場でリハーサルを繰り返し行うそうなのでそれに張り付いてくれとの事。
明後日から2日間のライブだが、ライブ終わりにファンとの交流会があるので、最終日の交流会の時に作戦を実行する事に決まった。
そして、私は今コンサート会場の下見について来ている。地方都市にある会場にしては大きな方だと思う。収容人数は5000人で今回は3000人ずつの完全予約でチケットを販売している。
何故満員にしないのか? 私は疑問に思って聞いてみると、動けるスペースを作る為だとか。ファンが歌に合わせて体を動かせるスペースを確保する為に3000人にてあるのだそうだ。
そんな中、打合せ中のトウシくんが私を手招きしたのでそちらに向かう。
「中山さん、この人が僕たちの警護をしてくれるタケフミさんです。今回、コンサート中も僕たちと行動を共にするのでよろしくお願いします」
どうやら会場スタッフの責任者の方に紹介してくれたようだ。私も自分で挨拶を行う。
「はじめまして、
私の挨拶に中山さんも返事をしてくれた。
「はじめまして、会場スタッフのまとめをしている中山浩二です。コンドルスターさんの警護はスタッフの中からも何名か出しますので、彼らと連携しながらよろしくお願いします。おーい、ちょっとコッチに来てくれ」
中山さんに呼ばれて10名の屈強な体格を誇る若者がやって来た。
「鴉さん、彼らは地元の
10人のまとめ役だと思われる近藤という青年は分かりましたと言って、私にではアッチに行きましょうと誘ってきたので素直に付いていった。
一緒に小部屋に入った私を近藤くんが掴んできた。そして、そのまま私を投げ飛ばそうとしたので私はその力を利用して逆に近藤くんを投げた。勿論、頭など危険な場所を地面に打たないように腕を掴んでおく。
「なっ! キャプテンの投げを食らいながら逆に投げただとっ!?」
1人の青年がそう声を上げる。私に投げられた近藤くんは呆気にとられた顔で私を下から見上げている。そして、そのまま喋りだした。
「あんた、何者だ? 俺はこれでもオリンピック強化選手に選ばれているんだ。手加減はしたが素人が耐えられる筈がないし、ましてや逆に俺が投げられるなんてありえない」
うーん、若いなぁ。私は説明をしてあげた。
「いいかい、近藤くんは殺気をむき出しにしてたから何かを仕掛けてくるとは思っていたんだ。だから私には心構えが出来ていた。そして、私の胸元を掴んできたから投げに入るのも予測できた。後はその力に逆らわずに少しだけ逸らせば、近藤くん自身が体勢を崩すから私でも軽く投げる事が出来るんだよ」
しかし私の丁寧な説明を聞いても近藤くんはあり得ないと呟く。
「だから、俺が言ってるのは素人がそんな事を出来る筈が無いって事を言ってるんだよっ!」
そんな大声を出さなくても私は耳が悪くないから聞こえてるよ。そこで私は殺気を全身から発しながら話をした。
「私が素人だと君たちは思ってるようだけど、私にしてみたら君たちの方が素人だよ。現に近藤くんとこうして話をしてる間に攻撃してくる子は誰も居ないし、近藤くん自身も私に腕を掴まれたまま、その手を振り払おうとしてない。もしも私なら既に50回は攻撃してるところだよ」
そう言って近藤くんを含め、他の9人を見てみたら全員が顔を青白くして震えていた。
おっと、しまった…… 殺気を込めすぎたかな? 私は慌てて笑顔になり全員に対しての殺気を引っ込めた。
「とまあ、こんな感じで見た目よりは強いから安心して欲しい。で、私は君たちの試験には合格かな?」
努めて明るい口調でそう言うと近藤くんがやっと私の手を外して言った。
「失礼な事をして申し訳ありませんでした。コレは俺たちが勝手にした事で、中山さんは関係ないので…… で、逆に鴉さんにお聞きします。こんな俺たちと警備の仕事をしてもらえますか?」
私は笑って近藤くんに言った。
「勿論だよ。私1人では手が足りないからね。協力しあって上手くコンサートを成功させようじゃないか」
「はい! よろしくお願いします!!」
全員がそう言って私に頭を下げてきて、ようやく本格的に打合せを始めたのだった。
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