26th ケツダンサクセン

 いやいや、オレがどうなるとかこうなるとか、そんなことはどーでもいい。今大事なのはパパ活の証拠掴みだ。ここまでの証拠でも十分かもしれないが、万一『食事以上』の関係があったときのためにまだ引けない。


 ――そうは言ったって、どのようにプラン建てをすればいいのだろうか。誠に残念なことだが、オレはまだ何も思いついていない。


「二人とも、時間大丈夫か?」


 オレは二人に門限の確認をとる。篦河は言葉すら発さず余裕そうな表情だ。一方の常磐さんは真逆で、どこか落ち着かずにソワソワしている。やはり見た目通りのお嬢様。キツい門限やらなんやらがあるのだろう。


「常磐さん、時間ヤバいなら後はオレたちでやっちゃうけど……」


 オレの言葉に常磐さんはアワアワとさらに慌てる。


「ち、違うの!時間は大丈夫なの!私の家は結構自由にさせてくれるし……!」


 なんだ、そうなのか。これは少し意外だな。


 ――というか、常磐さんの好成績は親による締め付けが大きいのかと思っていた。自由にさせてくれるということは自発的にやってあの成績なのか……?


 素晴らしいじゃないか。親に言われてもなかなかやらないオレとは違う領域にいる。美人で自発的に勉強する……これが完璧な人間か。目的を忘れてアイス食べに行っちゃうけど。尾行という強烈な予定を忘れてアイス食べに行っちゃうけど!!


 オレがそんなひねくれた考えをしていると、続けて常磐さんが言葉を紡いだ。


「ただ、ここまで来といて今更な感じするけど……やっぱり人をストーカーするなんてこと、凄く怖いし緊張するよ……」


 ――前言撤回。文句言ってすみませんでした。そもそもこんなことさせてるのはオレだ。目的を忘れたくらいでウダウダ言っているようではいけない。そんなんだからクズだってレッテルを貼られるんだ。


「確かに巻き込んでるのはオレだし……申し訳ないな……不安ならやっぱり――」


「いや、それはダメ!」


 常磐さんは、続く言葉を遮るように声を張り上げた。


「ここまで来て、今更やめるだなんて言えないよ!私もやる!覚悟決めた!」


 ――いい人だ。DVを持ちかけて来たり、被害妄想を抱いたり、人にお金を貢いだり、パパ活をしたり、自分の彼女がパパ活をするかもしれないって言う日に「行きたくない!」だなんて駄々をこねてみすみす見逃しちゃったりする人たちとは訳が違う。


 オレは心の中で感動し、思わず目が潤う。


 いや、感動している場合じゃない。なんだこいつらは。人をクズ呼ばわりする前に自分の行動を省みろよ!特に最後のやつ!いくらなんでもヘタレすぎるだろ!


 はぁ、イライラする。感動したりイライラしたり……これが情緒不安定というやつか。


「え、えっと……どうしたの裏見くん……?固まっちゃって……」


「あ、いやいや!なんでもないよ!」


 危ない危ない。この怒りは心の奥底にしまっておこう。


「ひへへ……なんか怒ってる?」


「怒ってないっ!!」


 篦河の質問に、オレは少々語気を強めて答えてしまった。しまおうとした怒りがしまいきれなかった。ああ、何をやっているんだオレは……


 でも、怒りかけている時に怒っているかを聞かれると爆発してしまうことってないだろうか?と言い訳してみる。少なくとも今のオレはそれだ。


「ひへへ……恫喝だぁ」


「ち、違う!!」


 もう、いちいち拡大解釈するのはやめて欲しい。まあ、そんなことを言っても改善されないというのは分かるが。


 ――話を証拠取りに戻そう。ご存知の通り、尾行という行為にはどうしてもリスクが付きまとう。では、リスクを極限まで減らすためには何をすればいいのだろうか。あくまで個人的な考えではあるが……計画を練るのが最適だと思う。大層なことは必要ない。


「さて、どう行動しようか」


 オレは二人に議題を投げかけた。二人は少し間を置いて回答する。


「ひへへ……思い切ってお店の中入っちゃおうか」


「――でも、あんな高そうなお寿司屋さんでお金払えるかな……?」


 篦河の提案に常磐さんが反論する。いくらかかるかもイマイチ分からない以上、この案に賛成するのは少し気が引ける。


「ひへ……確かにさっき服買うのにお金使っちゃったし……」


「オレも三人分払えるお金は無いな」


「ひへぇ?糸振さんにお金貢がれてるのに?」


「余計なこと言うな。別にアレはオレが進んでやってる訳じゃないからな」


 一人分だったら払えるとも知れないんだけどな。三人分となると確実に払えないな……


 ――ん?一人分?


「三人で行く必要はないよな?目立つし」


 オレの言葉に常磐さんも篦河も「たしかに」「そうだね……」と賛同する。そして、しばらくの沈黙が流れる。


「オレは嫌だぞ」


「ひへへ……あたしもいや……」


「――私もやりたくないよ」


 バレたら終わりな以上、三人とも歓んでやろうとはしない。


「ひへへ、でも高いお寿司食べれるんだよ?」


 ――確かに、それは魅力的な話だ。高級寿司を食べれる高校生なんて世の中に何人いるのだろう。それを考えると誘惑に負けてしまうそうになる。


「いやいや、オレはないよ。銀河さんに顔バレしてるし……」


 オレがそう言うと、なぜか篦河がニンマリと笑顔を見せた。


「ひへぇ……?逃げるんだ」


「は?」


 篦河は舐めるような視線と声でオレを挑発する。こんなのに負けてはいけない。


「なんの罪もない女の子にリスク背負わせて、自分は呑気に待ってるだけ……そんなの許されないと思わない?」


「――いや、オレもなんの罪もないんだが……」


「うるさいなぁ、こういう時にハッキリ『やるよ!』とか言えないのダメだと思うよ。そんなんだから大事な時に失敗するんだよ」


うっ……痛いところを突かれてしまった。いやいや、こんな言葉に乗せられるわけにはいかない。乗せられるわけには……!


「はぁ!?……分かったよ!やるよ!!」


 ――プライドには勝てなかったよ……簡単に流される性格何とかしないとな……


 かくして、オレは決死の潜入調査の実行が確定してしまったのだった。大丈夫なのか!?

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