第17話 説得と転移


 私が部屋の入口で固まっていたら、ナミちゃんが私の側に来て言った。


「今まで生意気な態度でごめんなさい。私はヒナを守らなきゃって思ってたから…… でも、あの勘の鋭いヒナがあそこまでオジサンに頼ってるとは私も思わなかった。オジサンって凄い人なんだね」


 うん? 私はそう言われても訳が分からない。そんな私の顔を見てナミちゃんが理由を教えてくれた。

 ナミちゃんの方が1つ年上だが、2人は隣同士に住む幼馴染だったらしく、ヒナちゃんは幼い頃から勘が鋭く、色んな危機もヒナちゃんのお陰で大した事なく切り抜けてきたそうだ。そんなヒナちゃんが今回はかなりヤバイとナミちゃんに伝えていたけど、私がやって来てから、もう大丈夫とナミちゃんに言ったそうだ。

 私はそれを聞いてヒナちゃんを良くてみた。このる力はスキルの【魔視】だ。それによってえた、ヒナちゃんの称号に私は納得がいったのだった。


称号:巫女みこ


 巫女みこはある程度先の未来をる事が可能だ。無意識に使用していたのだろうが、ヒナちゃんはこれまでその能力で危機回避をしていたのだろう。そして、ナミちゃんもそんなヒナちゃんに助けられていたという事だ。


 そして、そんなヒナちゃんが泣きながら弥生に、私にマネジャーを続けるように言っているのを見て、ナミちゃんも私に対する態度を改めようと決意したようだ。オジサン呼びはそのままだったが……


「うん、まあ本当ならマネジャーとして連絡先を教えて貰ったりしたんだからこの先、もう暫くは続けてもいいと私も思ってたんだけど、次の依頼が来てしまってね。突然過ぎだけど、ごめん」  


 私がナミちゃんにそう言うと、ナミちゃんが頷きながらこう言ってくれた。


「オジサン、現役アイドルの連絡先を知ってるからって、調子に乗らないようにね! それに、ヒナについては、私に任せてちょうだい。ヒナももう危機は去ったって分かってはいるのよ。ただ、オジサンが一緒に居てくれたらこの先もずっと安心だとは言ってたけどね」  


 ヒナちゃんがそこまで私を高く評価してくれていたとは思わなかったな。だがそれならば私からもヒナちゃんに一言伝えておかないとダメだとは思う。

 私はまだ弥生に文句を言っているヒナちゃんの側に向かった。


「ヒナちゃん、私を高く評価してくれて有難う。だけどすまない。次の依頼が待っているから私は行かなければならないんだ。本当はもう少しマネジャーもしてみたかったんだけどね。それと、コレを渡しておこう」


 そう言って私はポケットから出すフリをして収納内に入れていた腕時計を2つ取り出した。

 この腕時計自体は異世界で購入し、それに私が魔法を付与したモノだ。物理的な危険に際して簡易的ではあるが、時計を身につけた者を結界が包むようになっている。

 ドラゴンの体当たりやブレスをも防ぐので恐らくは地球上での物理的な危険は防ぐ事が出来る筈だ。


 私はベルトの色が青い方をナミちゃんに、赤い方をヒナちゃんに手渡した。それを見ながらヒナちゃんがポツリと私に言う。


「また、私たちが危ない時はタケフミさんが助けに来てくれる?」


「勿論だよ、ヒナちゃん。依頼前にも言ったがちゃんと守るよ」


 私がそう言うとヒナちゃんが約束だよと言って抱きついてきた。私はどうしたらいいのか分からずに固まってしまう。


「はいはい、ヒナ。分かったから、タケにいが困ってるから離してあげなさい」


 弥生の言葉に私から離れてくれたヒナちゃん。


 それから食卓について4人で話をしながら楽しく過ごした。こうして1つめの依頼は完全に終わった。


 2人を先に部屋に返した弥生が私に言ってきた。


「それじゃ、タケにい。明日は私と一緒に地元に戻ってくれる? 切符代とかも領収書をちゃんと取っておいてね。必要経費としてうちから支払うから」


 そこで私は弥生に移動費が必要ない事を話すことにした。 


「あー、実はだな…… 弥生に話があるんだ。いや、実際に体験してもらった方が早いか…… 済まない、弥生。少し付き合ってくれるかな? 玄関で靴を履いて貰いたいんだ」


 私がそう言うと弥生がキョトンとした顔で言う。


「えーっと…… 何のプレイ?」

 

 ちがーうっ!! プレイとかじゃ無いから…… 私がコメカミを抑えながらそう言うと、笑いながら弥生は玄関に向かう。

 くそ、私は完全に遊ばれているようだな……


 だが、それもココまでだ、弥生! ココからは私のターンだ!


 玄関で靴を履いた弥生の肩に手を触れ、私は自宅に転移した。


 私の自宅の玄関に立つ弥生は、


「えっ!? えっ!?」


 と動揺している。フッ、勝ったな…… じゃなかった。ちゃんと説明をしないと。


「弥生、このように私は移動可能だから交通費などは発生しないんだ。コレを知らせておこうと思ってな」


 私の言葉に弥生は目をキラキラさせながらこうのたまった。


「凄い! タケにい! 転移ね、コレって転移なんでしょ! それならタケにいが居たら、私も東京に泊まる必要が無くなるのね! タカさんと毎晩、一緒に寝られる!!」


 はいはい、私はタクシーじゃないんだよ、弥生。まあ、弥生1人ならば何の問題も無いが。私は弥生を連れてまた転移してマンションに戻った。

 興奮した弥生の声が周りに響かないように部屋を【空間魔法】を使って隔離かくりする。


「凄い、本当に戻ってきてる。ねえ、タケにい、コレって何かの魔導具に出来ないの?」


 なるほど、常に私が一緒に居るとは限らないからな。だが、あいにくと転移陣は作成出来るが、魔導具にはならなかったんだ。だから私は弥生にこう提案してみた。


「魔導具は作れないが、転移用の魔法陣は描く事が出来る。何処かに私、タカフミさん、弥生の3人だけが使用出来る部屋を用意してくれたら、その部屋に魔法陣を描くよ。その魔法陣を弥生の自宅に描いた魔法陣と繋げたら、私が居なくても転移出来るようになる」


 私の言葉に弥生がちょうど良かったと言って、一緒に来てと部屋の扉を開けた。その瞬間に【空間魔法】は解除される。


 そして、部屋の外に出た弥生はヒナちゃんの部屋の隣の部屋の扉を鍵を使って開けた。


「実はこの部屋とあと1部屋、ナミの隣の部屋も事務所でおさえているの。真ん中のさっきの部屋は明日からランドール付になった新しいマネジャーが使用するけど、この部屋は空いてるからその為に利用しましょう。この部屋でもいいかな、タケにい?」


 私は自分自身で転移が可能だから、弥生がココでいいなら構わないんじゃないかと伝えた。


 私は弥生がそれじゃココでと言うので、部屋に入り寝室部分の部屋に転移の魔法陣を描いた。弥生とタカフミさんの魔力に反応して出るようにしてある。そして、今度は弥生を連れて弥生の自宅に転移した。

 タカフミさんは1人で晩酌をしていたようだ。突然現れた私と弥生を見てとても驚いている。


「なっ!? 弥生! タケフミさん! 一体どこから現れたんですか?」


 それに弥生が説明をしている。説明を聞き終えたタカフミさんが私に言ってきた。


「すっ! 凄いです! タケフミさん! コレで弥生と一緒に毎晩寝られる!」


 はいはい、夫婦円満でよろしい事で。そう思いながら私はどの部屋に転移の魔法陣を描くのか確認した。


 結局、夫婦の寝室に設置する事になり、私は魔法陣を描く。夫婦2人で魔法陣の上に乗ると魔法陣が光り、2人を転移させた。30秒ほどで2人は戻ってきた。


「「有難う(ございます)! タケにい(タケフミさん)!!」」


 2人の満面の笑みを見て、周りにバレないように注意する事を伝えて、後日の面接についてタカフミさんと話をしてから、私は自宅に歩いて戻った。靴を忘れていたが、弥生の家にある勝手口のツッカケを借りた。

 あっ、マンションの部屋の鍵をかけるのを忘れていた。思い出した私はまた転移するのだった……

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る