20th イロイロクエスチョン
キンコンカンコンとおなじみのチャイムが鳴った。――ついに尾行が始まる。オレは夏来や篦河、常磐さんと共に作戦の確認を行う。
「今回はどうしましょう?」
まずは夏来が口火をきった。それにオレが応じる。
「前回は家の近くに行く人数が多すぎたから、今回は連携して一人が確認するという方向で行こう」
オレの言葉に常磐さんが違和感を覚える。
「と、というかさ?その……銀河さん?が今日パパ活をするって言う確証はないんだよね?」
「うん」
「ええ……?そんなのおかしいよ……」
「いや、行かないなら行かないでそれでいいんだよ。大事なのはパパ活をしている証拠を得ること。それなら、逆にパパ活をしていないことを明らかにするってのもアリなんだ。明日は祝日だから、今日行かないってことも十分な証拠のひとつになりうる」
パパ活には、「欲しいものが簡単に手に入る」という魅力があるのだ。そんなの、とんでもない依存性があるに決まっている。
しかも、明日は祝日と言うだけではなく、三連休の初日でもあるのだ。となれば、今日の夜は世の人の羽振りも良くなるはずだ。相手の男――いわゆる「パパ」もそれは例外ではないんじゃなかろうか。
「まあ、そんな感じで誰かが銀河さんの家に行かなければならないんだが……」
「私が行きます!」
夏来が自信に満ち溢れた表情をしながら叫ぶ。
「いや、お前は来ないってことになってるだろ?それに顔だって知られてるし」
「そ、そうでしたね……!」
「オレも顔を知られてるからなぁ……となると、篦河になるのか?」
オレは篦河と常磐さんを天秤にかける。こんなことさせてる身だし、常磐さんには任せられない。しかし、篦河との出会いはズッコケからだった。それがどうも脳裏にチラついて離れてくれない。
「ここは逃げ足の速い人にした方がいいんじゃないかな?」
常磐さんが言った。こういう一言は場を大きく動かせるのでありがたい。
「いや、あまり目立たないことの方が重要ですよ!」
夏来が元気に主張する。確かに目立たないことはとても重要だ。それを考えると、夏来のような元気印は適任とは言えないだろう。夏来は連れていかないけど。
「ひへへ、やっぱり観察力とか集中力がある人がいいよ」
なるほど、観察力と集中力。たしかに張り込みという行為にはそういう力も必要だな。それで、結局誰に任せようかな……?
「なら、もう一人しかいませんよね!」
「ひへへ、そうだね」
「たしかに」
え?誰だろう。逃げ足が速いとなると篦河では無いだろうし。目立たないってことは夏来でもない。じゃあ常磐さんかな……?いや、うーん……もしかしてこれって……
◇ ◇ ◇
オレの事?いや、自画自賛とかではない。自分のことを「あー!オレって観察力や集中力に長けてるなぁ!」と思ったことはもちろん無い。しかし、現にオレはいま友井家のすぐそばにいる。
「な、なんでこうなったんだ?」
オレは小さく言葉を漏らす。常磐さんの方が適任なんじゃないか?あー、いくら才女とはいえ、別に逃げ足が早いわけじゃないもんな……というか、単純にアイツらがオレに押し付けようとしただけなのでは……?オレを女の子の出待ちをするクズということにしたかった……ということだろうか。――深読みしすぎか。
オレは道の端の塀に寄りかかりながら黄昏てみる。ああ、オレはなんでこんなことをやってるんだろうな〜?ここまでの人生割とマジメに頑張ってきたはずなんだけどなぁ〜?いつの間にか女子の家の前で出待ちするような人間になっちまったのかな〜?――まあ、オレのせいでは全くない。と思いたい。
そんなことをボーッと考えていると、鍵の開く音がガチャっと耳の中に飛び込んできた。
ヤバっ……見つかる。オレは急いで死角へと飛び込んだ。
「ふんふんふーん……今日はしっかりやっちゃうぞ〜」
誰か出てきた……銀河さんだ。ハミングなんかして、ご機嫌だ。しかし、どう見ても学校で見れる姿では無い。ブランド物のバッグ、靴、服……派手な色使いでは無いが、明らかに豪華な装いだ。
凄い。彼女は男性とお話をしたり……何やかんやしたりするだけであそこまでの装いを入手したのだろうか……いやいや、「だけ」だなんて言ってしまったら失礼かもしれない。オレはパパ活という行為がどういうものなのか……どれだけ過酷なのか……それとも楽なのか……そう言ったことを全く知らない。擁護はしたくない。でも、簡単に否定するのも違うと思う。
――とにかく。今は証拠集めだ。オレは銀河さんに見つかることのないようにスマホをサクサクと動かし、篦河と常磐さんにメッセージを送る。
『銀河さん、動き始めたよ』
◆ ◆ ◆
葛が銀河の動きを密かに見つめている頃、篦河心と
「ひへへ、ついに動き出したねぇ……」
「――ね、ねぇ、篦河さん……?本当にこんなことやっちゃっていいのかな?」
「今更迷っているのかい?常磐さん。ひへへ、迷う必要はないのさ。あたしたちは今ひとつのカップルの運命を担うキーマン……いや、キーウーマンなのさ」
「ど、どういうこと〜?」
言織はよく分からず困惑する。普通こういう時は「〜恋のキューピット〜」とかそういうロマンチックな表現を使うものなんじゃなかろうか。
言織は、「そんなことを考えても仕方ないか」としぶしぶ状況を受け入れた。
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