第19話 面接

 本屋から戻った私は戦利品を並べて、こんな顔は人に見せられないなと思いながらも、ニヤニヤしていた。

 そこで私はハッとして気がついた。いかん、先ずは仕事関係の知識を詰め込まねば。

 そう思い、私は探偵業務のアレコレを教えてくれる本を開いて読み始めたのだった……


 1時間後、読み終えた私はこんなものかと思っていた。日本では浮気調査がメインのようだ。もちろん、盗聴器を調べたりするのも仕事としてあるようだが……

 書かれていたのは主に上手な尾行の仕方だった。私はスキルでバレないように尾行が出来る。うん、買ってまで読む必要は無かったな。ちょっと無駄遣いをしてしまった気分になってしまった。


 それから私は楽しみにしていたライトノベルに手を伸ばして、落ち込んだ気分を上向きにするべく読み始めたのだった……


 好きな事に没頭していると時間というのはこんなにも早く過ぎてゆくのか、と思った時には午後10時をまわっていた…… うん、読みすぎたな。私は反省しながら明日は面接に来る人をるんだからと思い、晩飯も食べずに風呂に入って早々に眠りについた。


 朝はいつも5時に目が覚める。これは異世界アチラに居た頃にできた習慣だった。何時に寝ても5時には一度は目が覚めるようになったのは必要に駆られてなのか、年齢の所為なのかは定かではないが。


 起きて先ずはトイレに行き、顔を洗って完全に目を覚ますと朝食の準備を始めた。昨夜は食べずに寝たので自分の腹が抗議してくるのだ。そこで手早くトーストを焼いて、目玉焼きを作りパパッと朝食を済ませた。

 それから転移して東京のマンションに行き、ランドールの2人に異常がない事を確認する。守ると誓ったのだから、送った時計の機能を過信する事なく、これからも実際に確認はしようと思っている。


 確認を終えてまた転移して自宅に戻った私は、時間がまだあるので昨日のラノベに手を伸ばす。今朝はちゃんとスマホのアラームをセットしておいた。

 これでタカフミさんとの約束の時間に遅れる事はない…… 筈だ。


 良かった。ちゃんとアラームに気がつけたぞ。


 私は準備をして、新事務所に向かう。実はタカフミさんには内緒にしていたが、悪意ある者が近づいて来たら分かる仕組みの結界を張っておいた。が、結界は何の反応もしてないので悪意ある者は近づいてないようだ。

 裏口から中に入ると、今日午前中に面接を受ける人は既に2人とも来ているようだ。

 

 私はまだ始まってない面接の前に2人をてみる。


 1人は男性でまだ年若く、23歳だ。事務員募集に応募してきたが、今までコンビニバイトの経験しかなく、内心で採用されても勤まるだろうかと不安に思っているようだ。

 もう1人は女性で、この人はダメだと思う。ミーハー気質な上に、事務員になったら知り得た事を週刊誌やワイドショーに売って小銭稼ぎをするつもりでいるようだ。


 面接を終えたタカフミさんに私は知り得た事を伝えた。


「そうですか。男性の方は保留で、女性の方は今日の夕方にでもお断りの連絡を入れる事にします。タケフミさん午後からも2名、面接に来られますのでよろしくお願いします」


 そうタカフミさんに言われて頷く私。そのまま昼食を食べに事務所を出た。私は結界に午前中に結界に引っかかった魔力を追跡しながら歩いている。近くに居るのは分かっている。そして、見つけたのは作業服を着た男だった。何と面接に来ていた女性と一緒に居る。

 どうやら電気工事業者のようだ。仕掛けた盗聴器が作動してないのを訝しく思っているようだ。


「クソッ、何でだ? バレる事はないと思ったんだが…… 」


「えー、何も受信してないの? それじゃ、困るわ。もしも私が面接に落ちても盗聴器で仕入れた情報を売ればいい小遣いになると思ったのに」


「うるさい! なに、また不備があったとか言って中に入って仕掛けてやるさ。今度は1個だけじゃなくて、5個ぐらい仕掛けてやる」


 そこまで聞いて私は2人に魔法をかけた。【闇魔法】と【光魔法】を組み合わせた【方向音痴】を。

 この魔法により、2人は新事務所にも弥生の自宅にも行けなくなる。本人たちは正しい道を進んでいるつもりでも、無意識に必ず違う道を選ぶという魔法だ。これは誰かに案内されてもその案内を無駄にする様になる。何故ならば正しい道を間違っていると認識してしまうからだ。

 これでこの2人についてはもう悩まされる事もないと私は思い、今度こそ昼食を食べる為に飯屋を探しにその場を後にした。


 午後からの面接予定時間は14時からだったので、私は13時半に事務所に戻った。面接予定の1人は既に来ているようだ。もう1人はまだ来ていないが、タカフミさんは面接を始めた。私は面接されてる女性をた。

 可もなく不可もなくという感じの女性で、今回のこの面接に落ちても他にも何社かの面接を予定しているようだ。

 その女性の面接が終わり、私はその事をタカフミさんに伝えた。


「そうですか。分かりました。一応保留にしておきます。受答えもちゃんとしていたし、常識もあるような方だったので。それよりももう1人の方は遅いですね? 既に14時も過ぎていますが…… 15時まで待って連絡も無ければ今日はもう終わりにしましょうか。タケフミさん、もう少しだけ付合って下さい」


 タカフミさんにそう言われた私は素直に頷いた。結局、もう1人からは連絡も無く、15時半まで待ってみたが来ないだろうと結論づけて私とタカフミさんは事務所を出た。待っている間に昼休憩中の2人についてタカフミさんには話をしておいた。


 自宅前でタカフミさんと別れた私は家に入り、東京に転移した。ランドールの2人も弥生も無事なようだ。弥生は深野涼子さんのサインを貰ってくれただろうか? 私はそう思いながら自宅に転移で戻った。


 翌日、昨日と同じ時間に事務所に向かった私は馴染みある魔力を見つけた…… まさか、面接に来たのか? もしそうならタケシよ、何を考えているんだ? 私はそう思いながらタケシとタカフミさんとの会話を聞く。


「ほう、するとタケフミは別にそちらと専属契約を結んでいる訳ではないと?」


「はい。あくまでウチがタケフミさんに依頼を出して、それを受けて貰っているという関係です」


 何だ? 私とタカフミさんの芸能事務所との契約についての話か?


「それならば良いか…… 分かりました。貴重なお時間を取らせてしまって申し訳ない。私はコレで失礼します」


 そう言ってタケシは部屋を出ていった。そしてタカフミさんが奥に入ってきた。


「いやー、ビビリました。まさか、県警の方が来るとは思わなくて。聞いてましたか? タケフミさんとの契約について聞いてこられて、素直に答えましたけど問題ないですよね?」


「はい、大丈夫ですよ。そもそもアイツは私の友人ですから」


「えっ、そうなんですか? そんな素振りはなかったんですけど?」


 私も訝しくは思ったが、今は仕事を優先させて休憩の時にタケシに連絡を入れてみようと思いますとタカフミさんに答えた。

 タケシは一体どんな用事でココに来たのかはその時に確認すればいいと思ったのだ。


 そして、午前の面接が始まった。2人とも男性で、それも1人は50代の方だったが、この人は絶対に雇うべきだと私は思った。

 元刑事だが、40後半からは足を悪くされて、事務方仕事を主にやられていたみたいだ。そして、捜査に協力出来ない自分を歯がゆく思い自主退職されたみたいだが、かなり引き止められたようだ。

 今でも後輩の刑事さんたちには顔が利くようだし、何かしらの問題が起こり警察の世話になる際に居て貰えればスムーズに事を進められるだろう。

 もう1人の男性は単なる好奇心で受けに来たようなので、この男性は落としても大丈夫だろう。


 私は面接が終わったタカフミさんにその旨を伝えた。タカフミさんは頷きながら


「そうですか。経歴は嘘じゃないんですね。先ほどの面接でも40後半になって簿記の勉強は辛かったですと笑っておられましたし、人柄も良さそうなので雇う事にします。では、午後もよろしくお願いします」


 そして私は昼食を食べる為に表に出た。


 タケシがそこに立っているのには気がついていたが、ワザと無視して歩くとタケシも私と同じ方向に歩き出す。

 私は中学の頃に良く行ってたお好み焼き屋さんに入る。タケシも後から入ってきた。


「レイさん、コイツと話があるから奥の個室を使ってもいいかな?」


 タケシが今や店の女将さんになってる私たちより2つ先輩のレイさんにそう聞くと、一瞬私をチラ見して驚いた顔をしたが、レイさんは黙って頷いた。私に気がついたようだが、昔から物静かな先輩だったレイさんは今も変わってないようだ。


 私はタケシと2人で奥の個室に入った。注文しても無いのに、レイさんがタケシにはミックスを、私には豚玉を持ってくる。まだ、覚えててくれたとは…… 私がレイさんを見て頭を下げるとレイさんは微笑みながら出ていった。


 そして私はタケシと目を合わせた。さて、どういう話なんだろうか?


 

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