第8話 開業届と盗聴器
弥生はいきなりタカフミさんにこう言った。
「タカさん、タケ
タカフミさんはそんな弥生の言葉をアッサリと受け止めた。
「良し! 分かった。僕に任せて下さい、タケフミさん。一緒に開業届を考えましょう。基本的には僕が全てを作成しますから安心してください。今はPCを利用して簡単に作成出来ますから! それにしても弥生があの娘たちのボディガードを依頼したいなんて、タケフミさんは見かけとは違ってかなりお強いんですね! おみそれしました!」
いや、まあ…… 見かけとは違ってかなり強いのは確かだから返答に困る私だった……
しかし、弥生の言う言葉を疑いもせずに受入れる懐の深さは凄いと思ったよ。私ならば先ずはコイツひょっとしたら
「よろしくお願いします」
私が心からそう言うとタカフミさんの仕事部屋に招かれた。
中には作業デスクが5つあって、その2つに人が座っていた。
「社長、東京出張所のヤザキ所長から連絡が来てます。ライドールの2人の出演依頼をいつまで断るのかって」
「ああ、その件はもう少し待って貰って下さい。これから僕と弥生で確実に2人を守れる手を打つから。それが機能してから出演依頼を受ける事になるよって伝えておいて。それと、2人とも席を外して第二会議室で仕事をしてくれるかな? 僕は今からこちらの方と大事な商談があるからね」
「はい、分かりました。社長」
そう言うと2人は部屋を出ていった。しかし、先程の会話で東京出張所と言っていたので、ひょっとしてこの弥生の家が本事務所になるのかな? そう思いながら私は念の為に【電波感知】で部屋を調べてみた。すると……
私は紙に必要な事を書いて口では違う事を言いながら、タカフミさんに手渡した。
「いや〜、最近は急に天気が崩れたりして敵いませんね」
【この部屋に3つの盗聴器が仕掛けられてます】
私の渡した紙を見てギョッとした顔をしたタカフミさんだが、さすが海千山千の芸能界を生き抜く人だった。口では私の言った言葉に対しての返答を言う。手では紙に質問を書いている。
「本当ですねぇ。朝晩の気温の変化が大きいから体調も崩しそうですよ。まあ、それも年を取ったっていう事なんでしょうけどね」
【何故、それが分かったのかはともかく、本当に仕掛けられてますか? どうしたらいいでしょう?】
アッサリと私の言う事を信じてくれるタカフミさんに、本当に海千山千の芸能界の事務所社長なのかと思ったが、私はそのまま
「ハハハ、そうですね。お互いに年齢も年齢ですから、気をつけないとですね」
【今は気づいてないフリをしましょう。私の開業届はPCがあれば可能ですか?】
「ははは、本当にそうですね」
【はい、ネットに繋げるならば可能です】
「そうだ! 商談も重要ですが、どうですか、これから家に来ていただけますか? 何だかタカフミさんとは初めて会った気がしないんですよ、良かったら今日は家でとことん飲みましょう」
【生前の母がネット回線をそのまま残してくれていましたので、繋がると思います】
「おお、よろしいんですか? それじゃお言葉に甘えようかな。私もタケフミさんとは昔からの知り合いのような気がしてるんです。あ、でも私はお酒は弱いのでお手柔らかにお願いしますよ」
【それならばタケフミさんの家で行いましょう!】
しかし、この人は何て素直な人なんだ。いくら妻が連れてきたとはいえ、初めて会った私の話をここまで信じてくれるとは……
とりあえず話がまとまり部屋を出た私とタカフミさんを見て弥生が言う。
「アラ? もう終わったの?」
「いや、タケフミさんのお持ちのPCから手続きをした方が、後々の事を考えるといいだろうって事になってね。今からタケフミさんの家にお邪魔する事にしたんだ。弥生も一緒に来てくれるかい?」
私はこの部屋にも盗聴器が仕掛けられているのを既に確認していたので、この会話は盗聴器に録音されないように【空間魔法】を使用した。
タカフミさんがサラッとそう言うと弥生も乗り気になったようだ。
「分かったわ! 軽食なんかを用意したらいいのね」
そう言うと弥生も立ち上がり、私たち2人についてきた。正直言ってついてきてくれてホッとしたよ。
それから勝手口から私の家に向かい、家に入る。そして、私は自分の家も【魔力感知】と【電波感知】を使って調査してみた。幸い、私の家には何も仕掛けられてないようだった。そこで私は結界を張って、私が信用する者しか家には入れないように設定した。
ちなみに結界は【空間魔法】と【光魔法】を組み合わせた魔法だ。
「で、一体どうしたの?」
私が魔法を使用している間に弥生がタカフミさんにそう聞いている。子供の頃も勘の鋭い子だったが、そこは今でも変わってないようだ。
「いや、実はタケフミさんが家に盗聴器が3個も仕掛けられてるって教えてくれてね。それで、タケフミさんの家ならばと思って、コチラで開業届を出す事にしたんだよ。しかし、凄いねタケフミさんは。こんな優秀な探偵さんがお隣に住んでたなんて、弥生も凄いけどね」
見当違いの事を言うタカフミさんに弥生は得意気に
「フッフーン、そうでしょ、そうでしょ! もっと出来る妻を褒めなさい!」
なんて言ってる…… バカップルを見せられてる私の立場は…… 私はタカフミさんの間違いを訂正する為に夫婦の会話の間に割って入った。
「すみません、タカフミさん。あの部屋に仕掛けられてるのが3個で、家全体ならば12個仕掛けられてます……」
弥生が叫んだ!
「ええーっ!! それじゃタカフミさんとの愛の雄叫びも聞かれてるのっ!?」
あ、愛の雄叫びって…… ちょっと聞きたいと思った私は猛烈に自省したが、タカフミさんが弥生の叫びに顔を赤くしてる。
「ま、まあ取り敢えず、無効にしたからもう大丈夫だし、仕掛けた人も分かったしその人が持ってる今までの音声データも消去したから」
私がそう言うとキッと私を睨みつけ、弥生が言う。
「タケ
私じゃないんだからそんなに睨まないで欲しいな…… 私は苦笑しながら言った。
「今も第二会議室? で仕事をしてる2人だよ」
私がアッサリとそう教えたら2人とも叫んだ。
「エエーーッ!!」
いや、そんなに叫ばれても、事実だからしょうがないよな。しかし私の開業届は今日中に出来るのだろうかと、私はそちらが心配だった。
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