彩る夜に結ぶ

浅葱咲愛

第1話 プロローグ

 雨の音が聞こえる。


 地面は冷たくて、空気もひんやりしている。


 灰色で暗い場所。その中に青の小さなかたまり。ぼやけてその輪郭ははっきりとは見えない。


 青いかたまりに手を伸ばし引き留めようとする。


 「またいつか会える。だから・・・」


 そう言うとそれは消えてしまった 





     ・      ・       ・




「早く起きろ」


上からうるさい声がする。まだ眠いのに。


彩夜あや今日から学校だろ。布団にもぐるな!」


包まれているものが引っ張られて顔に冷たい空気が触れる。寒い。布団の中が心地いい。


「・・にいちゃん、あと30分」


「また寝るな!」


「あっ!」


くるまっていた布団を取られてしまった。3歳上で高校一年生になった兄は背が高い。こうなると取り返すのは難しい。


「今何時だと思ってる? 7時だからな。今日は遅刻するわけにはいかないだろ」


「えー」


起き上がって渋々学校の準備を進めた。






彩夜芽あやめ、大丈夫か」


家から出る前、お兄ちゃんは心配そうに聞いてくる。


私はハーフでもないのに金色の髪に碧眼だから目立ってしまう、それをお兄ちゃんは昔から心配していた。


「うん。慣れてるから」


そう言っても心配している。お兄ちゃんは私を可愛がりすぎだと思う。


「学校で何かあったらすぐ」


「わかったから」


兄の言葉を遮り新しい白い靴を履いて玄関を出る。


お兄ちゃんも玄関に出てきているのを見ると一緒に学校へ行く気らしい。


「行ってきまーす」


「いってらっしゃい」


家の奥からおばあちゃんの声が帰ってきた。


「お兄ちゃん、私中学生になったんだよ?」


今日は初めての中学校での授業がある。小学校から持ち上がりでメンバーは変わらないけれど少し緊張する。中学校の先生は怖いと有名だから。


「どうせ学校隣なんだしいいだろ?」


お兄ちゃんはなんでもできて顔もいい。妹の私が言うのもなんだけど完璧だと思う。


ただ一つ残念なのは重度のシスコンであること。と友達のお姉ちゃんがよく言っている。


春の心地のいい風が吹いて長い髪が揺れる。


その拍子に、バッグに付けていたキーホルダーの飾りの石が外れ、アスファルトの上でカツンとはねる。そのまま転がって草の上を跳ねながらコロコロと川のほうへ行ってしまう。


慌てて追いかけて、やっと掴んだとき、雨上がりの濡れた草に足が滑り、


「彩夜芽!」


お兄ちゃんが手を伸ばしてくれたけど届かず川の中へ落ちた。夏になったら友達と遊ぶ川。


そんなにこの川は深かっただろうか? 


いつまでも川底に体がつかず・・・ずっとずっと沈んでいった。










目を開けると木がいっぱいだった。ちゅんちゅんと鳥の声が聞こえる。森?だろうか?


なんでこんな所に倒れているんだろう? そういえば飾りの石を追いかけて川に落ちてそのあとの記憶がない。


「よかった」


手の中にはちゃんと石がある。キーホルダーはお兄ちゃんが作ったもの。作り方が甘くて外れてしまったのだろう。


ここは・・・裏山のどこかだろうか? 


ここら辺は山に囲まれた田んぼばかりの田舎だから川に流されてここにいるのかもしれない。昨日の雨のおかげでいつもは浅い川も深くなっていた。


でも川の音が聞こえない。新しい紺色に赤のリボンのセーラー服はビシャビシャでとても重い。


朝はいい天気だったのに小雨が降っている。あれから時間が経っているのだろうか?


「だれか・・・」


声を出しても返事はない。誰もいないのだろうか? 動きたくても震えて動けない。


暗くて怖い。だんだん雨が強くなって、どんどん体が冷える。4月の雨はまだまだ冷たい。


「!」


雨の音の中に混じって足音が聞こえた。だんだん近づいてくる。


人だろうか? それとも動物やあやかしだったら。何もできない。怖くてすぐ近くの茂みのそばに隠れるように丸くなる。


足音がすぐそばまでやって来て・・止まった?


 「・・・」


顔をあげて足音がした方をみる。するとその人と目があった。


その姿を見て息を呑む。


その人も私と同じように頭から雨にびっしょりと濡れていて・・夜空のような濃い青の髪に赤い目。重そうに濡れた和服を来た、まだ私と歳が変わらないくらいに見える少年だった。


          

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