【完結】暑苦しい公爵子息に告白されました
シルフィア・バレンタイン
第1話 デートの取り決め
ある晴れた日の昼休み、セブリアン伯爵令嬢のパウリーナはサングレイシア王国の大貴族、フラベル公爵家のハンスから告白された。
そして、承諾も拒否もしていないのにデートの約束を取り付けられた。これに関しては告白の答えを父親と相談をしてから回答をしなければならないので、返答までに時間がかかるから、それ自体に問題はない。
しかし、行き先が行き先だ。流行りのスイーツ巡りや買い物巡り、はたまた静かな図書館デート。
年頃の令嬢の憧れのデートスポットはこんなものだ。
それなのに、彼が出した行き先はまさかの魔獣退治で、しかも何も言わずに決められてしまった。
「学園には魔獣はあまりいませんが学園から出てちょっとあるいたところに狩りやすくて訓練になる手頃な強さの魔獣が群棲している区画があるんですよ。あなたも騎士ですから魔獣退治は一番楽しいでしょう?」
「···そっ、そうですね」
そんなわけないでしょう!と叫びたくなった。確かに私も一応騎士だから魔獣を狩ったりはしているけど、楽しくてやっている訳じゃなくて領地のために、農作物と平民たちのためにやっているんです!
男の子の社交だったらそれでも成り立つかもしれないけど女性との社交、ましてデートで盛り上がるわけがない。
ハンスという名前にわたしが持っているイメージの通りに、彼が爽やかで女の子の心を汲み取ってくれる素敵な男の子だったら良かったが、生憎彼はその真逆、強引なところがあって暑苦しいことで有名だった。
確かにサングレイシア王国内での領地順位三位の領地の次期領主だから一般的には魅力だと思う。実際、学園の令嬢たちは今は侯爵位以上の継承者が学校にいないため、ハンスに群がっていた。
だが、わたしにはあまり関係のないことだ。権力よりも愛とお金の方が大事だと思うし、わたしはシルヴェスト王国領地順位四位のフェリシス公爵の姪として、そこそこの権力を保持している。
「そうと決まれば、日取りを決めてしまいましょう。次の学園の休日でいいですか?」
「その日は空いていますが、わたしはあまり騎士として優秀ではないのですけど····」
そもそもわたしの本来取っている学科は高等文官科で、騎士科を受講しているのは「騎士の動きを知っていれば将来の文官仕事にも役立てられる」というお父様の助言があったからだ。
実際、騎士科の実技は最下位に近い点数で、学年上位の座学がなければ進級すら認められなかっただろう。
「問題ありませんよ。俺が守って差し上げます」
今のはやんわり断りを入れる際の定型句だが、どうやら通じなかったようで、口調こそ優しげに聞こえるのに間の取り方からは強引さを感じる。
これははっきり断りを入れないと駄目だと気づいていたが、自分よりも身長が30センチくらい高くて強面なハンスに断りの言葉を投げるのは、人とコミュニケーションをとるのが苦手なわたしにはあまりにも難易度が高すぎた。
「あ、ありがとうございます」
本音は隠れてしまい、代わりに消え入りそうな声だの感謝が飛び出た。
まだ、「時間が」とか「用事が」とかが出ていればもう一度話すチャンスが在ったかもしれないが、これでは同意をしていることになってしまう。
「では、当日は此方からフェリシスの寮に迎えに行きますから、騎士服に着替えて待っていてください。告白の件について考えておいてくださいね」
わりと一方的に会話を完結させてから、ハンスは別れの挨拶もせずに騎士科の授業会場に行った。
午後は授業もないので図書館でゆっくりと本でも読もうと思っていたけど、公爵子息からの告白という一大事が起こったために諦めて、寮に戻ってお父様に相談することにした。
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