19th カンユーメンバー

 あの尾行から八日が過ぎた。今日が二度目の尾行の計画日。なぜ中途半端な八日なのか。それは、単純に七日だと面白みがないということ、そして明日が祝日であることの二つが関係している。翌日が休みとなれば、夜遅くまで羽目を外してしまうという人が大半だろう。これは恐らく銀河さんも例外では無い。


 昼休み、オレは相言さんと計画の概要について話し合っていた。まずは昨日のうちに考えた計画を話してみる。


「とりあえず、前回と同じようにオレと夏来と相言さんの三人でつけてみましょう。間隔も開いてますしいけますよ」


 相言さんは、オレの一言を全否定するように首をブンブンと振った。なぜか覚悟の決まった顔で。


「やだ!行きたくない!」


「え?」


 相言さんはまるで子供のような言葉遣いで尾行への参加を拒否した。


「俺はいかん!」


「え、えぇ?いや、そんなこと言ったって……」


 あまりに子供っぽい対応に困惑していると、相言さんが理由を説明し始める。


「俺は前回バレバレな行動をしてしまったから行きたくない!!」


 相言さんは堅い意志を持って言い切った。うーん、尾行相手にいちばん詳しいのはこの人なんだけどなぁ……


「そんなわがまま言わずに行きましょうよ」


「い!や!だ!」


 めんどくさいなぁ、もう。まあ、ここまで言ってるし連れていかなくたっていいか。


「じゃあ、オレと夏来で行きますか」


「いや!夏来ちゃんはダメだ!前回捕まっているし、色々バレてるし」


「それだったらオレもダメじゃないですか。思いっきり顔を見られている訳ですし」


「お前は行け!」


「はぁ?」


 意味がわからない。なぜ夏来がダメでオレが良いんだ?いくら夏来が大失敗を犯したとはいえ、オレとアイツにそこまでの差はないだろう。


「一人は経験者を入れておいた方が絶対に良い!だからまだ銀河に知られてないやつと行け!」


「経験者を入れるって話ならいちばん付き合いのある相言さんが行くべきなんじゃないですか?」


「俺は行かないって!これ以上尾行して銀河との関係性悪くしたくないし」


 この人自己中すぎるな。仮にも自分の彼女ならある程度は自分で勝負するべきなんじゃないだろうか。自分の問題解決を他人に委ねるというのは……正直クズな気もする。


 とは言え、このままじゃ押し問答が続くだけだろう。ここは後輩のよしみで条件を飲んでやるか。


「わかりました。そこまで言うならオレとあと何人かで行きますよ」


「本当か!悪いなぁ……こんなこと頼んじゃって」


「いえいえ」


 はぁ、オレはちょっと色々な所に甘すぎる気がする。こんなんだから色んなやつにクズ呼ばわりされちゃうのかな。


◇ ◇ ◇


 五限目と六限目の間の休み時間。オレと夏来はこの後の話をしていた。


「さて!今日は二度目の尾行日ですね!!」


「あ、それがな、夏来……相言さんが『夏来ちゃんと俺は行かない方がいい』って言ってたんだよね」


「ええー!?そんな!酷いですよ!」


 夏来は衝撃を受けつつ抗議しているが、少し考えた末に渋々受け入れたように頷いた。


「――まあ、私は前回失敗していますし……仕方ありませんかね……」


 夏来は少し俯いていたが、すぐに切り替えてまた元気に話し始める。


「それはそうと、代わりに誰を連れていくのですか?まさか一人で行くわけじゃないですよね?葛さんは顔を知られていますし」


 そうだ。オレとあと一人、いや二人くらい連れて行くしかない。誰を誘おうか……まあ、オレの人脈的に誘えるのは二人くらいだもんな。とりあえず誘おう。断られたら諦めよう。


「まあ、こんなこと頼めるのは限られてくるよな」


「そうですよね」


 オレはとりあえず近くにいた篦河に話しかけてみる。


「なあ、尾行しない?」


「――?ついにクズくんもそこまで来たかぁ……ひへへ、アイドルの住居でも突き止めるつもり?」


「すまん、あまりにも言葉足らず過ぎた。先輩の彼女がパパ活をやってるかを突き止めたいんだ」


「ひへへ、面白いねぇ。あたしはやってもいいよ」


 おお、さすがは頭のおかしな女。それにしても、アイドルを尾行するだなんて発想は頭のどこからやってくるのだろうか?常人には理解し難い。


「ひへへぇ……あぁ、クズくんに尾行されちゃうのかなぁ……ひへっ」


 話の跳躍力だけで言えば世界陸上に出れそうだな、この女は。


 さて、まあ一人は予想通り確保出来た。あとはもう一人だ。糸振さんは銀河さんの顔見知り、というか友達なのでNG。となれば、オレが話せる人はかなり絞られてしまう。


 条件に合う人――常磐さんだろうか。というか話したことあるのがこの人しかいない。これは言い過ぎかもしれないが、普段からある程度話しているのは彼女だけだ。


「常磐さん、ちょっといいかな?」


「……!?あ、裏見くん……?どうしたの?」


 常磐さんは篦河とは違って常識人だ。先程のように言葉足らずだととんでもないことが起こるだろう。ちゃんと考えて発言しなければ。


「えっと、オレの先輩の彼女さんがパパ活をやってるかも、って話なんだけど、証拠がまだないからそれを突き止めるために尾行しようか……って流れになってて……とりあえず、オレと一緒に来ない?」


 ――!?オレは何を言っているんだ!?あまりに結論が雑すぎやしないか!?


 常磐さんは顔を一気に赤く染めて困惑している。そりゃそうだ。こんな、「最後だけ聞いたら告白みたいに聞こえること」言われたら誰だって恥ずかしくなる。言ったオレも恥ずかしい。常磐さんは一度深呼吸してフリーズしたオレに言葉を返す。


「び、尾行?『一緒に来ない?』ってストーキングしないって聞いてるってこと?」


「あ、あー、語弊のある言い方はやめてくれぇ……」


 常磐さんはそれを聞いて少し笑った。それから、少し考えてまた回答する。


「いいよ、困り事なんだよね。だったら役に立てるように頑張るよ!」


 よ、良かった。コミュニケーション的に事なきを得たし、問題解決にも一歩近付いた。オレはチャイムが鳴らないギリギリのところで着席し、一時間後に訪れる一大事に備えるのだった。

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